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第121話:コンセプチュアル・プロジェクト・デザイン(2017/01/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆コンセプチュアル・デザイン

年末年始に読んだ本で改めて重要性を感じたことがあったので、今回のPMスタイル考はその話題を考えてみたい。

読んだ本は、「ドッグファイト」という小説で、アマゾンをモデル化したグローバルな通販企業 とクロネコらしき日本の物流企業「コンゴウ」の戦いを描いている。戦場は、生鮮食料品の同日配送を扱うシステムを構築をするプロジェクト。このプロジェクトを巡り、さまざまな駆け引きが交差し、話は進んでいくのだが、ストーリーを知りたい人は本を読んで欲しい。

この中で、「スイフト」社のプロジェクトの進め方として、「コンセプチュアルデザイン」という概念が出てくる。これは、プロジェクトの目指す成果物とオペレーションを明確にし、それをドキュメント化したもので、プロジェクトのコアメンバーが共有すべきプロジェクトのバイブルという位置づけのものである。


◆なぜプロジェクトのコンセプチュアルデザインが重視されないのか

基本的にプロジェクトはコンセプチュアルデザインを如何に実現するかを決めながら、進めて行くことになる。PMBOK(R)でいえばプロジェクト憲章とプロジェクトマネジメント計画であるが、この本を読んでいて改めてコンセプチュアルデザインの必要性を認識した。

モノ作りやソフトウエア開発においては、コンセプチュアルデザインは普通に行われている。製品の概念設計、いわゆる製品コンセプトを作る作業である。

しかし、プロジェクトの概念設計はきちんと行われていないケースが多い。その理由はおそらく、製品のコンセプチュアルデザインができてしまえば、作り方は決まってくるケースが多いからだと思われる。


◆プロジェクトであればコンセプチュアルデザインは不可欠

しかし、プロジェクトを進める上ではこれは好ましくない。なぜなら、製品のコンセプチュアルデザインはあくまでもコンセプトの決定であり、それをどのような形で実現できるかはプロジェクトとしての課題だからだ。

例えば、技術的なリスクを取らずにコンセプトに最低限沿うものを実現する方法もあれば、技術的リスクをとってよりよいものを実現する方法もある。プロジェクトの実行の中でもっとも重要な意思決定である。

この意思決定を行うにはプロジェクトの成果物のコンセプトとしてよいものを作ると同時に、そのコンセプトを実現するためのオペレーションについてもコンセプトを定めなくてはならない。


◆製品コンセプトから作り方が決まるという誤解

この議論をする前に、どうして製品コンセプトのデザインが決まれば、作り方が決まってくるかを考えておきたい。

【PMスタイル考】第119話:コンセプトを作る

で述べたように、コンセプトの作成の際には、抽象と具象を行き来しながら、適当な抽象度のところに落ち着かせる。落ち着くレベルが抽象的になれば概念になるし、具象的にすれば製品仕様に近くなる。重要なことは抽象的になれば分かりにくくなり、具象的になれば分かりやすくなることだ。だから、分かりやすいレベルでまとめようとする。

ところが、これは必ずしも正しくない。プロジェクトで作ろうとする成果物は必ずしも計画の時点で仕様として明確なものがよいとは限らない。概念や方向性、つまり、コンセプトとして明確なことは必須であるが、それを如何に素晴らしい方法で成果物として実現するかがプロジェクトとして行う意味である。


◆オペレーションのコンセプチュアルデザインの重要性

従って、計画の段階で仕様が明確である必要はない。ただし、成果物を明確にしただけでは、いつになればできるか分からないことになる。そこで、オペレーションなのだ。

オペレーションには

・作業アプローチ
・スケジュール
・コスト
・要員の活用方法

などがある。これらを明確にすることによって、決められてスケジュールとコストを守り、その中で最高の成果物を作り上げていくのだ。


◆成果物の仕様が明確でなくても、計画はできる

ところが、プロジェクトの計画を作るときに、成果物の仕様が明確になっていないと計画はできないと考えている人が少なくない。これは誤解である。もちろん、実際に作る際には仕様が明確になっていなくではできないが、コンセプチュアルデザインの段階におけるスケジュールやコストは概念的なモノで構わない。たとえば、

・2週間で○○という仕様の部品Aを作成する

ではなく、

・2週間で部品Aの設計と作成をする

でいいわけだ、ところが、後者にするとリスクがある。リスクを取りたくないので前者のような計画にしたがる。これはコンセプトデザインとはいえないといっても過言ではないだろう。


◆コンセプトを中心にプロジェクトを進める

結局、この問題はコンセプトとは何かをきちんと理解し、コンセプチュアル・プロジェクト・デザインにおいてはコンセプトでデザインを行うことに他ならない。
PMOBK(R)であれば、そのようなプロジェクト憲章とプロジェクトマネジメント計画を策定することだ。

そしてそのプロジェクトにおいてはコンセプチュアルデザインを必ず守ること。これがプロジェクトマネジメントの使命である。

【参考資料】
楡 周平「ドッグファイト」、KADOKAWA/角川書店(2016)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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