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第19話:プロジェクトにおけるチームワーク(2010/05/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆日本人はチームワークが下手・上手

いまや、プロジェクトマネジメントに何らかの形で携わっている人で、PMBOK(R)を知らない人はいないと思うが、PMBOK(R)の中にプロフェッショナル責任という概念がある。これはある意味で、プロセスやツールより遙かに重要なものである。
プロフェッショナル責任には、以下の5つがある。

・個人の健全性とプロフェッショナリズムの確立
(Ensuring Integrity and professionalism)
・プロジェクトマネジメント知識ベースへの貢献
(Contributing to the project management knowledge base)
・個人能力の増進
(Enhancing individual competence)
・ステークホルダー間の利害関係の調整
(Balancing stakeholders' interests)
・チームやステークホルダーとの互いにプロとしての協調関係
(Interacting with team and stakeholders in a professional and cooperative manner)

2〜3年前に、日経BPの谷島宣之さんにプライベートセミナーで組織的プロジェクトマネジメントに関する講演して戴いたことがある。その際に、この話をされ、一番できていないのは、チームやステークホルダとの互いにプロとしての協調関係ではないかと思うと指摘されていた。

みなさんはどうお考えだろうか。僕がコンサルティングで企業の方と接している限りにおいては、顧客との関係に悩むプロジェクトマネジャーは多いが、メンバーとの関係に悩むプロジェクトマネジャーはそんなに多くはない。

谷島さんのいうことは間違っているのだろうか?


◆決まった仕事を決まったメンバーでこなすのは得意

この問題の答えは、様々な調査で指摘されている以下のような事実にある。

日本人は決まった仕事を決まったメンバーでこなすのは得意だが、新しいプロジェクトを新しいメンバーで進めていくとなるとさっぱりだめ

たいていのプロジェクトマネジャーは、メンバーを抱え込みたがる。メンバーだけではなく、外注さえも抱えたがる。つまり、決まったメンバーで仕事をしたがるわけだ。もちろん、その方が仕事がうまくいくからである。

ところが、顧客との関係はそうはいかない。カスタマーロイヤリティを追求する戦略もあるが、一般には、顧客は選べない。どんどん、変わっていく。特に、ITプロジェクトのように顧客も広い意味でのチームとして仕事をしなくてはならない場合には、新しい顧客だとうまくいかないことがすくなくない。

このような状況を以て、谷島さんはチームでプロとしての協調関係ができないと指摘されているのだ。


◆同質性へのこだわりと「お客様」

では、なぜ、新しいメンバーだとうまくできないのか?答えは簡単。同質性を求めるからである。平たくいえば、自分(たち)と同じような規範で動くことを求めるからだ。ここ何年か、ダイバーシティ(多様性)が盛んにいわれるようになってきたが、この問題はそんなにたやすい問題ではない。

多くの人は、多様性をネガティブにとらえ、なんとか受け入れようとしているからだ。つまり、本来同質であってほしいのだが、現実的にいろいろな人が関わってくるのでそうはいっていられないという発想だ。そこで、違いを許すが認めない。これが典型的なネガティブな態度だ。

ついでだが、顧客とのコミュニケーションがうまくいかない大きな理由もこの点にある。日本語には「お客様扱い」という言葉があるように、日本には、お客様か、身内かという変な二元論がある。お客様であるかぎり、異質性を許す。身内である限り、同質性を求める。身内にもお客様はいるし、顧客にも身内はいる。身内とは一緒にすばらしい仕事をするが、お客様とはさっぱり。


◆新しいプロジェクトを決まったメンバーで進めていくのでは、、、

この問題の深刻さは、同質か、異質かということではない。

新しいプロジェクトを新しいメンバーで進めていく

の組み合わせになる。新しいプロジェクトがまったくないわけではない。多くの組織は新しいことに取り組もうとする。そこでは、

新しいプロジェクトを決まったメンバーで進めていく

ことなのだ。これが深刻な問題。決まったメンバーで新しいことをやろうとしても、そんなに新しいことはできない。2つの理由がある。ひとつは、決まったメンバーで新しい視点を持つというのは並大抵なことではないこと。まれに、決まったメンバーで、どんどん新しい視点が出てくるチームがあるが、相当、個々のメンバーの頭が柔らかく、多様性の高いチームである。もう一つは、生産性の問題。決まったメンバーで新しいことをやろうとすると、新しいことを学ぶ必要がある。これでは、新しい専門性を持つ人をどんどん巻き込んでいくチームには勝てない。中途半端なことしかできない。


◆戦略性がない故の、最悪のシナリオ

そうはいいながらも、決まったメンバーで新しいプロジェクトをしようとすればまだいいのだが、最悪のシナリオは、

決まったメンバーで、できることをしようとする

という問題だ。人がいないと年中愚痴っている組織は、だいたいこれをやっている。

このように考えてみると、逆に、ダイバーシティーをネガティブにとらえ、同質性にこだわる理由がはっきりしてくる。戦略的発想がないからだ。

現状でできることをやっていればよいのであれば、同じメンバーで同じようなプロジェクトをやっていればいいわけで、ポジティブなダイバーシティなど不要であるし、せいぜい、リアクティブなダイバーシティマネジメントを考えておけばよい。


◆ダイバーシティマネジメントは戦略的プロジェクトの生命線

しかし、戦略的に仕事をする場合にはそうはいかない。戦略を実行するために新しい今までにやったことのない目標を立てなくてはならない場合もあるし、そのためには、新しいメンバーを巻き込む必要もある。

つまり、ダイバーシティーはきわめてポジティブなものであり、異質な人材をうまく活用していくプロアクティブなダイバーシティマネジメントは活動の生命線にあるといっても過言ではない。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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