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第44話:プロジェクトマネジメントの持論について考える(2012/04/11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


プロジェクトとして仕事をする機会が増えています。プロジェクトマネジメントの書籍はたくさんありますが、やっかいなことに、こうすればうまく行くという方法はありません。そんな中で、注目されるのが「持論」です。

◆改めて「持論」を定義する

辞書を引くと、持論とは「かねてから主張している自分の意見・説」とあります。このように定義すると実践的に根拠のない説も持論だということになってしまう可能性がありますが、本来の意味は実践知です。

日本のリーダーシップ研究の第一人者である神戸大学大学院経営学研究科の金井壽宏教授は、
リーダーシップ入門」(日経文庫)の中で、リーダーシップの持論を、

「実践から生まれ、実践を導いている理論」

と定義されていますが、まあ、このあたりが妥当なのだろうと思います。ここでは

経験から生まれ、行動を導いている方法論

を持論と呼ぶことにしましょう。

もう少し、持論のイメージを明確にするために例を挙げておきます。

プロジェクトマネジャーのAさんは、過去の経験から、「計画どおりにプロジェクトを進めていくには、計画を作るときには可能な限りステークホルダを巻き込んだ、裏付けのある計画を作ることが重要だ」と考えています。そして、毎回、計画を作る前に重視するステークホルダを決め、コンタクトし、計画の方針を相談しています。それが功を奏し、Aさんが担当するプロジェクトは毎回、問題が少なく、スムーズに進んでいます。

このように経験から生まれ、行動を導いている方法論が持論なのです。


◆なぜ、プロジェクトマネジメントに持論が必要か

冒頭にも述べましたように、プロジェクトマネジメントにこのとおりやればうまくいくという方法はないといっていいでしょう。従って、プロジェクトマネジャーは自分なりに経験を踏まえて試行錯誤し、また、他者の意見を取り入れながら、自分なりの方法を見つけなくてはなりません。多くのプロジェクトマネジャーは頭の中にぼんやりとそのような考えを持っていますが、それを形式化、文書化したものが持論です。

プロジェクトマネジャーが持論を持つことには、以下のようなメリットがあります。

(1)行動のガイドラインができ、速やかに、自信を持った行動ができる
(2)マネジメントのブレを修正できる
(3)プロジェクトマネジャーとしての成長の糧になる


◆ガイドラインとして

持論があれば、プロジェクトの構想や計画、あるいは実行の各段階でのプロジェクトマネジメントを自信を持って実施していくことができます。なおかつ、スムーズに実施できます。これが、持論の一義的な効果だといえます。

著者たちは、「はじめてのプロジェクトマネジメント」は標準やプロジェクトマネジメントの教科書通りでよい。でも、2回目からは必ず、自分の考えを入れようという提案をしています。もともとはプロジェクトマネジャー育成の取り組みで、考える習慣を付けさせる目的なのですが、やっているうちにほんのちょっとでも自分の考えを入れることによって、全体的に自信を持って行動できるようになることに気が付づきました。これは持論の効用だと思われます。


◆プロジェクトマネジメントの物差しにする

二つ目は、持論があることによって、持論通りに(適切に)プロジェクトマネジメントを行っているかどうかを振り返ることができ、もし、ぶれているとすれば修正をすることができます。スケジュールや予算のマネジメントはプロジェクト計画に基づいてPDCAのサイクルを回し、プロジェクトが思った通りに進んでいるかどうかを判断し、問題があれば是正をすることができます。では、しかし、それ以外のマネジメントがうまく行っているかどうかは判断しにくい部分があります。

たとえば、コミュニケーション計画に従ってコミュニケーションは行っているが、何か違和感があるといったケースがよくあります。コミュニケーションが表面的になって、キチンと意思疎通できていないような場合ですね。このような場合には、持論が一つの規範になるわけです。コミュニケーションの持論通りにプロジェクトマネジメントを実施できていないから違和感が出てくると考えることができます。そこで、持論と実際の行動のずれを見つけて、マネジメント行動を修正していくことによって、違和感が解消されていくことが期待できます。


◆成長の糧にする

三つ目は、持論を糧にしてプロジェクトマネジャーとして成長していくことです。持論を持つことによって、持論を適用してみて、その結果に基づいて、自分のやり方を振り返ることができます。もちろん、持論がなくても振り返ることはできるが、持論により振り返りの焦点が絞られます。

重要なことは、多くのプロジェクトマネジャーの持論というのは、プロジェクトの結果に大きな影響を持つポイントを中心にしていることです。たとえば、プロジェクトマネジャーにプロジェクトを成功させる「コツ」はなんですか?と聞いたら、どうでもよいことなど出てこないでしょう。その人が、自分なりにここさえ押さえておけば大丈夫というポイントが出てきます。

つまり、持論を持ち、持論を中心に振り返りを行うことより、プロジェクトを成功させる方法を合理的に習得することができるわけです。言い換えると、戦略的に成長できるのです。この振り返りは内省と呼ばれるが、内省を誘発し、かつ、内省の結果を整理する役割を果たすのが持論だといえます。そして、持論の成長とともに、プロジェクトマネジャーとして成長していくといってもよいでしょう。

ここで注意しておいてほしいのは、内省し、結果を持論として整理することは、持論を変えることに他ならないことです。

もう一度、最初のAさんの例を思い出してほしい。Aさんは、あるプロジェクトでステークホルダと事前に相談をしているにも関わらず、成果に対する認識が全く違って、途中から梯子を外される経験をしました。この経験を通じて、Aさんは事前に調整をして、協力を取り付けるよりは、プロジェクトイメージの共有の重要性に気づいのです。

イメージが共有できれば、ステークホルダの協力の仕方が自発的になってくる。やがて、

「計画どおりにプロジェクトを進めていくには、計画を作るときには可能な限りステークホルダを巻き込んだ、裏付けのある計画を作ることが重要だ」

という持論は、

「計画どおりにプロジェクトを進めていくには、企画段階でステークホルダとプロジェクトのゴールやゴール達成のシナリオを共有することが重要だ」

というものに変わっていきました。

持論とは経験を糧にこのように成長するものです。


◆持論の目的は自らを導き、成長させること

持論という言葉のニュアンスから、エスタブリッシュされた人の方法論だけが持論であるという誤解を持つ人が多いようです。もちろん、それも持論には違いありませんが、ここで言っているのは、一度でも、プロジェクトマネジャーをやった人が、振り返って、次はこのようにしようと考えたとすれば、それも立派な持論だということです。

むしろ、持論を変えないことはガイドラインや状況判断の物差しの観点からも問題があると考えるべきです。たとえば、チームをまとめる持論などはその典型で、「飲みに行って腹を割って話せば、チームをまとめることができる」という持論はもはや通用しません。このような極端な例は別にしても、持論とはダイナミックなものであり、継続的に改善していくことに持論の価値があるといえます。

持論は、共有して他人を導くことが目的ではなく、自分自身の行動を導き、そして、学習し、成長することが目的です。その目的において、自分の持論が他者の持論に影響を与えたり、自分が他者の持論に影響を受けるといった相互学習が起こることは当然ですし、むしろ、それは推進すべきことです。

簡単にいえば、持論は額に入れて飾っておくものではなく、どんどん変えていくものです。自分の過去の考えを捨てて、新しい考えを取り入れるというアンラーニングをコントロールできることにこそ、持論の価値があると考えることもできるし、アンラーニングこそが、プロジェクトマネジャーの成長のポイントだといっても過言ではありません。

持論を作り、使っていく場合には、この点をよく認識しておきたいものです。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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