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第17話:プロジェクトマネジャーのジレンマ(2010/03/31)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆組織を一部だけ変えることはできない

組織というものはひとつのシステムであり、他の部分への影響を及ぼすことなく、システムの一部だけを変えることはできない。ある人が変化を試みているにもかかわらず、属しているシステムが同じ状態であった場合には、その人はジレンマに陥ってしまう。

この南カリフォルニア大学マーシャルビジネススクールのフレーズはモーガン・マッコール博士の

「ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法」(プレジデント社、2002)


の一フレーズです。この本は、マッコール博士が、リーダー育成機関として欧米No.1の評価を得るCenter for Creative Leadership(CCL)でリサーチ部門のトップだったときの調査結果を中心にまとめた本です。

人材育成、特に、リーダーの育成をする際には、この指摘は極めて本質的なものです。10年近く、プロジェクトマネジメントの普及の仕事をしてきて、改めて、マッコール博士の言葉の重さを痛感しています。


◆プロジェクトマネジャだけが変わってもプロジェクトマネジメントは変わらない

上の文章をプロジェクトマネジメントを念頭におき、書き換えてみましょう。

組織というものはひとつのシステムであり、他の部分への影響を及ぼすことなく、プロジェクトマネジメントを導入することはできない。あるプロジェクトマネジャーがプロジェクトマネジメントの適用を試みているにもかかわらず、属しているシステムが同じ状態であった場合には、そのプロジェクトマネジャーはジレンマに陥ってしまう。

たとえば、こういうことです。プロジェクトマネジメントを導入して、計画的に業務(プロジェクト)を行うことにしました。プロジェクトマネジメントの話は、トップリーダーやトップに近い人が言い出し、現場のトップが検討し、現場にやらせるのが一般的です。

このときに、現場のトップ、つまり、部長とか、課長は、経営側のマネジャーと、現場のリーダーの両方の顔を持っています。問題の本質はこのときに、現場トップがマネジャーの立場をとるか、リーダーの立場をとるかにあります。


◆現場トップの2つのスタンス

つまり、経営側のマネジャーとして、経営としての認識する現場の問題をプロジェクトマネジメントで解決するしようとするのか、あるいは、現場のリーダーとして、自らがプロジェクトマネジメントに取り組むと同時に、部下や上位組織を変えていくのかという選択です。

前者の場合、もっとも重要な仕事は、プロジェクトマネジャーの育成です。後者の場合、プロジェクトガバナンスのマネジメントです。

残念ながら、これまでほとんどのマネジャーは前者、つまり、経営側のマネジャーの立場をとってきました。これが間違いだと思いませんし、多くのプロジェクトマネジャーが育ち、現場でプロジェクトマネジメント継続的改善のサイクルが回るようになった組織も少なくありません。大きな成果です。


◆プロジェクトマネジメントを経営の成果につないでいくには

しかし、同時に功罪の罪の方として、マッコール博士の指摘する問題を引き起こしています。弊社のセミナーにきていただけるプロジェクトマネジャー、研修やコンサルティングなどの機会に接するプロジェクトマネジャーと10分話をすれば、この問題に起因する愚痴を聞き出すことができます。

プロジェクトマネジメントの効果をもっと大きな経営の成果につなげていくためには、このジレンマの解消に着手する必要があります。

かなりの企業はこの問題に気がつき、ガバナンスの強化に取り組み出しました。しかし、ここでもう一度、同じ選択をしようとしている企業が多いのです。つまり、経営側のマネジャーとしてガバナンスの強化に取り組もうとします。つまり、モニタリングを徹底することによって、ガバナンスを強化しようとしています。

モニタリングが不要などというつもりはありませんが、このアプローチは間違いです。モニタリングの強化である程度のガバナンスの強化は可能です。しかし、それは管理のための管理をもたらします。


◆モニタリングを強化するのではなく、ガバナンスを強化する

たとえば、プロジェクトスケジュールが遅れていることがどのような問題か分からないままにモニタリングをするということは、単に計画通りかどうかという判断をしているに過ぎません。問題はそこではありません。それが経営に何をもたらすかという判断です。モニタリングによりこれをきちんとできる企業はまだ、そんなにないと思います。なぜなら、スケジュールが積み上げであり、計画に経営の意図が反映されていないからです。つまり、スケジュール遅れは単に計画からの差異であって、それが経営的にまずいものか、許容できるものかが分かるような計画になっていないのです。プロジェクトマネジメント情報システムを導入し、立派なシステムを作ってみても、せいぜい、リソースの最適化とキャッシュフローの把握ができるだけで、本当の意味でのコントロールはできません。

このように考えてみると、ガバナンス強化のためにすべきは、モニタリングの強化ではなく、戦略整合(アラインメント)の強化であることは明白です。

もう、そろそろ、この問題に舵をきり、組織全体を変えていきましょう。現場のプロジェクトマネジャーがジレンマで泣かないように!

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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