◆アート、クラフト、サイエンスの役割分担
前回のPMスタイル考では、ヘンリー・ミンツバーグ教授の
経営とは、「直感(アート)」、「経験(クラフト)」、「分析(サイエンス)」を適度にブレンドしたものである
という指摘を取り上げ、バランスを取る方法として、コンセプチュアル思考が適していることを述べた。
【PMスタイル考】第138話:直感・経験・分析のバランスの取れた意思決定を行う
今回は、この議論をもう少し深めてみたい。
まず最初に、前回の記事に対していただいた質問、どういう風にアート、クラフト、サイエンスの3つの要素を使うのかという問題を整理しておきたい。
これがミンツバーグ教授のいうブレンドのポイントだと考えられるが、もっともオーソドックスなのは
(1)アートにより、ビジョンが生み出される
(2)クラフトにより、ビジョンが実現される
(3)サイエンスにより効率化されていく
という役割分担だろう。
◆ロジックとアートの役割分担
このように使いたい背景には、ロジックとアートの役割分担がある。
よく言われるように、ロジックはビジネスにおける思考の中で欠くことができないものになっているが、一方で最近はロジックだけでは壁にぶつかり、突破できないことが増えている。前回も指摘した通り、顧客の求めるものの変動が激しく不安定で、不確実性が高く、複雑で、曖昧になっているからだ。いわゆるVUCAである。
これまで
「顧客の不満を集める」→「不満を生み出している足らないものを探す」→「顧客が求めるものを探す」→「顧客の求めるものを提供する」
と、ロジックで進めてきたものがVUCA時代ではできなくなってきている。
不満の原因が「絶対的に何か足らないものがある」ということではなくなって、人によって違う、状況によって違うものになっているし、そもそも、不満がない状況も珍しくない。
◆0を1にする
これがVUCAの時代なのだが、すると顧客が求めているものを探すというアプローチ自体が成立しにくくなる。顧客が喜ぶものを見つける必要がある。例えば、前回例に取り上げたiPhoneは顧客の不満から生まれたものではない。
「顧客の不満」から始まる流れは改善の流れ、つまり、1を2や3にする流れだが、0から1を生み出すものではない。今、盛んにイノベーションが必要だと言われているが、イノベーションとは0から1を生み出すことである。1を10にしてもイノベーションにはならない。
0から1を生み出すことはロジックにではできない。つまり、いくら経験があっても、いくら分析をしてもできない。そこにはアート(直感)が必要なのだ。
◆アート、デザイン、サイエンス、テクノロジー
もう一つ整理しておきたいのが、アートとサイエンスと他の近しい活動との関係だ。
特に、アートとデザイン、サイエンスとテクノロジーの関係は整理しておく必要がある。
まず、全体的な話として価値創造の方法なのか、課題解決の方法なのかという違いがある。つまり、
価値創造:アート、サイエンス
課題解決:デザイン、テクノロジー
という軸がある。もう一つの軸がロジックなのか、感性なのかという軸で4つを考えると
感性:アート、デザイン
ロジック:サイエンス、テクノロジー
となる。つまり、サイエンスはロジックで価値創造を行い、テクノロジーはロジックで課題解決を行う。そして、アートは感性で価値創造を行い、デザインは感性で課題解決を行うという整理ができる。
◆アートとサイエンス、アートとテクノロジーの関係
このような整理をベースにして、アートとサイエンスのバランスについては以下のようなことが言える。
すなわち、ものごとをじっくりと観察し、顧客の要求やビジョンの本質を深く理解するためのアートと、本質の上に成り立つ仮説を検証するためのサイエンスを行き来することによってバランスを取っていくことがVUCAな要求に応える方法である。
さらにアートとテクノロジーの関係だが、思考法やプロセスに共通点が多いことが指摘されている。たとえば、
・全体と部分の観察の繰り返し
・常に新しい価値を創造することを試みる
・協調と調和を重視する
といったことだ。このような共通点の背景には、概念的なレベルで考えれば、アートとテクノロジーは同じものかもしれないという仮説があるようにも思えるが、それはともかく、アートで価値創造の絵を描き、テクノロジーで実現(課題解決)するという組み合わせがVUCAの時代を乗り越えていく基本的なパターンといえるだろう。
余談になるが、日本ではデザイン思考はこの逆をやろうとしている。つまり、サイエンスで描いた絵をデザインで(感性的に)実現しようとする(サイエンスの範囲内で、感性で実現をしていく)。これではなかなかうまく行かない。本来のデザイン思考は、アートで描いた絵をデザインで実現していくものだ。
◆アートとテクノロジーの組み合わせとコンセプチュアル思考
さて、アートとテクノロジーの行き来をすることがVUCA時代のビジネスへの対処、顧客要求への対処だとして、これをコンセプチュアル思考で考えてみるとどうなろのだろうか。
まず、前回も触れたように、直観と論理の行き来が、アートとテクノロジーの組み合わせの基本になる。新しいアイデアを創り、テクノロジーで実現していくだけではなく、既存の製品のコンセプトとに立ち返り、新しい実現方法をテクノロジーで模索していくといった行き来もある。
アートの実行に重要な影響を与えるもう一つの軸は、主観―客観の軸である。アートは直感だけではなく、主観も重要な役割を果たしている。これに、技術により客観を実現すると主観と客観の行き来をすることにある。
この2軸が基本になるが、これらによってアートとテクノロジーを行き来する際に、他の軸、大局―分析、抽象―具象、長期―短期の軸も様々な形で使うことが有効である。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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