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第150話:プロジェクト型の仕事は、新しいモノ/サービスを創造する(2019/04/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトに分権化される時代

PMスタイル考も今回で150回になる。今回のPMスタイルはプロジェクトに関してマクロなことを考えてみたい。テーマはプロジェクトやプロジェクトマネジメントはこれからどうなっていくかだ。

平成の30年間でさまざまな仕事が分権化され、プロジェクトとして切り分けて実施されるようになってきた。この傾向はこれからも続いていくだろう。特に、プロジェクトスタイルの本家である米国では、この20年くらいの間でフリーエージェントに代表される「ギグエコノミー」が本格的になり、ギグエコノミーでプロジェクトが実施されることが一般的になりつつある。


◆ギグエコノミーとは

ここで、ギグエコノミーについて触れておきたい。

「ハイ・コンセプト」や「モチベーション3.0」など時代の変化の兆候をとらえた文筆で知られるダニエル・ピンクは2000年に

「フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか」

という著書でシリコンバレーを中心に広がっていた「組織に所属しない働き方」について言及している。

ピンクの試算では、2000年の時点でアメリカには1650万人のフリーランス、350万人の臨時社員、1300万人のマイクロ法人がいる。加えて、フリーエージェントの予備軍ともいえる在宅勤務が1000万人以上いるというものだった。つまり、4300万人以上の「組織に所属しない働き方」をする人がいた。

やがて、こういう働き方は「ギグ(Gig)」と呼ばれるようになってきた。この言葉はもともと、ジャズミュージシャンがライブハウスで気の合う仲間と演奏することで、そこから「短期の仕事」の意味が発生したという[資料2参考]。

作家の橘玲さんは、そこには、単に「短期の仕事」をするだけではなく、「自由に好きなことをする」という価値観が加わっていると分析している。

そして、ピンクの指摘から20年後の今では、米国では労働人口の30%近くがギグエコノミーに関わっているという。これは人口にすると1億人に近い人が「組織に所属しない働き方」をしていることになる。

雇用側からすれば、ギグエコノミーではビジネスに必要な人をジャンストインタイムで採用することになり、ビジネスの変化に柔軟に対応できるとともに、コスト削減もできる。一方で労働者側からすれば、一般の会社勤めではなかなか実現できない自分の価値を認めてもらうことができ、さらに会社と社員のような主従関係でなく対等な関係であるといった双方の利益が実現されているのがギグエコノミーの進展してきた理由だろう。


◆ギグエコノミーで組織がなくなるか

ただし、エコノミーがギグ化し、プロジェクト型が業務遂行の主体になることと、それをマネジメントする組織が必要なくなることは別の問題であることに注意しておく必要がある。現時点でもっともプロジェクト型で仕事をするのに適していると考えられているのはコンテンツ制作であるが、その典型である映画の世界で考えてみよう。

映画の世界は1950年代からプロジェクト型に移行したと言われている。今の時代で一般的にいえば、プロデューサーが企画を立ててスポンサーを集め、脚本家と相談しながら作品の骨格を決める。そして、監督と俳優にオファーを出す。監督は、助監督、撮影、音声などの現場スタッフを集めてクランクインし、作品を作り上げる。そして、作品を作り終えるとチームは解散し、次の映画の準備を始める。

これに対して、ギグエコノミーの世界では企業(組織)はフラット化し、管理職はいなくなるという理想を持つ人が多い。たとえば、この10年くらいアジャイル開発が普及してきているが、アジャイル型のプロジェクトに関わっているエンジニアはこのような理想を持っている人が少なくない。


◆現場が自律的に機能しても、組織は必要である

しかし、おそらくそうはならない。映画の世界をみれば一目瞭然で、現場はうまく自律的に機能しているにも拘わらず、映画会社は依然として大きな影響力を持っている。理由は簡単で、現場や個人では膨大な制作費用を管理することができないからだ。つまり投資家からすれば管理してくれる会社があることが前提になっているのだ。

現場のオペレーションのマネジメントとしてのプロジェクトマネジメントは映画がすでにそうであるように、いずれどの業界でも誰も意識せず当たり前に行うようなものになるだろう。あるいは、プロジェクトリーダーなどの現場リーダーが仕切らなくても自然にできるようになるかもしれない。しかし、本来の意味でのプロジェクトのマネジメントは残るだろう。


◆プロジェクトは何のためにあるのか

であれば、何のためにプロジェクトにして行うのかという問題に行き着くが、本来、プロジェクトは新しいモノやサービスを創造するためにある。

日本では20年くらい前からプロジェクトマネジメントが体系的に行われるようになり、その中でしばしば言われてきたのが、同じような仕事に見えてもちょっとした違いがあれば新しい仕事だという主張である。

たとえば、ITのプロジェクトでよく言われるのが「顧客が変われば同じシステムを導入しても新規性がある」という主張だ。これは工程がパッケージ化されていないITにプロジェクトマネジメントを導入するために言っているような一面がある。

今振返って、このような主張は、改善もイノベーションであるという主張と同じくらいよくない影響を与えているように感じる。ちょっとした違いのあるプロジェクトにせよ、改善はイノベーションにせよ、死に物狂いで新しいものを生み出すというマインドを妨げている。

日本企業がイノベーションが起こりにくくなっているのは、このようなマインドが一つの理由になっていることは間違いない。


◆プロジェクトマネジメントとは何か

このような問題の背景にあるのが、会社や組織がプロジェクトを立てて、現場に丸投げしていることである。これは映画の実態を見ていればよく分かる。

映画会社が果たしている役割は「プロジェクトスポンサー」と呼ばれる役割である。プロジェクトスポンサーはある意味でプロジェクトマネジメントでもっとも重要な役割であるが、日本企業はこれを承認と称する形骸化をすることによって、現場のプロジェクトマネジャーに全責任を押し付けていることが多い。

例えば、製品開発であれば、個別の製品開発をプロジェクトとして切り離し、そこに上位組織はいろいろな視点からプロジェクトの企画や計画の評価をするが実行支援はしないという形をとっているケースが多い。すると、一旦、決めた予算やスケジュール、あるいはスペックは非常に動かしにくくなる市場の動向を見て、同じ製品ラインナップ間で調整するということがやりにくい。このようなやり方では、変化に対して柔軟な対応ができない。言い換えると、VUCA時代のプロジェクトの実行には適していない。

新しいモノやサービスを生み出すためには、上位の調整でプロジェクトを柔軟に運用できることが必要なことは明らかだ。そのためには本当の意味でプロジェクトスポンサーシップを確立するような風土が不可欠だ。

今のプロジェクトスポンサーは組織側についている。つまり、組織がプロジェクトに投資をするための実行機能になっている。しかし、本来プロジェクトスポンサーはプロジェクトマネジメント(オペレーションマネジメントではない)の中核であり、プロジェクトの責任者である。プロジェクトスポンサーシップの在り方を真っ先に変えるべきだ。

これからプロジェクト型の業務遂行の価値を高めていくには、ここをよく考える必要がある。


◆参考資料

[1]ダニエル ピンク(池村 千秋訳)
  「フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか」、ダイヤモンド社(2002)

[2]橘玲「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」、PHP研究所(2019)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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