◆まず、モノありき
日本ではモノを重視する。決めごとをするのに、まず、モノの存在がある。
ここから始まっているので、製品コンセプトやプロジェクトのコンセプト(目的)を考える場合、「後づけ」になる。つまり、固定的なモノのイメージがあってそこからコンセプトや目的を考え、そこで終わるので、非常に限定的なイメージになる。
ここでモノといっているのはハードだけではない。ソフトウエアも含めて、「作る」モノすべてだ。今、生産性が問題になっているサービスもモノとして扱っている場合が少なくない。
◆ライフサイクルが短くなり、システムが要求される
一昔前はそれでもよかった。理由は2つある。一つ目の理由は、モノのライフサイクルが長かったことだ。特に製造業が作っている製品はそうだが、ライフサイクルが長いとモノを中心に考えていればコトが済む。新しいニーズが出てくるときには、また新しいモノを考えればよかったのだ。
ところが、ライフサイクルが短くなってくるとそうはいかない。新しいニーズがどんどん生まれてくるのに一から作っていたのでは対応できない。せいぜい、カスタマイズで対応するのが精いっぱいだ。
もう一つの理由は要求されるのが単品だったことだ。言い換えるとシステムではなかった。システムとして要求されるとその中の特定の製品(構成要素)を決め打ちすることは難しい。他の構成要素との関係で、システムに新しい要素が加われば、既存の構成要素はその機能や仕様を変えなくてはならないことも少なくない。
話は脱線するが、日本企業の情報システムはこの落とし穴にはまっているものが多い。既存の構成要素の仕様を変えないという前提で、新しい要素を考えるので、全体として効果の低いシステムになってしまう。
◆コンセプトは抽象度が高い
ライフサイクルが短くなり、システムが求められている今、このような問題から抜け出さなくてはならない。そのために必要なのは、後づけではない良いコンセプトを考えることである。良いコンセプトがあれば、そのコンセプトから新しい製品はいくらでも出てくる。それによって、短いライフサイクルで、システムにも対応できるようになる。
問題はそのようなコンセプトをどのように作るかだが、その前にモノ優先でコンセプトが後づけになった本質的な理由を考えておきたい。
それはコンセプトは抽象度の高いものであることだ。
例えば、スターバックスの有名なコンセプトに「サードプレイス」というのがある。これは、職場と家以外に第三の場を与えるというものだが、具体的にどこに置くかとか、何を商品として出すかを決めているわけではない。その意味でかなり、抽象的なものだ。
日本人の特性として、抽象的にものを考えるのを嫌うところがある。もう少し正確にいえば、抽象と具象の行き来を嫌い、ひたすら、具象の世界で考えようとする。少し観点を変えて抽象的な観点からの意見を言うとすぐに具体的に考えろと言われる。
最近になって、コンセプトを考えなくてはという風潮が強くなってきてコンセプトを考えるのだが、そこで多いのは上で述べたようなモノからの決め打ちである。
例えば、スターバックスの例でいえば、店舗の配置、提供している商品があって、それを必要とするのはどういう場所なのかと考えるので、「サードプレイス」というのは出てこない。代わりに出てくるのは、例えば、「おいしいコーヒーとスイーツでリラックスできる場所」といったことだ。
すると、サードプレイスというコンセプトを打ち出すよりは、場所やメニューは顧客が望めばなんでもありになってしまい、結果として顧客に伝わるメッセージが弱くなり、顧客の共感が得られない。これがライバル店との差になっているといってもよいだろう。
◆良いコンセプトの条件
コンセプトはどのように作るのかという問題であるが、基本的にフォーマットがあるわけではない。コンセプトというのはいわば、「戦略、ビジネス、製品、サービス、技術、活動、プロジェクト、仕事なぢについて、自分が実現したいことの包括的イメージ」であるので、これが表現できればどのような形でも構わない。
ただ、良いコンセプト、共感されるコンセプトとはどのようなものかといわれるとやはり条件はある。よく言われる項目には以下のようなものがある。
・やりたいことが明確である
ビジネスとしてやりたいことが反映されているコンセプトである
・実現性があること
コンセプトが具体概念になっている
・プロセスがイメージできること
コンセプトを構成する具体概念の要素の組み合わせによる価値創造のプロセスがイメージできる
・全体性があること
何をやりたいか、一目瞭然である
このような条件を満たすコンセプトを創るにはどうすればよいのだろうか。ポイントになるのは、コンセプトを創ろうとする戦略、ビジネス、製品、サービス、技術、活動、プロジェクト、仕事などの本質はなにかと考えることだ。
◆コンセプトの作成手順
共感されるコンセプトを創るには以下のようなステップを踏むとよい。
ステップ1:本質的な目標や要求を明確にする
ステップ2:目標や要求に対してどのように取り組むかを考える
ステップ3:コンセプト実現の具体化の方法をいくつか考え、コンセプトの検証をする
ステップ4:具体的な方法を踏まえてコンセプトの修正をする
ここで注意しておきたいのは、必ずしもモノ(具体)から考えるのがまずいわけではない。本質を考える際に、具体的な目標や要求から、抽象的な目標や要求を考えるところから始めても構わない。ただし、そこで終わってはならない。さらに抽象的な目標や要求を具体化してみて、本質として適切かどうかを考えてみる。適切でなければ、もっと適切なものを探す。この繰り返しを行き来というが、本質と、本質の具体化がしっくりとマッチするまで行き来を続ける。
それにより、良いコンセプト、共感されるコンセプトになっていく。
◆コンセプトの表現方法
こういった方法で創ったコンセプトを表現しようとすれば、その方法は数限りなくあることはお分かりいただけるだろう。
例えば、著者がよく使っている表現には以下のようなものがある。
・ビジネスや製品、プロジェクトの成功の要因を「一言でいえば」と考えてみる
・ビジネスや製品、プロジェクトを成功するには「誰に、何を、どのようにして提供するか」を考えてみる
例えば、スターバックスの例でいえば
・誰に:すべての人に
・何を:家でも職場でもない安らぎの場所(サードプレイス)を
・どのように:ビバレッジを提供し、好みのスタイルで飲める場所を提供する。
といった感じである。
このように具体性のあるコンセプトを創ることによって、抽象と具象を行き来し、どんどん新しい戦略、ビジネス、製品、サービス、技術、活動、プロジェクト、仕事を生む出すことができ、短いライフサイクルでシステムに対応できるようになるのだ。
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