◆プロジェクトを目的だと考える人は意外と多い
前回、「プロジェクトは工場かアートか」という問題提起で記事を書いたところ、プロジェクトは目的なのかという意見を頂いた。今回のPMスタイル考はこの問題について議論したい。
【PMスタイル考】第164話 プロジェクトは工場かアートか
プロジェクトを目的だと考えている人は意外と多い。分からなくはないが、結論をいえばそうではない。
プロジェクトは「成果物」を生み出すことによって、あるいは、「目標」を達成することによって、「何か」実現するために行う。「何か」がプロジェクトの目的であり、その実現の仕方は自由である。どのような目標を設定してもよいし、また、マネジメントもPMBOK(R)でもいいし、P2Mでもいい。極論するとマネジメントをしなくてもいい。
◆プロジェクトが手段である例
目的を実現することによって、成果を上げることがプロジェクトの最終ゴールである。一つ、例を考えてみよう。
この数年、自動運転の実現に関心が高まり、自動車メーカ、製造業、IT企業など、さまざまな立場の企業がさまざまなプロジェクトを行っている。これらのプロジェクトは自動車を自動運転にすることを目的としている。
しかし、目的をもう少し抽象的に考えると、自動運転車開発の目的は、バスとは違って一人でも自分で運転せず、仕事をしたり、会議をしたりしながら移動することだ。とすれば、必ずしもプロジェクトの目標は自動運転車でなくてもよい。例えば、Uberのタクシーのようにスマホで簡単に呼べて、運んでくれる仕組みをつくることも目標になり得るし、ひょっとすると路面を走る自動車ではなく、空を飛ぶ自動車も目標になり得る。
このように考えると、プロジェクトは目的ではなく、手段である。
◆プロジェクトが目的だと思い込む理由〜その1
では、なぜ、プロジェクトを目的だと思い込んでしまうのだろうか。
まず、最初に考えられるのが、プロジェクトは絶対に失敗してはならないというプレッシャーである。このようなプレッシャーの中で仕事をすると、その仕事をすることによって実現したいことを忘れて、仕事を終えることがすべてになってしまう。
もともとプロジェクトはそういうものだった。たとえば、プラントであれば、綿密に設計をし、一旦仕様を決めたらQCDの目標通りに作ることがすべてだったし、プロジェクトマネジメントはそのために行っていた。言い換えると、プロジェクトの目的と目標が一致していたのだ。あるいは、成果物を作ることが成果だったのだ。
しかし、VUCA時代にはそうはいかない。PMスタイル考でも何度か議論してきたように、ステークホルダーから期待される成果を実現するためには、成果物を初期の想定から変えなくてはならないことが普通である。
◆プロジェクトが目的だと思い込む理由〜その2
次に、プロジェクトの目的が成果を実現すること以外に重心がある場合がある。ある意味で失敗してはならないというのもそうだし、この10年くらいもっと目立つのはPMBOK(R)というマネジメントフレームワークを使うことだ。
冷静に考えてみると、PMBOK(R)を活用することが成果になるはずはないのだが、そこに絡むのが例えば目標管理である。一時、目標管理の目標にPMBOK(R)を使ったプロジェクトマネジメントをすることといった設定をしたプロジェクトマネジャーをよく見かけたが、こうなってくると、プロジェクトの成果にはならなくても、プロジェクトマネジャー個人の成果にはなるので、混乱してしまう。
このようなことでPMBOK(R)に従ったプロジェクトマネジメントを行うことが自己目的化することがあり、するとプロジェクトは目的になってしまう。
◆プロジェクトが手段である意味
プロジェクトは手段であるとという認識はプロジェクトを進めていく上では非常に重要である。
まず、目的であれば失敗できないが、手段であればうまく行かなければ別の手段を取ればよい。これはプロジェクトの進め方を根本的に変える。プロジェクトを失敗したくないので、達成可能なプロジェクト目標を設定し、それがプロジェクト活動の意味を小さくしていることは多くの企業で起こっている。特に、プロジェクトマネジメントに熱心に取り組んでいる企業はその傾向が強い。
しかし、プロジェクトマネジメントの本来の役割は、うまく行かないかもしれない業務(課題が実現できない業務)をプロジェクトをして実施することによりうまくいく可能性を高めることに他ならない。この本末転倒を変えるには、プロジェクトが目的であるという認識を変え、プロジェクトは手段であると認識し、取り組んでいく必要がある。
◆プロジェクトが手段なら目的は何か
プロジェクトが手段だとすれば、目的は何かという話になる。もちろん、プロジェクト自体に目的はあるが、プロジェクトには常にもう少し大きな目的がある。これは、自動運転車の例で上に示した通りである。
この大きな目的をPMstyleではプロジェクト課題と呼んでいる。P2Mでは大目的と呼ばれている。プロジェクトのデザインをする際には、戦略があり、その戦略を実行するためにプロジェクトとしての課題を設定する。これがプロジェクト課題である。
そして、その課題の実現方法のコンセプトを決め、コンセプトの実現を狭い意味でのプロジェクトとして実施することになる。そのために、目的を設定し、その目的を実現するための目標を設定し、そして目標達成を計画するという流れになる。
◆逆戻りできることが重要
これらの一連のデザインの前提にパーパス(あるいはビジョン)があるという構造になっている。VUCAの時代には課題解決のコンセプトが変わったり、あるいは課題そのものが変わる可能性がある。それは戦略が変わるためである。その場合、もう一度、パーパスに立ち返り、プロジェクト課題の設定から考え直す必要がある。
このようなプロジェクトのオペレーションを行うには、プロジェクトは目的ではなく、課題設定をするための手段であると考えると自然に行なうことができる。くり返しになるが、プロジェクトを目的とするとプロジェクトの初期設定に縛られ、何か問題が起こったときに合理性のない解決策を打ってしまうことが多くなるだろう。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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