◆イノベーションとは
コンセプチュアルスキルの必要性への認識が高まってきている。イノベーションの創出、生産性の向上をはじめとする、直面する多くの課題取り組みの行き詰まりの一因が「コンセプチュアルスキルの低さ」だと考えられるからだ。
生産性とコンセプチュアルスキルの関係についてはこれまでに何度か書いてきたので、今回はイノベーションにおけるコンセプチュアルスキルの役割について考えてみたい。
まず最初に、さまざまな場面で使われるにも関わらず定義の不明確なイノベーションという言葉の定義を明確にしておこう。
イノベーションはオーストリアの経済学者だったヨーゼフ・シュンペーターが20世紀初頭に名付けた概念だが、彼は経済活動において旧方式から飛躍して新方式を導入することをイノベーションと呼んだ。
すなわち、イノベーションを「生産手段の新結合」とし、市場における価値を、社会や市場の中から発見することによって実現されると考えた。何もないところからいきなり生み出すのではなく、「結合」、つまりすでにあるものの組み合わせから、これまでなかった価値を作り出すものだというのがシュンペーターの考えるイノベーションである。
この記事ではイノベーションという言葉を、シュンペーターのいうイノベーションの意味で使うことにする。
シュンペーターの考えは、100年経った今でも変わっていない。むしろ、最近は、結合の範囲が拡大し、組み合わせの重要性が高まってきている。
例えば、21世紀の最大のイノベーションの一つだと考えられているiPhoneにしても、もともとさまざまな技術の組み合わせで生まれてきたが、それだけでは成功していない。そこにコンテンツの流通や制作などのやり方を組み合わせることによって全く新しい価値が生まれ、成功がもたらされたといえる。
◆日本企業でイノベーションの起こりにくいあまり指摘されていない理由
ここで考えてみたいのはなぜ日本企業ではイノベーションが起こりにくいのかという問題だ。もちろん、この問題については語り尽くされているといってよいくらいさまざまな見識があり、それぞれ、一面をついているように思う。何か、2~3の明確な原因があるというよりは複合的で多面的な問題だと思う。その中で、あまり語られていないのがコンセプチュアルスキルの問題だ。
もう一度、シュンペーターの指摘を見てみる。イノベーションにおける新しい新しい価値を、
「さまざまなステークホルダーの相互作用によって発生し生み出される価値」
だとしている。
問題は、どのように組み合わせられるかである。ステークホルダーの相互作用を起こすためには、コミュニケーションが必要である。いうまでもなく、他の分野の専門家同士のコミュニケーションだが、これがなかなかうまくできない。
専門用語のニュアンスが理解できないといった基本的な問題から始まり、自分の専門外の分野の事象を理解するにはさまざまな阻害要因がある。その分野の専門家になるのに5年も10年もかかるのだから当たり前といえば当たり前だ。
この問題に対処する行動として、「易しく説明する」というやり方がある。例えば、2~30年前に新しい価値として情報化が展開されようしたときにこれを盛んにやっていた。しかし、なかなかうまくいかない。専門家が易しく説明することと、正確に説明することのジレンマに悩んで、うまく理解してもらえるように進めていけない。
◆アナロジーを使って共有する
そこで考えられたのが、相手の分野(あるいは誰もが知っていること)でいえばどういうことかを説明するという方法である。いわゆるアナロジー(類似性)を使って説明するという方法である。
アナロジーには、
・表面的な類似
・構造的な類似
の2種類がある。前者は、属性レベルの類似で、人とサルのように形状が似ているとか、行動が似ているといった類似だ。後者は関係や構造レベルでの類似で、たとえば、ユニクロのヒートテックとJINSのJ!NS
PCのようなものだ。この例だとは一般的な道具を特別な目的に最適化しているという類似性がある。
アナロジーを使って共有しようとした場合、表面的な類似を使って説明すると失敗し、構造的な類似を使うとうまくいくことが多い。
しかし、構造的な類似は相手の分野でどういうことかを説明するという方法より、むしろやっていることや技術や製品の本質がどこにあるかを示すものである。そのように考えると、構造的類似を使った方法は
本質をモデル化し、現象を抽象化してモデルに落とし込み、イメージを他の人と共有する
という方法である。言い換えると、
事象を概念化し、イメージを他の人と共有する
といってもよいだろう。
◆組み合わせを生み出すポイントは概念化
このようにイノベーションを実現する組み合わせを生み出すためには、概念化がポイントになる。具体的なレベルで組み合わせをしようとしてもなかなか難しい。
概念化し、自分たちがやっていることの本質をモデル化し、ステークホルダーの間で共有することによって議論ができ、そこから新しいものが生み出されていく。
つまり、それぞれのステークホルダーが自分たちのやっていることを他の分野と組み合わせるとすればどのような形があり得るのかを概念的なレベルで議論し、そこでアイデアの出た組み合わせを実現するには自分たちは何をしなくてはならないかを具体的に考えてみて、実現していく。これはコンセプチュアルスキルを活用した活動である。
具体的なレベルでの組み合わせで成功している事例もある。しかし、このようなケースではその中にコンセプチュアルスキルの高い人がいて、リーダー的な役割を果たし、全体の取りまとめ役を務め、概念的なレベルでアイデアをまとめ、それを各分野のステークホルダーにフィードバックしていることが多い。
◆イノベーションプロジェクトのプロジェクトリーダーに求められる役割
イノベーションを起こすことを目的としたプロジェクトでは、プロジェクトリーダーに求められるのはこのような役割である。すなわちコンセプチュアルスキルの高いプロジェクトリーダーが必要なのだが、もう一段、活発な活動をするにはチーム自体がコンセプチュアルになることだ。
この点においても、プロジェクトリーダーの役割の重要だ。よいプロジェクトリーダーにはコンセプチュアルスキルの高い人が多いが、メンバーのコンセプチュアルスキルが高いチームはプロジェクトリーダーのふるまい方、部下の育成方法が明らかに違う。
そして、結果としてコンセプチュアルスキルの高いプロジェクトチームを作り上げていくという構図がある。ここを目指したいものだ。
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1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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