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第162話:ワンチーム(2020/01/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ワンチームとは

昨年の流行語大賞は「ワンチーム」だった。このテーマはラグビーワールドカップで大活躍したジャパンが、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ就任後はじめての欧州遠征のチームを編成したときに、15年W杯代表が12人で、初代表は17人であり、新旧メンバーが混在する中で「一体感のある組織を目指そう」と選手らも加わって決めたものだという。

流行語大賞を受賞していからは、テレビ番組はもちろん、ビジネスの場でもこの言葉をよく耳にするようになってきた。これに対して、当事者のジャパンの選手たちは違和感もあるようだ。例えば、日本代表の堀江翔太選手は

「言葉を使えばワンチームになれるというわけではない。どういうふうにワンチームにするかが大事。中身をしっかり考えて使ってほしい」

というコメントをしている。今回のPMスタイル考は久しぶりにチームについて議論してみたい。


◆「ワンチーム」に対する誤解

まず、率直な感想であるが、一挙に普及した感のある「ワンチーム」という言葉は誤解されているケースが多いのではないかと思う。

以前から日本人(特にビジネスパースン)の中では、チームがうまく行っていると思っている人と、全然だめだと思っている人がいる。この違いの大きなポイントはダイバーシティーに対する認識であることが多い。簡単にいえば、チームにはダイバーシティが必要であると考えている人は全然チームになっていないと感じているケースが多く、一様性の方が重要だと思っている人はチームがうまくいっていると感じているケースが多い。

従来、日本では、望ましいチームは一様性の高いチームだとされてきた。つまり、すべてのメンバーが同じ価値観を持ち、同じ行動をすることがよいチームの条件だと考えられていたのだ。いわゆる軍隊型のチームだ。

しかし、21世紀になってからはダイバーシティが重視されるようになってきた。組織やチームがより高い成果を上げるためには、メンバーの多様性があった方がよいと考えられるようになってきた。


◆ダイバーシティの対象

ダイバーシティはもともと国籍、人種、性別、宗教などの違いを受け入れることを意味していたが、マネジメントの中でダイバシティを考える場合にはこれらに加えて、年齢、性格、キャリア、視点、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで創造性や生産性を高めることを目指すようになってきた。

日本企業のダイバーシティに関する取り組みのほとんどは、国籍や性別に関するものである。これは、これまではある一定の大学を卒業した男性が、ほとんど全ての日本組織でリーダーシップをとってきたからだ。経済界も、政界も、メディアも同様で、彼らは、互いに知り合いで、育った環境が似ていて、家族構成も似ている。同じ価値観をもって生活しているために、暗黙のうちに互いを理解することができるのだ。ここに、ダイバーシティということで女性の活用などを入れているが、価値観が理解できず、苦戦しているというのが現実であろう。

つまり、性別や国籍といった基本的な多様性が受け入れにくいわけだが、なぜかと考えてみると意外と単純な問題ではないかと思われる。年齢とか、性格、視点、価値観などが同じことを前提として外国人や女性を受け入れようとしているからだ。

ダイバーシティの推進の中心になっている人事関係の人と話をすると、人事の介入できる範囲は国籍や性別までだとか、まず最初は分かりやすいところで外国人や女性に対するダイバーシティを推進しているという話を聞くことが多い。


◆ダイバーシティの本質は

しかし、性別や国籍というのは表面的な違いに過ぎない。本質的な違いは、性格や視点、価値観にある。もともとダイバーシティは米国で女性やマイノリティの採用を実現するためにとられるようになった考え方であるが、もうその時代は終わっており、マネジメントの一つとして考えられるようになっており、推進の目的は組織やチームの創造性や生産性の向上である。

日本企業でもダイバーシティ活動の目指すところとして掲げているのは、外国人や女性の活用そのものではなく、成果を高めることになってきているが、そこがうまく行っていないのだ。その原因が表面的な多様性を実現する一方で、本質的な多様性に関心を示していないことだ。企業によっては避けているといってもよい。

こういう中で、ワンチームという言葉が生まれてきた。このため、ワンチームという言葉は、男女、国籍を超えてがんばろうという意味で使っている人たちが多いのだ。

言い換えると、個々人は同じ視点を持ち、同じ価値観を持たなくてはワンチームにならないと思っている人が多いのだ。このような意味でこの言葉を使うのであれば、視点や価値観の多様性は生まれず、ダイバーシティなるのものが業務成果を大きくすることもないだろう。単に労働力の不足を賄うためにしか機能しない。


◆ワンチームのポイントは文化の共有

ワンチームのポイントになるのは文化の共有である。「どういうふうにワンチームにするかが大事。中身をしっかり考えて使ってほしい」という指摘はまさにその点である。

ラグビーでいえば、15のポジションがあり、それぞれの役割が異なるし、同じポジションでも特性の異なるメンバーを持っていることによってチームの能力が高くなる。

誤解している人もいるが、各ポジションには理想的なスタイルがあり、それをできる人がレギュラーだと思いがちだが、それは一昔前の話である。今は、ゲームの戦略があり、状況によって戦略を変えることが求められる。すると、一つのポジションに対しても、いくつかのパターンの選手が必要となる。つまり、チームの能力を高めるためにはダイバーシティが不可欠なのだ。

このようなダイバーシティを前提にして、チームとしてうまく連動できるようにするのがワンチームであり、その中核になるのが文化である。


◆文化とは何か

この議論が難しいのは、文化といってもイメージされるものは一つではないことだ。例えば、マサチューセッツ工科大学名誉教授のエドガー・ヘンリー・シャインは、組織文化を

「ある特定のグループが外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または、発展させられた基本的仮定のパターンであり、それはよく機能して有効と認められ、したがって、新しいメンバーに、そうした問題に関しての知覚、思考、感覚の正しい方法として教え込まれる。」

ものだとした上で、可視的なものから、暗黙の目に見えないものまで、以下の3つのレベルがあるとしている。

<レベル1 人工物>
建物や、メンバーの明白な行動パターンなどであり、部外者にも識別できる

<レベル2 価値観>。
グループ内で共有されている「どうあるべきか」という感覚であり、部外者には識別は難しい

<レベル3 背後に潜む基本的な仮定>
これは組織の中で繰り返し有効に機能した信念や価値観。組織の歴史の中でグループ員に共有され、当たり前のこととなり、組織の中では、そのような価値観が「世の中の常識」となり、成功を収めるための「暗黙の仮定」なる


◆レベル3まで実現できてワンチームになる

このレベルでいえば、ダイバーシティとは、レベル1からレベル3までの作り込みであるが、上で述べたように国籍や性別を超えてダイバーシティ活動として実践されているのは、レベル1、せいぜひ、レベル2である。

そして、ワンチームを作るには、レベル3までの文化を実現することが不可欠である。しかし、今はプロジェクトチームや組織の文化は、ダイバーシティーの問題で、それが実現できないでいるのが現実だろう。

この問題へのアプローチとして、国籍や性別に拘らず、むしろ、本質的なダイバーシティである要素に着目して、その具体的な方策を考えることによって多様化していくという方法がある。ダイバーシティーが高くない組織で、なぜかダイバーシティの利いたマネジメントをしている事例をみると、大体、この方法をとっている。

こういう文化を構築しながら、ワンチームを作っていく。これによってダイバーシティの高いチームができてくる。ただし、それには時間がかかる。その点を忘れてはならない。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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