◆プロジェクトマネジメントの変化
プロジェクトマネジメントのスタートはオペレーションマネジメントだった。テーラーの時代にはオペレーションは繰り返し同じことをやる定型なものだったが、徐々に非定型になってきて、マネジメントをするには初期に計画が必要になってきた。加えて、非定型の中に不確実な要素が加わり、不確実性のマネジメントが必要になってきた。
さらに、現場のオペレーションから、経営のオペレーションまで対象にするようになってきた。つまり、予め計画された価値を実現することから、価値を企画し、価値を実現することまで、すなわち価値創造がプロジェクトの範囲になってきた。
プロジェクトマネジメントに求められる役割もこのような変化に併せて変わってきた。初期においてはオペレーションをいかに失敗せずに行えるかがプロジェクトマネジメントの役割だったが、今では価値を創造することがプロジェクトマネジメントの役割になってきた。詳しくは、
好川哲人「プロジェクトマネジメントの基本」、日本実業出版社(2011)
を読んで欲しい。
ところが、プロジェクトマネジメントはなかなか、価値創造に結びつかない。今回のPMサプリはこの問題について考えてみたい。
◆価値から明確にする
プロジェクトでは、立上げフェーズにおいてプロジェクトで生み出す価値を明確にし、目的を決定する。同時に価値を実現する方法を決定し、目標とする。その上で、計画フェーズで目標を実現する方法を決め、計画を策定する。
これがプロジェクトマネジメントの基本だが、価値を決めるところがあまり実行されていないのが現実だろう。
というよりも、これまでのプロジェクトは製品やシステムといったプロジェクトの成果「物」の品質を上げることが価値だったので考える必要がなかったとも言える。言い換えると、成果物の品質さえクリアできれば、価値になっていたわけだ。
ところが現実には、製品を開発しても売れない、システムを開発しても役に立たないといったことが頻繁に起こるようになっている。これは、プロジェクトを始めるときに、価値の定義がきちんとされていないからに他ならない。
◆ビジネスにおける価値とは
プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトの価値を決めることから始める。
まず、最初にはっきりさせておきたいのは、プロジェクトに限らず、ビジネスにおける価値とは何かという点である。
たとえば、スターバックスの価値は何か。スターバックスの商品は高いとよく言われる。にも拘わらず、繁盛し、日本で創業20年になる今年、売上げ、シェアともトップに立っており、2位のドトールグループの倍近い売り上げを上げている。このような違いをもたらしているのが価値である。
商品だけが価値だとすれば、スターバックスの商品は高いが味の違いは好みの範囲であり、ドトールの方が合理性がある。ところが高い対価を払って顧客がやってくるのは商品以外の価値があるからだ。
スターバックスのコンセプトはサードプレイスである。これはスターバックスの作った言葉で、第一の場所である自宅、第2の場所である会社や学校の間に、第3の場所として「自由に過ごせる場所」を提供しようというコンセプトである。
スターバックスの提供している価値は、このコンセプトに基づくもので、パソコンで仕事ができる、本を読む、スマートフォンで遊ぶ、友人と語り合える、など、さまざまなことが自由にできる場所を提供することである。
言い換えると、価値は珈琲そのものではなく、珈琲を飲みながらする体験なのだ。顧客はこの体験に対して高い対価を払う。ドトールは珈琲そのもので価値を提供している。ここが決定的な違いである。ちなみに、最近台頭してきたコメダ珈琲もスターバックスとは提供する場のコンセプトは違うが、場における体験を価値として提供しているタイプのカフェだ。
◆プロジェクトの価値とは
このような違いは、プロジェクトにおいてもよくある。端的にいえば、プロジェクトは成果物を価値としているのか、成果物が引き起こすことや体験を価値としているのかという違いである。スターバックスの例でいえば、成果物が商品であり、体験がサードプレイスに該当する。
たとえば、システム開発のプロジェクトで、基幹業務系のシステムであれば、成果物そのものが価値になる。もちろん、そのシステムを使って販売管理、生産管理、会計、人事、給与といった基幹業務を行わなくては価値は生まれないが、プロジェクトの成果物の品質さえよければ、確実に価値は生まれる。その意味で成果物が価値だといってもよいし、成果物の品質が価値だと考えてもよいだろう。
これに対して、販売促進のシステムはどうだろう。基幹業務と根本的に違うのは、システム化したやり方が確実にうまくいく方法だとは限らないということだ。たとえば、価格設定の方法一つとってもその方法でうまくいくかどうかは分からない。
◆価値は仮説である
このようなケースでは何が価値なのかは仮説にすぎない。つまり、プロジェクトを進めるにあたっては、まず、何が価値になるのかに関する仮説をつくらないと始まらない。言い換えると、「価値に直結する」部分を探す必要がある。
たとえば、売れる製品を作るというプロジェクトであれば、それは「顧客ニーズの把握」かもしれないし、「顧客のフォローアップの強化」なのかもしれない。要するに何を仮説として考えるかである。
このように仮説を作り、その価値を実現する方法と実現計画を考える。たとえば、実現する方法としてなんらかのシステムとか製品をプロジェクトの成果物を作るわけだ。
そしてプロジェクトの成果物を使って、価値を生み出し、検証しながら価値を探し求め、価値を実現していく。そこで仮説が正しかったかどうかが判断され、間違っていればやり直しをする。
そのような進め方が求められるプロジェクトが増えている。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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