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第115話:PDCAからOODAへ(2016/09/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人



◆不確実な環境で計画をどうするか

今ではITプロジェクトではすっかり定着してきた感があるアジャイルだが、アジャイルかウォーターフォールかという議論がずいぶんされてきた。この議論の本質は計画をどう考えるかという点にある。

たとえば、事業環境の変動によりプロジェクトの不確実性が非常に高いとする。このときに、どのような対応をするだろうか。大きく分けると、計画や管理を厳しくするか、計画や管理を緩くするかのいずれかである。

従来のプロジェクトマネジメントでは、前者を選択することが多い。例えば、計画を緻密にし、進捗報告のサイクルを短くして、変化に対応する。一方で、リスクの抽出を綿密に行い、変化をできるだけ早く捉えるようにするといった方法を取る。

一方で、計画ができないと考え、計画や管理を緩くすることも考えられる。アジャイルプロジェクトマネジメントはこの考え方を前提にしている。

計画を重視すべきかどうかの違いは、変化が想定できるものか、できないものかにある。想定できる変化であれば、計画を緻密にし、リスクマネジメントを強化すれば対応できる可能性が高いが、変化が想定できなればそもそも計画的なアプローチは極めて難しい。無計画だと言われるのは実がこういうケースが多い。


◆ボイドのOODA

さて、後者の考え方をする方法で代表的なものとして米国空軍パイロットのジョン・
ボイドが提唱したOODAがある。OODAは

Observe(観察):とにかくよく相手を観察する
Orient(方向づけ:過去の経験や知識を総動員して、何をすべか状況判断をする
Decide(決心):決心する
Act(実行):実行する

の4ステップからなる思考法、意思決定理論である。

ポイントは相手をよく観察し、出方をうかがうところにある。もう少し専門的にいえば、相手をよく観察して、どこに重心や致命的脆弱性があるかを見抜くことにある。つまり、トップダウンの作戦の指示を待つのではなく、現場が中心になり、観察した情報をトップと共有し、協調的に意思決定しながら、戦いを進めていくことをイメージすればよい。

ビジネスにおいても全く同じである。トップが標準やマニュアルで現場を動かすのではなく、現場が中止になり、観察した情報をトップを共有し、協調的な意思決定をしながらビジネスを進めていくことになる。


◆OODAの特徴

ボイドのOODAには以下の3つの特徴があると言われる。

(1)事前の計画より、事後的な臨機応変に重点を置いている
(2)始まりを相手の観察においている
(3)トップダウンではなく、現場に中心をおいている

総じていえば、PDCAで機械化された仕事の進め方に、再度、人間中心の発想を持ち込んだのがOODAだということだ。

PDCAでは計画の精度と管理の適切さが成功のポイントになるが、OODAでは人間中心であるので、如何にサイクルを早く回せるかがポイントになる。これは、戦闘で現場戦を考えてみれば、敵より先に状況を判断して、早く攻撃することが勝利につながることを考えてみればよく分かる。


◆プロジェクトはOODAだけで済むのか

ただ、アジャイルとウォーターフォールの議論でもあるように、本当にOODAだけで済むのかという問題は残る。計画ができないところは計画しないというのは正しいのだが、問題は計画ができないというのはどういうレベルの話かということだ。つまり、計画にはマイルストーンのような大きなレベルから、時間単位の作業計画まである。

従来のプロジェクトマネジメントにおいても、段階的詳細化という考え方がある。ベースライン計画を策定し、そこから詳細な計画は作らず、OODA的なサイクルにすることによりPDCAとOODAの統合を実現することも可能である。

むしろ、プロジェクトマネジメントにおいては、すべての作業をPDCAで計画ベースで行うことはムリなケースが多い。逆にいえば、だからこそ、プロジェクトとしてその仕事を実行しているのだ。したがって、通常のプロジェクトマネジメントの中で、ベースライン計画で多いな流れを管理し、その中でOODAを使っていくという方法がよいと思われる。


◆OODAにはコンセプチュアルスキルが不可欠

さて、その場合の問題は、PDCAでどこまで計画し、どこから先をOODAにするかであるが、これはコンセプチュアルスキルの問題である。米軍はOODAで「アジャイル、直観、レッスンズラーンド」を重視しているそうだが、特に、直観が重要だと思われる。

PDCAで計画重視で行うなら、とにかく重要なのはデータである。データに基づき、論理的に計画を策定し、データに基づいて論理的に実施状況を判断する。しかし、人間中心にOODAを行う部分では、直観的に判断することが不可欠である。つまり、コンセプチュアル思考でいえば、直観と論理の軸を最大限に活用する必要がある。

また、PDCAで大局を管理し、適切なタイミングでOODAに切り替えるには、大局と分析の軸を使った判断が極めて重要になってくる。

さらに、そもそも、PDCAとOODAの使い分けや、OODAの実施においては、客観的な判断が非常に重要になる。そこでは、主観と客観の軸による思考が重要になる。

このようにコンセプチュアルスキルがOODAの活用には重要なポイントになる。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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