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第175話:プロジェクトのエンゲージメントマネジメント(2021/05/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆PMBOK(R)のエンゲージメントの取り扱い

PMBOK(R)では第5版からステークホルダーマネジメントが新しい知識エリアになって、エンゲージメントが注目されるようになってきました。ステークホルダマネジメントにおいてはエンゲージメントは、計画プロセスのエンゲージメントの計画、実行プロセスのエンゲージメントのマネジメント、監視コントロールプロセスのエンゲージメントの監視という形で取り扱われています。

ちなみに、第6版のステークホルダーマネジメントは以下のプロセス群として構成されています。

立上げ:ステークホルダーの特定
計画:ステークホルダー・エンゲージメントの計画
実行:ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント
監視コントロール:ステークホルダー・エンゲージメントの監視

エンゲージメントの計画とは

「プロジェクト・ステークホルダーのニーズ、期待、関心事項、およびプロジェクトへの潜在的影響に基づいて、プロジェクト・ステークホルダーの関与を促すアプローチを決定すること」

です。エンゲージメントのマネジメントとは

「プロジェクトを通してステークホルダーとコミュニケーションし、ステークホルダーのニーズや期待を満足させることでプロジェクトへの関与を強化すること」

です。また、エンゲージメントの監視は

「ステークホルダーとの関係性を監視し、マネジメント戦略や計画を調整すること」

です。

このようにエンゲージメントは、ステークホルダーマネジメントの中核概念であり、PMBOK(R)でも初期のバージョンから使われている概念です。


◆ステークホルダーという概念

ちょっと脱線しますが、PMBOK(R)の日本語版では、エンゲージメントに「関与」という言葉を当てられていることが多いですが、この言葉は適切かということが議論になることがあります。ちなみに、他によく目にする言葉は、例えば「巻き込む」という言葉を当てる人もいます。

この背景には、ステークホルダーという概念の食い違いがあるように思われます。プロジェクトステークホルダーという概念は、プロジェクトという主体概念があり、そこに何からの形で関与する人はすべてステークホルダーです。プロジェクトマネジャーもプロジェクトチームのメンバーも顧客も上位組織もプロジェクトのステークホルダーです。

最近では少し変わってきましたが、日本人の感覚として、プロジェクトはクローズな活動であり、チームと外部の人たちを明確に区別する傾向がありました。つまり、プロジェクトの活動は成果物を生み出す作業であり、チームが行う。そして、外部者は協力して貰うことがステークホルダーマネジメントだと考えてきたわけです。このように考えると、エンゲージメントは協力を得るという考え方であり、もう少し密接にすると巻き込むという考え方になってきます。


◆エンゲージメントとは

ところが、プロジェクトはプロジェクトチームを示すものではなく、概念的な存在です。日本語には「場」という言葉がありますが、場に近いものです。つまり、プロジェクトの本質はオープン性にあり、誰もが(一定の手続きを経て)自由に参加したり、退去したりできる場です。

このように考えると、エンゲージメントはプロジェクトチームに対して、関与したり、巻き込んだりするものではありません。関与という言葉は微妙ですが、第三者的な意味合いであれば違います。

ステークホルダーはすべてプロジェクトの主体者なのです。したがって、エンゲージメントはプロジェクト側からはステークホルダーは成果を大きくするものであると同時に、プロジェクトもステークホルダーになんらかの利益を与える関係です。

このような概念を表現するには、「貢献」という言葉が適しているように思われます。一般にエンゲージメントは

「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」

と定義されますが、これはプロジェクトのエンゲージメントにも当てはまることです。さしむき、

「ステークホルダーとプロジェクトの利益の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」

といったとことでしょうか。


◆目標では動かないプロジェクトもある

プロジェクトがチームであれば、プロジェクトは目標管理で動かすことができます。実際に成果物と達成スケジュールを決め、それを目標にしてプロジェクトをチームを動かしていることが多いのが現実です。

ところが、これでは動かないプロジェクトも多くあります。典型的なのは、ユーザの要求を実現していくITのようなプロジェクトです。当たり前ですが、このようなプロジェクトはユーザが計画通りに自分たちの要求を決めてくれなければ計画通りに進みません。実際に、そのような問題に巻き込まれているプロジェクトはよく見かけます。

これに対して、ステークホルダーマネジメントとして、「ユーザとのコミュニケーションをとりながら作業を柔軟に進める」とか、「自分たちで顧客の代わりに考えて提案していく」といった工夫をしています。しかし、これはステークホルダーの捉え方が不適切であると考えるべきでしょう。

つまり、ユーザ(顧客)はプロジェクトの外部者であり、何とかプロジェクトチームの思っている通りに動かすことがステークホルダーマネジメントだと考えていたのでは本質的な問題の解決にはなりません。プロジェクトを開いた場であると考え、顧客もプロジェクトの主体者だと考えて対処して初めて解決になります。

もちろん、これは顧客に限ったことではなく、全てのステークホルダーがプロジェクトの主体者となり、プロジェクトに貢献できるような存在になることによって、プロジェクトは成功します。これこそ、エンゲージメントに他なりません。

以上のようにエンゲージメントを考えると、プロジェクトマネジメントにおける目的に考え方が変わってきます。


◆プロジェクトを目的で動かす

上にも述べましたように、チームは目標で動かすことができますが、ステークホルダー全体が主体者として動いてほしい場合にはこのような目標を設定することは、ほぼ不可能です。

例として挙げた顧客の例であれば、顧客側の作業も目標の一つに入れることが可能ですし、そうしていることが多いです(現実にはコントロールできないので動かないわけですが)。しかし、ステークホルダーの活動の中にはいわゆる作業以外の要素が含まれてきます。例えば、追加予算のように、状況を見ながら意思決定をしなくてはならない活動はプロジェクトでは珍しくありませんが、このような活動は作業の積み重ねではないため、目標にし難い部分があります。

ここで、重要になってくるのが、各ステークホルダーが主体性を以ってプロジェクト全体の様子を見ながら、判断をしていくことです。全体を把握するためには、目的が大切になります。まず、目的ありきで、目的を実現するために、各ステークホルダーが目標設定をし、その目標を達成していくという考え方が必要になります。


◆目的の設定の際にはエンゲージメントが問題になる

目的の設定をする際に留意しなくてはならないのが、「ステークホルダーとプロジェクトの利益の方向性が連動している」ことです。これは、ステークホルダー側からみれば、プロジェクトに貢献することがプロジェクトの成果を大きくするのに役立ち、かつ、自らの利益にもなることです。

すでに述べたように、ステークホルダーをプロジェクトの外部者として位置付けによって発生するプロジェクトとの利益相反は、ステークホルダーを主体者とすれば解消できますが、それを行うのは現実にはなかなか難しいものがあります。

その最大の理由は、目的の設定が「ステークホルダーとプロジェクトの利益の方向性が連動している」ように行われていないことにあります。そのような目的を見つけ出すのはなかなか難しいものがありますが、ここを乗り越えることがエンゲージメントの成功のポイントだと言えます。

ここで思い出していただきたいのは、目的が成果を作り、目標が成果物を作るという関係性です。エンゲージメントを高めることは成果を大きくすることで、これはVUCAな時代のプロジェクトには不可欠です。詳しくはこちらをお読みください。

【PMスタイル考】第158話:プロジェクトの成果と成果物

このようなエンゲージメントができる前提として、プロジェクトがオープンであること、つまり、プロジェクトの情報がステークホルダー全員に共有されており、実践状況も共有できていることが不可欠です。これが難しいとか、非現実的だと考える人が多いと思いますが、エンゲージメントを重視することが、プロジェクトの成果を大きくすることだと考え、ぜひ、実現していく必要があります。

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2.ステークホルダーの特定
 ・(演習2)ステークホルダーリスト
3.影響力の法則(R) ・影響力とは何か?
 ・(演習3)カレンシーを考える
4.概念的に考えて具体的に行動する・コンセプチュアルスキルとは
 ・本質を見極める
 ・洞察力を高める
5.ステークホルダーと良い関係を作る
 ・(演習5)期待と要求のロールプレイ
6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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