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第163話:OKRにおける目標と目的(2020/01/27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆MBOの限界

この数年、Googleやfacebookなど、シリコンバレーの成長企業が取り入れていることで話題になっている「OKR」について調べる機会があって、ウェブで調べたり、何冊か本を読んだりした。今回のPMスタイル考は、OKRの目的と目標、そしてパーパスとの関係について考えてみたい。

OKRとは、

Objectives and Key Results

の略称で、新しい目標管理の方法と位置付けられている。目標管理というとMBOと呼ばれるものが広く普及しており、大手企業であれば導入している企業が多い。MBOは、Management By Objectiveの略で、共通の目的を達成するための仕組みで、従業員が自律的に目標を設定することを基本としている。

しかし、実際にはあまりうまく行っていないケースが多い。

典型的なケースは、以下のように目標が形骸化しているケースだ。部下は期の初めに、その場しのぎの目標を立てる。上司は多くの部下の目標をみる必要があるので、精査せずに承認する。こういう設定をするので、目標の内容が曖昧だったり、不適切だったりする。半期が過ぎて人事評価としてフィードバックの要請があり、上司は部下の目標を覚えていないし、部下も目標設定したときとは状況が変わっており、目標が現実に合っていないことに気がつくというものだ。

MBOのObjectiveは目標であり、MBOを直訳すると、目標によるマネジメントということになる。実際、MBOの制度は目標によるマネジメントを目指しているわけだが、現実は形骸化をはじめとして、うまく行っていないケースが多い。なぜだろうか。


◆ナレッジワークは目標だけでは管理できない

この問題の一つに、目的の不在がある。目標管理はライン作業のように単純な仕事であればうまく行くが、多くの人が行っているのはナレッジワークである。ナレッジワークの場合、適切な目標が設定されれば目標に向かって全力で進んでいけるというほど単純ではない。個別に目標を管理していても、メンバー間のコラボレーションが生まれず、組織やチームの目標を達成できないことが多い。このため、MBOが効果的に機能しない。

この問題を解消するのが目的である。

ナレッジワークの提唱者であるピーター・ドラッカーがレンガ積みの職人の非常に興味深いエピソードを示している。レンガ積みというのは一見、単純労働のようで、実はやり方はかなりバラエティがありナレッジワークである。

ある場所で3人のレンガ積み職人が作業していた。それぞれにここで何をしているのかと訊ねると、一番目の職人は「レンガを積んでいる」と答えた。二番目の職人は生活の糧を稼いでいる」と答えた。三番目の職人は「後世に残る聖堂を作っている」のだと答えたという。

いずれの職人も目標は1日〇〇個のレンガを積むといった類のものだ。しかし、この3人の職人は目的が異なる。目標と目的を同じとしている一番目の職人より、貢献している建築物を後世に残すというより大きな目的を持った三番目の職人の方がモチベーションが高くなり、生産性が向上することは明らかだ。


◆OKRとは

MBOより効果的だとされるOKRの最大の特徴は目的を明確な形で導入したことにある。

OKR自体は極めてシンプルな仕組みだ。1つの目的(Objectives)と、2〜5個の主要な結果(Key Results)の2つから構成される。ここで注意してほしいのは、Objectivesは目的であることだ。目的をマネジメントしている点がMBOと根本的にことなる点である。

本を読んでいると、Objectivesを定性的な目標だという言い方をしている本が多い。そもそも、目的と目標には以下のような違いがある。

目的:最終的に成し遂げようとする事柄であり、目指すべき到達点
目標:目的を成し遂げようするために設けた具体的な手段

これを前提にして考えると、OKRのObjectivesは目的で、Key Resultsがその目的実現のための手段となっていると考えるとすっきりする。定性的であっても目標は手段に過ぎない。従って、Objectivesを目標、つまり手段だとするとMBOと同様に個々に設定した目標を達成するための仕組みに過ぎなくなる。


◆目的である意味

目的であることには2つの意味がある。

一つは、ストレッチゴールという考え方もあって、目標で挑戦すると考えている人も多いと思うが、その源泉は目的にあることだ。そして、もう一つは、目的であれば、異なる目標(主要な結果)を持つ組織やチームでも比較的容易に共有できることだ。

例えば、レンガ積みの仕事で常識の1.5倍の数のレンガを積まなくてはならないときに、目的がレンガを積むことでは難しい。後世に残る聖堂を作るという目的があってこそ、やろうという意欲が沸く。そして、それはレンガ積み職人だけではなく、他の職人とも共有でき、他の仕事もパフォーマンスが向上するだろう。

このように目的は、個人だけではなく、組織やチームのメンバー全体で共有できる仕事の魅力の源泉になるのだ。


◆目的の条件

では、このような形でOKRが機能するには、目的や主要な結果にはどのような条件が必要なのだろうか。

まず、目的であるが、仕事の魅力の源泉としての目的という意味では

・挑戦的
・魅力的

の2つが重要である。また、組織やチームで共有するという意味では、全社や部門、他の部門、他のチームなどの目的と

・整合性

があるということが求められる。


◆主要な結果の条件

また、主要な結果は、目的の実現度合を示すものであるので、

・目的と密接に結びついていること
・定量的であり、計測できること

の2つの条件が必要である。また、主要な結果にはパフォーマンス向上のためのツールとしての側面もあり、この側面からは

・ストレッチゴールになっていること
・重要なものに集中できるような指標になっていること

の2つが重要な条件である。


◆VUCA時代の目的

また、目的に対して、主要な結果という目標設定をしていることは、VUCAな時代においては意味がある。

目的と目標を分けない場合、例えば、半期に1回、目標の達成度合いを確認するような形になる。これだと、MBOのように形骸化しかねないという問題に加えて、VUCAの時代には現実が合わない可能性が高い。

しかし、目的と目標を分けることにより、目標については1週間といった短期のフィードバックが可能になる。そして、推奨されているように3か月に1回くらい、目的を見直せばVUCAの時代においても、機能する目標管理になり得るだろう。


◆パーパスと目的

OKRの説明の最後に、もう一つの目的概念である、「パーパス」とOKRの目的はどのようになるのかということを考えておきたい。

OKRの目的は、組織の目的を実現するために部門、個人で階層構想を作り、上位の主要な結果が下位の目的となるような関係を作っていくような仕組みになっている。その背景には、ミッションやミッションを実現するための戦略がある。

パーパスの場合、上位のパーパスを実現するために、その実行手段(戦略)を下位がパーパスとして設定するということはしない。あくまでも組織のパーパスと部門や個人のパーパスは独立なもので、結果として個人が組織に貢献するという形になる。

この場合、OKRの目的はどちらを考えるべきかという議論になる。これは、経営の本質にかかわる話であるが、VUCAを前提に考えると、パーパスをOKRの目的に設定した方がよいのではないかと考えられる。


◆コンセプチュアル思考がOKRの設定を効果的にする

では、結局のところ、OKRとして効果的な目的や重要な結果の設定をするにはどうすればよいのだろうか。

目的と重要な結果は、コンセプチュアル思考の枠組みで考えると、それぞれ、概念の世界と形象の世界の要素になっている。つまり、目的と重要な結果を行き来し、上記のような条件を満たすものを決めて、実行していくことはコンセプチュアルスキルである。逆にいえばコンセプチュアルスキルが高いと、OKRの導入効果も高まる。

さらにいえば、OKRを有効に活用するためには、マネジャーやリーダー、メンバーのコンセプチュアルスキルを高めるとよいと言える。実は、これがこの記事を書いた理由でもある。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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