◆定着してきたAI活用
この1〜2年、AI(人工知能)関係のニュースが流れない日はないくらい、AIへの取り組みが盛んになり、多くの企業がチャレンジするようになってきた。これは、80年代後半にエキスパートシステムがブームになり、多くの挑戦がなされたとき以来のことであろう。
30年前と今では学習という点において大きな進歩がみられ、進歩した分、可能性を感じている企業や人が多く、日本でも特にこの1年くらい、取り組み状況が急速に拡大し、AI活用はもはやブームを超えて定着した一つの流れになっている。もはやニュースにすらならないような取り組みが非常に多くなっていると思われる。
◆シンギュラリティの到来予測
この流れの背景にあるのは、米国のレイ・カーツワイルのシンギュラリティの到来の予測である。これは「ムーアの法則」を拡張し、進化の法則はコンピューター・チップだけでなく、宇宙のあらゆる現象に適用できると考え、人工知能に対しては
「人工知能の性能が全人類の知性の総和を越える「(技術的)特異点、シンギュラリティ」と呼ばれるものが、2045年に来る」
と予測したものである。また、シンギュラリティほど話題にはなっていないがならないが、その前の2029年にも「コンピューターの知性が人間を超える」という特異点があるとも予測しているので、シンギュラリティが来るかどうかはこの時点である程度分かるだろう。
◆これから議論される人間とAIの関係
このような中で、一つの課題になっているのが人間とAIの関係である。シンギュラリティの議論はすべての知性においてAIが人間を超越し、代替できるということでは必ずしもない。あくまでも総和の話であり、完全に人間を超越するという話とは限らない。もちろん、コンピュータが人間の思考を代替し、ItoTが思考結果を仲介し、ロボットが行動を代替することにより、AIが人間を代替すると考える人もいるが、おそらく主流ではない。
やはり、人間とAIには得意/不得意があり、補完しあって、トータルで生産性も創造性も向上するだろうという予測が多い。著者もそう考えている。
今後、PMスタイル考でも時々、AIを話題にしていきたいと思っているが、まず、今回は全体的な分担の原則を考えてみたい。
◆創造性は人間、生産性はAI
著者は人間とAIの分担を一言でいえば、創造性と生産性の役割分担になると考えている。この議論の複雑さは、両者は独立しているわけではなく、創造性の向上が生産性を高め、生産性の向上が創造性を高めるという関係があるところである。
この点の議論も今後していきたいと思っているが、ここでは生産性を文字通りの生産性、つまり、モノやサービスをどれだけ生み出せるかであると考えておく。すると、
・創造性により新しいもの(0→1)を生み出すのは人間
・生産性の向上(1→10)を生み出すのはAI
という分担になると考えられる。ここで問題になるのが、人間とAIの協力関係(コラボレーション)である。これについても本格的な議論は別途することにし、ここではこのような分担をするという前提に立った場合にマネジメントにおいてどのような協力関係が形作られるのかを考えてみたい。
◆◆マネジメントにおける人間とAIの役割
結論からいえば、カタカナ英語のマネジメントという言葉はリーダーシップによるマネジメントと管理によるマネジメントの2つの意味で使われているが、前者が人間の役割になり、後者がAIの役割になるものと思われる。
もう少し細かく見て行こう。マネジメント行動を、企画/構想、計画、問題解決、意思決定、対人行動、イノベーションの6つに分けて考えてみる。
これに対して、上の0→1(創造性向上)、1→10(生産性向上)の役割分担をするとすれば、人間とAIの役割分担は以下のようになってくるだろう。
[1]企画/構想
(人間)状況を大局的に把握し、新しい構想をする
(AI)特定の部分に目がつけ、従来の延長線上の構想をする
[2]計画
(人間)より大きな成果を生み出すために、リスクをとり、新しさへの挑戦を加えた計画をする
(AI)網羅的な計画をし、リスク回避を最大限に配慮し、新しいことに挑戦しない
[3]問題解決
(人間)問題の本質をとらえ、解決することにより、目先の問題だけではなく、関連問題を解決する
(AI)発生している目先の問題の解決力に優れ、類似問題の解決も同時に行う
[4]意思決定
(人間)大局的な方向性を考え、必要な情報を収集し、意思決定する
(AI)意思決定の方向性は考えず、ビッグデータを使って意思決定をする
[5]対人行動
(人間)多様な価値観を活かし、信頼関係を構築していく対人行動をする
(AI)客観的な判断により対人行動をする
[6]イノベーション
(人間)既存の製品・サービスやビジネスの枠を超えた発想をする
(AI)既存の製品・サービスに対して決められたパターンで改善点を発見していく
このような役割分担をするとすれば、具体的なマネジメント行動でも人間が行うものとAIで行うものに分かれてくるがその議論はまた、別の機会にしたい。ここでは、この延長線上でプロジェクトマネジメントはどう変わるかを考えてみたい。
◆プロジェクトマネジメントはどう変わるか
0→1と1→10に大きく分かれるということ自体はプロジェクトマネジメントにおいても変わらない。つまり、大きくは
(人間)リーダーシップによるプロジェクトマネジメント
(AI)管理によるプロジェクトマネジメント
に分担されるだろう。問題はプロジェクトマネジメントのマネジメント行動がどのように分担されるかであるが、これはほぼ知識エリアで整理できるのではないかと考えられる。
さっと書き上げてみると
・統合・マネジメント:人間
・スコープ・マネジメント:人間
・タイム・マネジメント:AI
・コスト・マネジメント:AI
・品質・マネジメント:AI
・人的資源・マネジメント:AI
・調達・マネジメント:AI
・リスク・マネジメント:AI
・コミュニケーション・マネジメント:AI
・ステークホルダー・マネジメント:人間
という分担をするのが適切だと考えられる。
もちろん、AIが分担する知識エリアの中でも、統合マネジメントエリアとの取り合いがあるプロセスに関しては人間が行う方が適切なプロセスがある可能性はある。また、プロジェクトによってはあるプロセスは人間が分担した方がよい、あるプロセスはAIで十分であるといったことは考えられるが、原則としてはほぼこのような分担でよいと考えられる。
◆ポイントになるのはスコープマネジメント
現実問題として、プロジェクトマネジャーの仕事は30%がQCDSの計画策定、70%が計画実行のための調整だと考えると、AIを導入することによって、QCDに関する計画や調整はAIに任せることができるようになるだろう。
プロジェクトマネジャーの課題になるのはスコープの計画/調整であり、統合マネジメントやステークホルダーマネジメントを適切に行い、スコープをうまく調整できるかどうかがプロジェクトの成否のポイントになる。QCDの調整は過去の経験に基づいて機械的に行えばよい。
そう考えると、おそらく80%くらいの仕事はAIに任せ、その分をスコープの調整に充てればプロジェクト品質は相当に向上するだろう。言い換えると、このような分担になることはプロジェクトマネジャーとしてもAIにはできないマネジメントにより多くの時間を割けるようになるという点において意義のあることだといえるだろう。
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株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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