◆まねる
イノベーションが注目されるようになって、まねることが再び、注目されるようになっている。イノベーションは既存のアイデアの組み合わせであると言われており、まねることと非常に強い関連性があるからだ。
いい意味でも悪い意味でも、日本人はまねることが得意だといわれてきた。良い悪いは別にして、実際にまねから始めて、発展させ、新しいものを生み出してきたのは確かだろう。高度成長期はまさにそのような時期だったといえる。このあたりの話は、井上達彦先生の
「模倣の経営学 実践プログラム版 NEW COMBINATIONS 模倣を創造に変えるイノベーションの王道」、
日経BP社(2017)
を読んでみるとよい。トヨタやセブン-イレブンが採った、手本とする他社の本質を見抜き、自社で生かせる儲かる仕組みを抽出する創造的な摸倣の方法を体系的にまとめた一冊だ。また、井上先生が翻訳された
オーデッド・シェンカー(井上達彦、遠藤真美訳)
「コピーキャット―模倣者こそがイノベーションを起こす」、東洋経済新報社(2013)
もお勧めである。
しかし、一方で、まねはしてもイノベーションが生まれなくなっているという現実もある。どうしてなのだろうか。
そこにはまねるとはどういう行為なのかという問題があるように思える。今回のPMスタイル考は、この問題について取り上げてみたい。
◆守破離とまねる
日本には守破離という言葉がある。これは
守:支援のもとに作業を遂行できる 〜 自律的に作業を遂行できる
破:作業を分析し改善・改良できる
離:新たな知識(技術)を開発できる
というように、人間が作業に習熟していくステップを表現したものだ。
これから分かるように、人は何かやったことのない作業をしようとするときにまず、手本を探し、同じように作業をすることから始めることが多い。これが守だが、この段階ではまねをしながらも、自律的に作業できるようになることが目標になる。製品でいえば、同じような機能や性能、デザインの製品を作れる段階だ。
そして次が破である。破では、守で習得したやり方を打ち破っていく。つまり、標準的なやり方を改良していくことができる段階だ。日本の高度成長期における企業の成長は、製品改善によるものがほとんどだったように思える。製品の機能や性能を向上させることにより、競合に打ち勝ってきたわけだ。
ただし、この破の段階ではイノベーションになるケースはあまり多くない。イノベーションを起こすには次の段階に進んでいく必要がある。それが離である。
離では、新たな知識や技術を開発できるようになる。つまり、これまでのやり方から「何か」を学び取り、新しいものを生み出していく段階だといえる。イノベーションが生まれるのは離である。
このようにしながら、過去の経験を活用し、イノベーションを生み出していくことをまねるというわけだが、トヨタやセブンイレブンといった特別な例を除くと、多くの企業は「何か」が見つけられずに、破から、離に行けずに苦労し、成長が止まっているように見える。では、「何か」とは何だろうか?
◆守破離と本質
答えは「本質」だ。
守破離というのはどのようなプロセスなのかを考えてみると、キーワードになるのが本質である。
守では本質が何かということには気が回らない。ただし、この段階で本質を掴んでいる人もいなくはない。
破になると改善を行うが。改善の中には筋の良い改善、言い換えれば全体への影響の大きい改善もあれば、部分的にしか影響の出てこない改善がある。この違いが離となって現れる。
離において新しい知識や技術を生む出すことができるのは、破において筋のよい改善、つまり本質的な改善をできることが前提だと考えてよい。
◆守破離でまねるには本質の理解と実現が必要
例えば、チェーン店のラーメンを考えてみよう。守ではそのチェーン店のレシピ通りに作れることを目指す。そして、破では、自分の任されている支店なりにスープ、麺、具材等をよりおいしく改善できるようになる。
ただ、おいしさにもいろいろな種類がある。
おいしくして、自分の店を出し、成功できるかどうかは、どういうおいしさを求めるかに変わってくる。つまり、将来、自分のやりたい店のコンセプトをどうするかによる。破がそのコンセプトの本質を見抜き、実現できる改善するステージになっている必要があるのだ。
言い換えると、離は破でみつけた本質を元のものとは違う味、麺や素材で実現することに他ならない。ここで難しいのは、コンセプトやその本質は、具体的とは限らないことだ。例えば、食べた人が元気になるというコンセプトで、その本質は麺の舌触りにあるかもしれない。
このように守破離でまねるには、本質を理解し、新しい姿で実現できる必要がある。
もう一度、日本企業の話に戻るが、イノベーションが起こりにくくなった理由は、おそらく破における改善の方向性が本質からずれてきたからだと思わる。離においてイノベーションを起こしたければ、まず、破においてやりたいことの本質はなにかをじっくりと考えていく必要がある。
そのためにはコンセプチュアルスキルが不可欠である。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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