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第176話:プロジェクトはパーパスで動かす(2021/06/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆トラディッショナルなプロジェクト

プロジェクトといえば、何か具体的な目標があって、その目標を達成するために行うものだとイメージされている人もいれば、逆に、ミッションがあって、ミッションの達成のために試行錯誤しながら行うものだというイメージの人もいます。

分からないところがどこか、に注目してプロジェクトを整理してみますと、

(1)目標が決まっており、目標達成の方法も分かっており、さらにその目標達成に必要なコストや時間も分かっているプロジェクト
(2)目標が決まっており、目標達成の方法も分かっているが、その目標達成に必要なコストや時間が分からないプロジェクト
(3)目標は決まっているが、目標達成の方法が分からず、従って目標達成に必要なコストや時間も分からないプロジェクト
(4)目的はあるが、目標が決まっていないプロジェクト
(5)目的が曖昧で、プロジェクトを実施することだけが決まっているプロジェクト

の5つに分けることができます。

VUCA時代以前のプロジェクトですと、プロジェクトには製品やサービスの開発が中心で、その場合(1)、(2)が圧倒的に多く、(3)はチャレンジの必要なプロジェクトだと考えられていました。また、(4)、(5)はプロジェクトとしては認可すべきではないと考えられていました。

ただ、例外的に行われていたのは、〇〇変革プロジェクトで、これは(4)のタイプのプロジェクトとして行われることがよくあります。これらのプロジェクトは成功/失敗があまり明確になりません。目標が決まっていないからで、目的を実現できたかどうかには主観的な判断が入るからです。


◆VUCA時代のプロジェクト

さて、ではVUCAの時代にはどう変わるのでしょうか?

(1)、(2)、(3)に注目すると、プロジェクトが始まると、目標や目標達成の方法が変わらないという前提がありますが、VUCAの時代には目標が変わることは珍しいことではなく、その場合、この構図はもう少し複雑になり、以下のようになります。

(1)、(2)のケース:目標が決まっており、目標達成の方法が分かるからスタート
(A1)目標は変わらないが、目標達成の方法が変わり、そのコストや時間が分かる
(A2)目標は変わらないが、目標達成の方法が変わり、そのコストや時間が分からない
(A3)目標が変わっても、目標達成の方法が分かり、そのコストや時間も分かる
(A4)目標が変わっても、目標達成の方法が分かるが、そのコストや時間が分からない

(3)のケース:目標が決まっており、目標達成の方法が分からないからスタート
(B1)目標が変わって、目標達成の方法が分かり、コストや時間が分かる
(B2)目標が変わって、目標達成の方法が変わるが、コストや時間が分からない
(B3)目標が変わっても、目標達成の方法は相変わらず分からない

VUCA時代のプロジェクトは広くいえば、(A1)~(A4)、(B1)~(B3)のすべてですが、VUCA時代らしいプロジェクトだと言えるのは、変化だけではなく、変化に何らかの意味で不確実さが伴うという意味で、(A2)、(A4)、(B1)~(B3)だと言えます。この中で、現実的に多いのは、(A4)や(B3)だと考えられます。

さらに、(4)はVUCA時代のプロジェクトで増えてきて、プロジェクトマネジャーに頭を抱えさせています。つまり、そのプロジェクトを実現することによって何を実現したい(期待されている)のかは分かって(決まって)いるのですが、現実に何ができればそれが実現できるかが分からないというパターンです。プロジェクトの5W2Hでいえば、WHYは分かっているけど、WHATが明確ではないプロジェクトです。その典型は、VUCAの以前からあった〇〇変革プロジェクトです。


◆VUCA時代にプロジェクトのマネジメントのポイント

VUCA時代のプロジェクトマネジメントは、これらのプロジェクトに対応できる方法であることが求められます。これらのプロジェクトのマネジメントは、

・プロジェクトで実現したいことの目的を明確にする
・プロジェクトの目的の実現を最大化するために、目標や目標達成の手法は柔軟に変える
・目的を実現するための活動の決定はメンバーに任せる

という3つの性格が求められます。

その典型はアジャイルプロジェクトマネジメントや、OODAプロジェクトマネジメントです。これらのプロジェクトマネジメントは、目的実現を最大化するために、全体の計画を作らず、オペレーションを積み重ねていきます。

実際に、PMBOK(R)でも伝統的な(計画型の)プロジェクトマネジメントとアジャイルプロジェクトマネジメントの比率が変わってきており、VUCA時代のプロジェクトに対応しようとしている様子が伺えます。今後、この比率はさらにVUCA側によってくることが考えられます。

その中で、課題になるのは、計画型のプロジェクトなのか、VUCA型のプロジェクトなのかの見極めをすることです。何でもアジャイルやOODAでマネジメントすればよいというものではなく、計画型で行った方がよいプロジェクトも多くあります。また、計画型でなくてはできないプロジェクトもあるでしょう。

その中で、ポイントになるのがその組み合わせです。つまり、計画して行うプロジェクトとVUCAなプロジェクトに分けて、全体をプログラムとして実施することが求められます。この場合、その結果をどのように統合していくかが重要になります。


◆センスメイキングのプロジェクトへの応用

さて、もう一度、プロジェクトの分類に戻ります。これまでに触れて来なかったプロジェクトにタイプ(5)があります。これは上で述べたように、VUCA以前であればプロジェクトではないと却下されるべきものですが、VUCAの時代には少し事情が変わってきます。それは、VUCAの時代には、最適という概念がなくなりますし、また、予測することの意味もなくなります。

そのような時代になりますので、何のためにプロジェクトを行うのかということ自体を考えていきながら行うタイプのプロジェクトも出てきます。いわゆる、センスメイキングが必要なプロジェクトも出てくるということです。むしろ、VUCA時代に起こるイノベーションというのは、センスメイキングによって実現されるものかもしれません。その展開は、グーグルの検索や、アップル社のiPhoneでしょう。

これらは、必要性そのもののイノベーションとして生み出されています。つまり、存在意義そのものから作り出されているのです。

実は、VUCA以前にもこのようなプロジェクトはありました。もっともよく知られているのは、3M社が開発したポストイットです。3Mの研究員スペンサー・シルバーは接着剤の研究を行っていました。ところが研究はなかなか思うように進まず、失敗を繰り返してしまいます。中にはたまたまできてしまった「よく付くが、簡単にはがれる」奇妙な接着剤がありました。この接着剤を同社の研究員アート・フライは「讃美歌集のしおりとして使える」と考えて研究を進め、できたのがポストイットでした。このように、用途開発、すなわち、意味付けをしているのです。

このようなプロジェクトマネジメントには、センスメイキングが活用できると考えられますが、具体的な方法はこれからの課題です。


◆目的からパーパスへ

さて、ここまでは目的という言葉を使ってきましたが、ではプロジェクトの目的というのはどう作ればよいのでしょうか?

プロジェクトの目的に求められるのは、以下の2つです。

・プロジェクトの実施の根拠となっている戦略目標を明確に描き出している
・メンバーのモチベーションの源泉になる

前者はプロジェクトは戦略に基づいて行われるものであることを考えると、自然に満たされてきます。

問題は後者です。これは、センスメイキングの議論とも重なってきますが、VUCAの時代のプロジェクトにおいては目標はメンバーのモチベーションには直結しません。むしろ、目標が変動することによって、モチベーションが下がることもあるくらいです。

そこで、そのプロジェクトを実施する理由にその源泉を見出す必要があります。そのためには、単にその事業部や企業の事情では弱いところがあります。特に、ミレニアム世代においては、企業に対するコミットメントが低く、社会的インパクトのある仕事を求めるという傾向があると言われます。そこで、考えるべきことは、

「そのプロジェクトを実施することが社会にどのようなインパクトを与えるか」

が含まれる目的です。このような目的が示されて、かつ、個人の仕事をする意義と重なって初めて、メンバーはモチベーションを刺激されます。

このような目的は一般的にはパーパス(存在意義)と呼ばれます。つまり、VUCAの時代のプロジェクトを動かすには、パーパスが不可欠なのです。

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   6.トラブルの本質を見極め、対応する
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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