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第116話:説明をデザインする(2016/10/11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆説明とは何か

PMスタイルはWHYを中心に書いているが、今回のPMスタイル考はちょっと新しい試みでHOWを中心にして見ようと思っている。そこで「説明のデザイン」という行動テーマを取り上げてみたい。平たくいえば、説明をどのようにするのかという話をしたいと思う。

まず、説明とは何かというところから始めたい。説明という言葉は意外と定義しにく言葉だが、たとえば、

・事実の原因や背景、結果を明確にするようにその事実をまとめて述べること
・事実を明確にして、概念をわかりやすくすること
・なぜに答えること

といった定義があるようだ。ただ、これだけでははっきりしないので、説明と似ているが説明ではない概念を集めてみるとたとえば以下のようなものがある。

描写:行為、人物、出来事をそのまま述べること
定義:正確で字義的な意味を述べること
指示:何かをするように指図、または命令をすること
詳述:詳細な情報を提供すること
報告:出来事について口頭で述べたり文章でまとめたりすること
例証:アイデアなどを明確にするのに役立つ例

日常会話の中で説明という言葉を使うときには報告とか、描写などが混ざっていることも少なくないと思うが、厳密にいえばこれらは別物である。


◆エクスサイズ

さて、説明の定義が明確になったところで、以下のエクスサイズをやってみたい。まず以下の文章を読んで欲しい。

===
私立京都高校の佐藤校長は今朝、職員一同に研修旅行を行うことを決めた。来週木曜、職員全員で大阪に行き、新たな教育手法に関する会議に参加する。当日は人類学者の梅原三郎や教育学者の生田眞、大阪府知事の橋本一郎による講演も予定されている。
===

あなたが、佐藤校長なら、この状況をどのように生徒に伝えるだろうか。

たぶん、多くの人は研修旅行の内容を要約して、伝えるのではないだろうか。あるいは、もう少し、生徒思いなら自分たちが研修旅行を行う目的で、生徒の指導に関わる部分、たとえば「より分かりやすい授業を行えるようになるために」といったメッセージを伝えるかもしれない。

もちろん、これらの事項は生徒にとっても重要なことかもしれないが、まず、考えるべきことは、他人の立場にたって、その視点からコミュニケーションを図ることだ。そのように考えたときに、研修旅行の内容を伝えることはほとんど意味がないことが分かる。「より分かりやすい授業を行えるようになるために」といった目的は、研修旅行の内容よりは意味があるだろうが、本当に一番、知りたいことかどうかと考えると疑問が残る。

生徒にとってもっとも知りたいことは、その日の授業がどうなるかである。休校なのか、自習なのか、あるいはそれ以外なのか。


◆説明のステップ

説明をデザインするというと、全容をプレゼンテーションすることをイメージする人が多いと思うが、デザインの中で圧倒的に重要なのは何を伝え、何を伝えないかである。言い換えると、説明したいことの本質は何かと洞察することだ。

このように考えると、説明のステップは

<ステップ1>説明したいことの本質を考える
<ステップ2>誰にどのように伝えるか、説明を構想する
<ステップ3>説明の各要素を考える
<ステップ4>説明を実行する

の4つで表すことができる。

ステップ1については上の例で説明したので、ステップ2、3について方法を説明する。


◆説明の構想

まず、構想であるが、説明の尺度と呼ばれる指標を用いることが多い。たとえば、A~Zまでの理解の尺度を持ち込み(Aはあまり理解していない、Zは深く理解している)、主要なステークホルダーがどの位置にいるかを明確にする。その上で、

・説明する自分はA~Zのどこに位置するのか
・聞き手はどこに位置するのか
・聞き手の理解度について、どのような想定をしているか
・説明はA~Zのすべてを対象にしているのか
・説明はA~Zのすべてを対象にすべきか

といったことを考え、最終的に誰に何を伝えるかを構想する。上の研修旅行の例では、

・校長はZ
・生徒はA~M
・幹部職員はV
・一般教員はQ~S

などと位置づけたとする。すると、生徒の理解度が人によって異なることが問題になりそうで、これを同じように理解してもらえるようにすることが説明のポイントになる。


◆説明の要素

そこで説明を以下のような要素に分けて考える。

・つかみ
  ほとんどの人に受け入れられる大局的な視点に立った発言
・背景
  背景を示すことですでに同意した事項を示す
  聞き手に説明の土台を授け、なぜそれが重要なのかを示す
・展開
  展開を物語化してみる
  状況の変化によって生じる感情や視点の変化を示す
・手段
  情報をそのまま伝達する
・結論
  どんなことが分かったかの概要を示す


◆説明の要素の使用例

その上で、つかみ→背景→展開という流れで、Aの生徒を徐々に理解させ、展開でMに持ってこれるようにする。研修旅行の例であれば、

・つかみ
私たち教師は、常に生徒に最高の教育をしたいと思っています。

・背景
教育の方法は日々進化し、新しい手法の勉強をしなくては生徒に最高の教育を与えることはままならない状況に陥っています。

・展開
そこで、これから積極的に新しい手法を取り入れる取り組みをしたいと考えました

・手段
そこで今回、京都高校でも、来週の木曜日に全職員が大阪に行き、新たな教育手法に関する会議に参加することにしました。効果があれば、毎年、実施したいと考えています。

・結論
ということで、来週の木曜日は全職員が会議に参加するため、学校は休みになります。

という流れで説明をしていく。


◆なぜ、説明は失敗するのか

最後になるが、説明のハウツーをもってしても説明はうまく行かないことが多い。その原因を整理しておく。

・背景を無視
  問題の背景を考えず、相手の理解度より、効率性を重視する
・知識と理解の不足
  十分な知識なく、聞き手に十分な情報を持っているというメッセージを与える
・知識の存在
  知識のせいで、他人の視点からものごとを見る能力が妨げられる
・内輪の用語
  職場などの内輪でしか共有されていない独特の言葉を使う


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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