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第134話:イノベーションはビジョンから!~イノベーションの本質(2018/07/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆イノベーションの本質

「日経ビジネス2018年7月23日号」に共感した記事があった。それは、今も昔もイノベーションの本質は変わらないという趣旨の記事だ。この記事では、井深大(ソニー)、松下幸之助(パナソニック)、本田宗一郎(ホンダ)の3人を偉人だとし、

「3人の偉人が持ち合わせていたのは、それぞれ「Want(欲する)」「Believe(確信する)」「Do(とにかくやる)」という3つの強い意志だ。」

と指摘している。この記事では、スタートトゥデイの前澤氏やメルカリ山田氏に注目し、この3つの本質を突いた活動だとしている。

日本だけではなく、米国でも、アップル、グーグルやアマゾンをみていると、まさにこの3つが本質だというのは納得できるところだ。


◆ロジカルだけでは本質にたどり着けない

ところが、現実には多くの企業では、そのような流れにはなりにくい。著者もいくつかの事案に関わってきてその理由を感じている。アプローチがロジカルなのだ。

・過去の資産(特に技術)を活用する
・市場調査の結果で正当化される

の2つは必ずと言ってもいいくらい求められる。もちろん、これらがイノベーションに不必要な訳ではない。むしろ重要なファクターである。

しかし、一方で、

・自社の既存技術を活用して何か新しいことができないか
・市場のニーズをかなえるにはどうすればよいか

といったことからロジカルに考え始めるようなことでもない。

日本企業において、イノベーションが停滞している理由はここにあるように思えて仕方ない。なぜこのように物事を考えたいかというと、これだとロジカルに考えることができるからだ。

ロジカルに考えることはアイデアを最終的にモノやサービスにするには重要である。
しかし、最初にロジカルに考えると視野が狭くなる。


◆iPhoneが生み出されたのは欲しいものを実現したから

かつて、スティーブ・ジョブズがiPhoneを開発した時に、徹底的にユーザとして考え、ほしいものを実現していったというエピソードがある。だから、10年以上、トップを走る商品ができたのだろう。もし、ジョブズが、Lisa、Macintosh、PowerBook、Newton、iMac、PowerMac、iBook、iPodなど、これまでのアップルの技術やデザインの資産を活かして新しいコンセプトの電話を創ろうとしたら、こうはいかなかっただろう。

つまり、ジョブズには「Want」があったのだ。そして、「Want」を実現するために、アップルの膨大な過去の資産を活用したのだ。その結果がiPhoneである。

この順序こそがイノベーションを生み出すために重要なのだ。大雑把にいえば、まずビジョン、そして、ビジョンを実現するためのロジックが必要なのだ。

ところが、この順序はマネジメントとしては怖いものがある。ビジョンとして掲げたものを実現できないことだ。つまり、失敗することだ。失敗を避けて通ろうとすれば、最初にロジックを使い、

・市場ニーズを満たすには何が必要か
・自社の資産を活用して何ができるか

を決めてしまうことだ。こうすると、かなり失敗する確率は減り、それなりに売れる新しい商品を創ることができる。これが、今、現実に行われている大半のイノベーションだろう。これでは、iPhoneはできない。


◆イノベーションとは「社会構造や人の価値観を変える」こと

冒頭に紹介した日経ビジネスの特集に興味深い指摘がある。それはイノベーションの定義に関わるもので、アンケートをとったところ、イノベーションの定義を「従来にない商品やサービスを生み出す」と考えるのは43%にとどまり、「社会構造や人の価値観を変える」ことだと見る回答者の割合は76%に達したというのだ。

スマートフォンでいえば、前者の代表はGalxyであり、後者の代表がiPhoneだと考えるとわかりやすいのではないかと思う。

違う視点から言えば、「従来にない商品やサービスを生み出す」ためには市場のニーズを汲み取り、それを満たす商品を開発できればよい。しかし、「社会構造や人の価値観を変える」ためには新しい価値観を訴え、受け入れてもらわなくてはならない。


◆ロジカルだけでは「社会構造や人の価値観を変える」ことはできない

つまり、今のロジカルから始めるアプローチでは、前者はできても、後者はできない。
ここがイノベーションが停滞しているポイントなのだ。後者のようなイノベーションを起こすためには、「Want」、つまり、ビジョンからスタートする必要がある。

そして、ビジョンが固まれば、既存の資産の組み合わせをロジカルに行い、できるだけスピーディーに実現していくのだ。ここで、ロジカルな思考の能力が実現のスピードに依存してくることも大きなポイントである。


◆コンセプチュアルが最適なソリューション

さて、では現実問題として以上に述べたようなイノベーション活動をするにはどうすればよいのだろうか。

大きくは2つある。一つは組織のマネジメントの問題で、本当の意味で失敗を前提にするような価値観を持つ組織に変えていくことだ。もう一つは、イノベーションを生み出す、個人、あるいはチームとして上のような思考をすることである。

この2つを括る概念として「コンセプチュアル」という概念がある。これはものごとの本質を考え、実現していくことを意味する概念だ。つまり

・コンセプチュアルな組織を創る
・コンセプチュアル思考で、ビジョンとロジックの行き来をし、コンセプトを創る

の2つを行うことが「社会構造や人の価値観を変える」イノベーションを起こすための近道であるといえよう。



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 1.コンセプチュアルではない組織の問題点
  ・個人レベルの問題点
  ・チームレベルの問題点
  ・組織レベルの問題点
 2.コンセプチュアルなマネジメントのポイント
  2.1 質問型の組織を創る
  2.2 コンセプチュアルな組織活動のプラニング
  2.3 ステークホルダーへのコンセプチュアルな対応
  2.4 コンセプチュアルな人材育成
  2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
 3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
 4.コンセプチュアルマネジメントでコンセプチュアルな組織を創る仕組みワークショップ
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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