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第133話:制約を逆手に取る(2018/05/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆リソースの足らないプロジェクトをいかにやり抜くか

プロジェクトにおいて、「人材」、「資金」「ツール」などのリソースが足らない状況は珍しくない。これを何とかするのがプロジェクトマネジメントだといってもよいだろう。一般的な方法は、QCDSのバランスを取ることだ。つまり、

・コストが少なければ、スコープを縮小する
・納期が短ければ品質を最小限にする

といったバランスを取ることにより、可能な範囲で最大限の成果を目指すわけだ。

また分野にもよるが、デザインやソフトウェアのように生産性が「人」に依存する比率が高いプロジェクトでは、よい人材を確保するという方法がとられることもある。

これらの方法はいずれもプロジェクトの目的の達成度が高い目標を設定するという方向性で進めるものだが、それ以外の方向性はないのだろうか?

そのように考えたときに出てくるのが、

ソースが足らない状況をなんとかするというより、一歩進んで、ポジティブに受け入れ、成果を大きくすることに活用する

という方向性である。そんな夢みたいな話があるはずがないと思われる方も多いと思うが、とりあえず、読み進んでほしい。


◆制約を逆手に取るイメージ

まず、制約を逆手に取るイメージを共有しておこう。一つの例を示す。

今、産業廃棄物の分野で、中国が今年から、30年継続してきた資源ごみ輸入を禁止するというショッキングな問題が起こっている。特に、プラスティック廃材では、全世界の70%以上のプラスティックを輸入し、リサイクル活用してきた国の方向転換であるので、インパクトは大きい。

この事態に対して、多くの国はリサイクルの技術を向上し、自国のリサイクル率を上げることによって対処しようとしている。そんな中で、注目されているのが、イギリスのデポジット制度の導入だ。使い捨て飲料容器(プラスチック、ビン・カン)に対するデポジット制度を導入し、リサイクル率を向上させ、土壌や海洋を汚染する廃棄物を削減するもので、成功すれば環境問題だけではなく、さまざまな問題の解決策になる可能性を秘めている。

このように、中国の輸入禁止という制約に対して、それを回避すべく、開発途上国へ輸出先を探すのではなく、この制約を利用し、より良い状況を創ろうとするのはまさに制約を逆手にとるという発想である。


◆なぜ、アジャイルは生まれたか?

この方向性で、プロジェクトマネジメントの分野で代表的な例だと考えられるのが、アジャイルプロジェクトマネジメントだ。アジャイルは今ではPMBOK(R)に導入されるほどポピュラーな手法になっているが、その原点を考えると、制約を逆に利用することにあった。

製品にしろ、情報システムにしろ、調査をし、企画をし、仕様を決めて、開発していくのが一般的なマネジメント方法だったが、やがて、大きな制約に遭遇することになる。それは、ビジネスの時定数が小さくなりすぎて、開発期間の間にニーズなどの状況が変わってしまうことが多くなるという状況だった。

この問題に対して、最初は要求の分析の精度を上げる、要件定義にプロトタイプを取り入れ要件を固める、変更に対応しやすい構造にするといった技術的な対処をしようとしていたが、そういうレベルの制約ではなくなってきた。

場合によっては、商品を開発する戦略上の目的こそ明確なものの、どうすればその目的を実現できるかが分からない。もっと極端なことを言えば、何か新しい商品を開発したいが、どのような目的でどのような商品を設定すればよいかわからないといったことすら起こるようになってきた。


◆制約を回避するのではなく、受け入れる

ここでアジャイルが考えたのは、こういった制約をいかに回避するかではなく、制約に正面から取り組むことによって成果を大きくすることだった。つまり、最初の段階で開発したい成果物の仕様は決まっていないという制約を設定し、その制約の下で新しく開発された手法がアジャイルだったのだ。

アジャイルによって市場や顧客の要求により柔軟に応えることのできる成果が得られるようになったのと同時に、何度も仕様の調整を行うことによって生じていたタイムロスをなくすことによって、開発時間が大幅に短縮された。まさに、制約を逆手によって、成果の拡大を実現した手法だといえよう。


◆プロジェクトでよくある制約

もう少し細かなレベルでも、プロジェクトで、制約のために思った通りにできないことは少なくない。

一つ例を挙げよう。確保できる工数が足らなくて、考えているスケジュールで、考えているスコープの成果物を実現することは難しいことはよくある。つまり、工数(要員数)か、スケジュールのいずれかが制約になっているわけだが、これを逆手にとる方法がある。それは、一からスコープを見直す、つまり、プロジェクトの目的に対して、目標として決めたスコープを一旦、ご破算にし、目的に立ち返り、活用できるリソースを前提にして、目標設定をし直すのだ。

実際のプロジェクトの流れの中では、目標を決め、実現方法を決め、実現していくという発想でやっている。ゆえにこのようなプロセスでプロジェクトを進めていくのは難しいが、目的から目標設定をし直すこと自体は意外とできることが多い。

もう一つ例を挙げよう。多くのプロジェクトマネジャーが制約と感じているのは人材であろう。よい人材が調達できないことはもちろん、量そのものの調達が怪しくなってきている実態がある。非常に深刻な制約である。

しかし、足らないと認識しているのは、従来の開発方法に適した、従来型の人材である。求める人材像を変えると大きな成果に結びつけられる可能性がある。たとえば、入社2〜3年の社員は何を考えているのかよくわからないという指摘は少なくない。価値観も違うし、発想も違う。であれば、彼らを活かす開発方法はないかと考えてみるのだ。


◆制約を創る

以上のように、そのときに目標は従来通りの成果を生み出すことではなく、彼らでなくては達成できない成果を得る方法を考えるのだ。アジャイルはそのよい例だといえよう。

このように制約を「創り」、利用することで新たな可能性を引き出すことが求められる時代になってきたといえる。



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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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