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第146話:組織学習とコンセプチュアル思考(2019/02/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆シングルループ学習とダブルループ学習

今回のサプリは「失敗を活かす」ことについて考えてみたい。よく議論されるテーマであるが、意外と深く考えることは多くない問題だ。

この問題は言い換えると学習の問題である。そこでまず最初に学習に関する2つのフレームワークを2つ紹介しておきたい。一つは、アメリカの組織心理学者であるクリス・アージリスとドナルド・ショーンが組織学習について提唱したフレームワークで、組織の学習にはシングルループ学習とダブルループ学習の双方が必要というもの。

シングルルール学習はすでに備えている考え方や行動の枠組みにしたがって問題解決を図っていくことで、改善はここに含まれる。ダブルループ学習とは、既存の枠組みを捨てて新しい考え方や行動の枠組みを取り込むことである。

この2つを併せて、組織学習は、過去の成功体験における固定観念を自ら捨て、新しい枠組みをダブルループ学習し、それをシングルループ学習によって反復・強化していくサイクルを繰り返すことによって組織は強くなっていくというのが組織学習のフレームワークだ。


◆経験学習

もう一つは、組織行動学者のデービット・コルブのが提唱した「経験学習モデル」である。これは、シングルループ学習において人間は

経験→振返→教訓→適応(→経験)

というサイクルで学習するというフレームワークで、それぞれのフェースには以下のようなスキルが必要である。

経験:新しい経験に関わることへの開放性や自発性(具体的な経験)
振返:これらの新しい経験をさまざまな視座・視点から見ることのできる観察と振り返りの能力(省察的観察)
教訓:この経験から統合的な考えや概念を生み出すことのできる分析的能力(抽象的概念化)
適応:これらの新しい考えや概念を実際の実践に使うことのできる決断や問題解決のスキル(実践的試み)

さて、失敗を活用するというのは上のようなフレームワークで行われるが、失敗を活かすという場合にも組織として活かす場合と個人や個別プロジェクトとして活かす場合がある。今回、議論したいのは、どのようにすれば後者の失敗を前者として活かすことができるかという議論である。


◆個別の失敗を組織に活かす例

このように述べると、ダブルループ学習の話ではないかと思われるかもしれないが、ダブルループ学習はあくまでも組織行動において失敗を活かすという議論であり、個別の失敗を全体にどのように活かしていくかという議論は意外と少ない。

まず、イメージをするために例を考えてみよう。ある組織では業務をプロジェクトで行っている。この組織ではプロジェクトマネジメントは標準的な方法があり、その標準に則り、プロジェクトをマネジメントしている。また、多くの作業においても作業標準がある。

この2~3年、小さなトラブルが増えていた。多くは工数オーバーと、スケジュール遅延である。特にこの1年は大きなトラブルが連続している。プロジェクトAは作業1、プロジェクトBは作業2で大きな問題が起こっているとしよう。

デービット・コルブのモデルで考えると、プロジェクトAは

経験:作業1が想定より工数がかかった
振返:作業1の担当者のスキルが低かった
教訓:作業1は高い担当者のスキルが必要なので確保する必要がある
適応:作業1の担当者はスキルを重視し、組織の内部からの獲得に拘らない

という分析と行動計画になった。プロジェクトBは

経験:作業2がスケジュールが遅れた
振返:作業2のリーダーと担当者とのコミュニケーションが悪く、指示が遅れた
教訓:コミュニケーションは双方向であり、待ちを作らない
適応:仕様の複雑な作業についてはリーダーとメンバーのペアで作業を行う

という分析と行動計画になった。

双方とも、プロジェクトマネジメントの枠組み、あるいは作業の枠組みを変えなくては対応できそうにない問題だ。そこで、アージリスとショーンが示したようにダブルループ学習が必要だ。ここで問題になるのは、2つのプロジェクトでシングルループ学習の内容が異なることだ。

この時、組織としてはどうすればよいかということが問題にある。2つのプロジェクトの経験学習による適応をすべて取り込めばよいのかという問題である。


◆対策を並べてもうまくいかない

実際にこのようなケースでよく行われるのは、

・要員調達の仕組みを変える
・ペア作業を標準化する

の2つを組織として行うというものだ。

ところが、実際にはこのような枠組みの学習をしてもうまく行かない。この2つはある意味で矛盾した施策になっているからだ。簡単にいえば、スキル重視の調達をすれば、コミュニケーションがとりにくい人を選んでしまう可能性がある。

そこで考えたいのは、デービット・コルブのモデルの

。省察的観察
・抽象的概念化
・実践的試み

の3つのステップである。これは、PMstyleのコンセプチュアルスキルのモデルである

・観察
・洞察
・応用

に相当するものである。


◆失敗を概念化し、本質を見極め、対策する

このように考えると、個人や個別プロジェクトにおける失敗と、組織での活かし方の関係が見えてくる。つまり、実際にした失敗を概念化して、失敗の本質を見極め、それに基づいてそのような失敗が起こらないような対策を組織レベルで行えばよい。

さらにいえば、その対策は概念的なものであり、個別プロジェクトや個人によって具体的な行動は変わる可能性がある。すなわち、本質に対する対策の具体化を、個別プロジェクトや個人の具体的に転嫁すればよいのだ。


アージリスとショーンのダブルループ学習モデルでいえば、シングルループ学習と並行して概念化し、仕組みを学習し、さらにその仕組みを具体化して、シングルループ学習にしていくというダブルループを考えればよい。

このように学習とコンセプチュアルスキル(思考)は切っても切れない関係にあることを意識しておけば、組織学習は加速していくだろう。


◆概念化はシステムで

最後になるが、これがピーター・センゲの示した、システム思考を中核にした学習する組織の原理でもある。

近年は概念化するモデルは複雑なシステムであることが多い。これが失敗だけに着目して、改善しようとしても思ったように効果が出ない原因にもなっている。つまり、概念する際にシステムを意識して概念化することが必要になっているといえる。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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