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第18話:強みを活かしたプロジェクトマネジメント(2010/04/12)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆強みを活かすとはどういうことか

金井壽宏先生の新刊「人勢塾」を読んでいたところ、ストレングスファインダーで有名なギャラップ社のストラテジック・コンサルタント小屋一雄氏の講演の採録があり、なかなか、興味深いことがいくつか書いてありました。ちなみに、ストレングスファインダーはこの本を買えば、Web上で利用できます。

マーカス・バッキンガム、ドナルド・クリフトン(田口 俊樹訳)
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
日本経済新聞出版社 (2001)

同社の事業コンセプトは「強み」を活かしたマネジメントですが、まず、「強みを活かす」という考え方への誤解があるといいます。強みを活かすという言葉に対して、
クライアントの反応として多いのが、「結局やりたいようにやらせることか」という反応だそうです。小屋氏はそうではないと言います。強みを活かすとは

ビジネスや組織の目標を達成するためにメンバーの「才能」をフルに活用する

というのが強みを活かすマネジメントだと言います。ここで問題は、「才能」という言葉の意味です。ギャラップ社のいう才能とは

無意識に繰り返される思考、感情、行動のパターン

です。ギャラップ社では、才能を

アレンジ、運命思考、回復思考、学習欲、活発性、共感性、競争性、規律性、
原点思考、公平性、個別性、コミュニケーション、最上思考、自我、自己確信、
社交性、収集心、指令性、慎重さ、信念、親密性、成長促進、責任観、戦略性、
達成欲、着想、調和性、適応性、内省、分析思考、包含、ポジティブ、
未来志向、目標思考

の34に分けています。これをみれば分かるように、才能とはコンピテンシーに近いものです。

強みを活かすというと、つい、経験や知識、スキルにこだわってしまうことが多いですが、これらに比べると才能ははるかに個人のパフォーマンスを高めるために強いインパクトを持っているそうです。また、知識やスキルは比較的容易に身につくのに対して、才能はなかなか変えにくいそうです。


◆仕事にオールマイティのコンピテンシーは要らない

ここで、重要なことは、コンピテンシーでもそうですし、ギャラップ社のいう才能でもそうですが、すべてを使って仕事をしている人などほとんどいないということです。

ここでポジティブ思考とネガティブ思考に分かれます。日本人は、ポジティブ思考で、欠けているものを気にします。これには2つの意味があるように思えます。

一つは、「みんなで同じやり方をしたい」ということです。同じやり方をしようと思えば、何を持っているかではなく、標準モデルに対して何が足らないが問題になります。弊社でも、10年近く前から、プロジェクトマネジャーのコンピテンシー体系の提供と、それに基づく診断、育成プログラムの提供を行っています。診断の目的は強みを見つけ、強みを活かせる人材育成をすることなのですが、なかなか、そのことを適切に理解してもらえません。ちなみに、弊社のプロジェクトマネジャーのコンピテンシーの体系は以下のものです。

アカウンタビリティ、実行力、問題解決、自信、自己統制、顧客志向、顧客説得、リーダーシップ、戦略指向、リスク管理、バランス感覚、分析思考、アナロジー思考、創造性、現象観察、徹底確認

どういうプロジェクトマネジメントのやり方をするかはさておいて、人材育成としては、とりあえず、コンピテンシーのでこぼこがなくなるようにしたいという要望が圧倒的に多いのです。つまり、どんなプロジェクトマネジメントのやり方でも完璧に対応できるようなプロジェクトマネジャーを育てようとしているわけです。

この考え方を真っ向から否定するつもりはありませんが、非現実的だとは思います。
ギャラップ社の小屋氏も指摘しているように、才能やコンピテンシーはそんなに簡単に身につくものではないからです。


◆プロジェクトマネジメントにもスタイルがある

こんな経験をしたことがあります。SIベンダーのH社は、新規のクライアントS社の開拓をしました。切り開いたのはAさんというプロジェクトマネジャーでした。小さなものから始め、いくつか案件をこなし、信頼を得ることができ、安定してきたということで、Aさんの昇進を機に後輩のBさんが担当になりました。Bさんになったとたんに、顧客がスケジュール通りに対応してくれない、決めたことを簡単に覆すわで、全く予定通りにプロジェクトが進まなくなりました。Aさんが支援に乗り出したら、すぐに正常化しました。しかし、Aさんが手を引いたら再び、スケジュールが遅れ始め、プロジェクトマネジャーの交代論が出てきました。Aさんは巧みに交渉して、顧客に早く意思決定をさせ、また、決定事項の変更に対してもうまく説得して最小減にとどめることをうまくできていました。BさんはAさんからのアドバイスにより、顧客の対応の悪さや、変更に対して同じような対応をしようとし、結果として「できないプロジェクトマネジャー」の烙印を押されたわけです。

Bさんが窮地に陥っているタイミングで、たまたまH社の人材育成のお手伝いをする機会に恵まれ、Bさんと話をする機会ができました。すると、S社の案件を担当するまでに、いくつかのプロジェクトを管理した経験があり、そこではそれなりにこなしていたと言います。深掘りしていくと、Bさんがやっていた方法とAさんの方法は全く違いました。

Aさんは顧客をのせて「やらせるタイプ」でした。弊社のコンピテンシー体系でいえば、顧客説得力や現象観察力、バランス感覚の高いタイプです。ところがBさんは過去のプロジェクトの結果からすると、顧客に意思決定をさせる場合にも小さな意思決定を積み上げていき、全体を作るタイプなわけです。コンピテンシーでいえば、分析思考力や計画力、リスク管理力が高いタイプです。

にも関わらず、BさんはAさんと同じ行動をとろうとしたわけで、ここに問題があることは明らかです。そこで、自分でうまくいったプロジェクトと同じように進めることを進言したところ、状況はかなり改善されました(ただし、やり方が変わったことを良しとしない顧客から、担当をAさんに戻して欲しいという要求があり、結局、Bさんはそのプロジェクトを最後にH社の担当から外れることになりました)。

さて、この例から分かることは、プロジェクトマネジメントは同じ能力がなくても、うまく行くことが多いということです。つまり、プロジェクトマネジメントにはスタイルがあり、自分が得意とするスタイルを見つけて、そのスタイルを磨いていく方がよいということです。


◆戦略がない組織ほど、オールマイティを求める

さて、欠けているものを補強したがるもう一つの背景は、明確な方針や戦略がないことです。上に述べた、同じやり方で同質のサービスを提供するというのは、一つの方針には違いないので、方針がないというのは奇妙に聞こえるかもしれませんが、これは手段の議論に過ぎません。

そうではなくて、目標を明確し、その目標の達成のためにいろいろなことを決めていくことです。例えば、上の例でいれば、目標の一つは顧客が満足するシステムを構築することですが、どうも、手段であるやり方で目標の達成度が変わるような誤解をしています。

強みを活かすというのは、正確にいえば、プロジェクトの目標を達成するために個人の強みを活かしたやり方を考え、実行していくことに他なりません。そのように考えると、当然、それ以前の問題として適材適所という議論がでてきます。その人の強みをどのように使っても、目標が達成できないとすれば、そのプロジェクトでは、強みを活かすことができず、適していない仕事になります。そのようなミスマッチは防ぐ必要があります。つまり、通常のやり方からすると適材適所とは言えないまでも、強みを活かす工夫により目標を達成できるという範囲での強みを活かすなのです。

これに対して目標が明確でない中で仕事をすることがあるという前提で考えると、どんな目標にでも対応できるようなコンピテンシーが必要になってきます。つまり、オールマイティを求め、現状で不足しているコンピテンシーを開発しなくてはならないということになるわけです。


◆スキルは強みにはならないことを認識すべき

われわれは、PM養成講座という6日間の研修プログラムを持っていて、その中で以上のような発想での人材育成の提案をするのですが、なかなか、取り入れられません。その多くは上の2つの理由、加えて、もう一つ、スキルとコンピテンシーを混乱していることが原因だと思われます。

プロジェクトマネジメントの場合には、テクニカルな対応は標準プロセスがあることは普通です。例えば、WBSを作るとか、スケジュールを作るとか、リスクを分析するとか言ったことです。標準プロセスの実行に必要なスキルは当然のことながら、習得する必要があります。

問題は、強みを活かすというのはスキルについて言っているわけではありません。コンピテンシーについて言っているわけです。スキルのもたらすインパクトは大きなものではないので、強みだといえるようなものではありません。ここを理解して頂くのが難しいなと感じています。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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