◆はじめに
PMスタイル考も今回で119話になるが、これまでコンセプトの話をしていないことに気がついた。コンセプト作成についてはちょうど今、日経Sysytemsで1年間の連載を行っているほか、コンセプチュアルスキル講座でコンセプト企画のセミナーもやっているのにちょっと意外だ。
というわけで、今回のテーマはコンセプトを作る。
◆なぜ、今、コンセプトなのか
日本人はモノ作りはうまいが、コンセプトを作ることが下手だといわれる。その通りだと思うが、モノ作りに比べるとコンセプトを作ることに対して関心がないようにも思える。抽象的な思考を好まず、あくまでもモノという具体的な対象で考えることを好む。
モノについていえば、これもありだと思う。ところが、複数のモノを併せてシステムを作らないとならない場合や、サービスのように本質的に概念的なものを作らないとならない場合にはコンセプトを作ることが不可欠である。ITの分野でイノベーションが生まれないという問題があるが、これもシステムやサービスにおいてコンセプトが作れないところに原因がある。
これが最近、コンセプトに関心が高まってきた理由である。私たちが開催している講座にきてくれる人の多くはエンジニアなのだが、エンジニアの場合、コンセプトって何ですかという質問にちゃんと答えられない人も少なくない。
◆そもそも、コンセプトとは何か
ということで、まずはコンセプトとは何かを明確にしておこう。実際にコンセプトについての説明というのは人によって違うし、さまざまであるが、一般的に言えることは
「自分が実現したいことの包括的イメージ」
だということだ。この定義から一つ、コンセプトを作る難しさが分かる。それは、包括的、大局的に対象を捉えることが苦手な人が多いことだ。
このようにコンセプトを定義したときに、コンセプトとして何を満たさないとならないかについて考えてみると以下のような要素があることが分かる。
・既成概念を壊す
・新しい視点で価値観を作る
・全体を貫く骨格となる考え方とする
・活動のすべての指針とする
後ろの2つは包括的であることを示すものであるが、前の2つはコンセプトというのはあくまでも概念的に、あるいは価値観として新しいものでなくてはならないことを示すものだ。ここにも作るむずかしさがある。
◆コンセプトを作るステップ
こういった難しさを打ち破り、コンセプトは作らなくてはならない。コンセプトを作る方法もさまざまな方法がある。ここではPMstyleで使っているコンセプトの作成手順について説明しよう。大きな枠組みとしては、
(1)現状認識
(2)価値創造
(3)言語化
(4)共感を得る
の4ステップでコンセプトを作る。
◆現状認識
まず、現状認識では
・事実の認識
をして、さまざまな情報を集めることがスタートになる。その上で、自分としてその事実をどう感じるかを考えてみる。コンセプトは主観的なものであるので、事実に対してどう感じるかが極めて重要なポイントになる。新しい概念や価値観を生み出すにはここがポイントになり、ここで独特の感じ方ができれば、洞察を通して新しい概念に行きつくことができる可能性が高くなる。
洞察は基本的には事実を組み合せて行う。たとえば、
・将来的にどうなるかという洞察
・見えていないところも含めて全体がどうだという洞察
・時代やトレンドがどう変化するかという洞察
などである。
◆価値創造
次に、洞察の結果を踏まえて、新しい価値観の創造をする。そのために、まず、認識した現状に対する情報をたとえば、ブレーンストーミングのような方法で一度、発散させることが重要である。その上で、ビジネスの課題解決の基本的な方向性に対して、新しいアイデアを考える。これがコンセプトの源泉になる。
ここで重要なことは持続可能性である。つまり、そのアイデアによって、何がどう変わるかを明確とつもに、アイデアが当面のものではなく、ビジネスモデルとして持続的に通用するようにすることがよいコンセプトを生み出すには重要である。
◆言語化
このようにアイデアを生みだしたら、言語化を行う。コンセプトの言語化は基本的には「何を誰にどのように提供するかを明確にする」ことだと考える。
言語化の方法も特にきまったものがあるわけではないが、我々は
「誰に、何を、どのようにして提供するか」を明確にする
「一言でいえば」を明確にする
などの方法で言語化することにしている。たとえば、スターバックスのコンセプトを最初の方法で言語化すると
誰に:すべての人に
何を:家でも職場でもない安らぎの場所(サードプレイス)を
どのように:ビバレッジを提供し、好みのスタイルで飲める場所
を提供する
となる。あるいは、あとの方法でカーレースのコンセプトを言語化すれば
一言でいえば自動車の平均速度を上げる
少し具体化するとレースコースの80%を占めるカーブを高速に走ることのできる自動車を開発し、また、ピットの時間など、走行以外の時間を短縮する
といった風になる。
言語化でもうひとつ重要なことは、コンセプトは概念的なものであるので、具体化してみて、具体的に実現可能であることを確認することである。具体的に実現する方法が見つからなければコンセプトであるとは言えない。
◆共感を得る
言語化したら、最後にステークホルダーの共感を得る。共感が生まれて初めてコンセプトと言える。コンセプトをステークホルダーに伝えるには、ストーリーが適している。ストーリーによって共感を得て、ステークホルダーがコンセプト実現に動いてくれる状態を創ることがコンセプトづくりのゴールであるといえる。
以上のようにコンセプトを作ると、コンセプチュアルなコンセプトができる。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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