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第108話:WHYを活用したマネジメント(2015/11/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆トヨタの5WHY

今回は少し、変わったテーマにチャレンジしてみたいと思います。テーマはWHYによるマネジメント、つまり、マネジメントにおいてWHYをどのように使うのかということです。

WHYとマネジメントというと日本ではまずトヨタの5WHYを思い出す人が多いのではないかと思います。問題解決において、現象からWHYを5回繰り返せば、真の原因に行きつくという方法です。なかなか難しいのですが、普及している考え方です。

ここから派生してきた方法もたくさんあります。「なぜなぜ分析」と呼ばれる方法がその典型でしょう。

WHYを考えることはマネジメントでは非常に重要です。WHYを繰り返し考えることによって本質を見極めることができるからです。たとえばトヨタの5WHYであれば、発生している問題の本質的な原因は何かということを考えることになります。


◆問題に対してWHYを考える

WHYを考えるという対象は、課題と問題があります。問題であれば問題事象からなぜその問題事象が発生したかをWHYで考えるわけですが、これにはトヨタの5WHYのように問題事象から原因を考えるケースと、問題(課題)そのものの本質を考える場合があります。

たとえば、あるツールの生産性が低いことが問題になったときに、使い方が悪いことに気が付きました。そこで、なぜ、そのツールをそのように使っているのだろうと考えて、ツールの使い方を変えることによって生産性を上げることが出来ました。問題事象の原因を考えるというのはこういうパターンです。

これに対して、課題に対してWHYを考える場合があります。マネジメントにおいてはむしろ、こちらの方が重要なのかもしれません。


◆課題に対してWHYを考える

課題に対してWHYを考えていくと、より大きな課題を考えることになります。たとえば、上の状況で生産性を落としているツールに対して、なぜ、ツールの生産性を上げなくてはならないのかと考えたとします。すると、「コストを減らし、製品の価格を下げる」ことだと気づきました。そこで、さらになぜ価格を下げなくてはならないかと考えてみると、「競合が価格を下げた」だという考えに至りました。課題の範囲がツールの生産性から、競合への対応に広くなっているわけです。

このように考えると、製品の価格を下げる方法でツールの生産性を上げる以外の方法もあるでしょうし、また、競合に付き合って価格を下げないという方法もあるでしょう。たとえば、その製品はあきらめ、新製品を投入することです。

このようにマネジメントで直面する課題に対して、その課題は何を意味しているかを考えるために、WHYを繰り返していくと、違った視点や視座から課題解決方法が見つかることがよくあります。よいマネジャーは必ずといってよいくらい、このやり方を身につけています。


◆WHYとWHAT

マネジメントにおいてWHYと深い関係にあるのが、WHATです。それは、WHATに対するWHYなのか、WHYからWHATにいくのかという問題がマネジメントの課題としては常にあるからです。つまり、何をやるかから始めるか、なぜやるから始める場合です。

一般的な業務においては、たいてい、WHATから始まります。上の生産性の例でも何を改善するか、つまりWHATから始まっています。これに対してイノベーションの場合にはWHYから始めるケースがよくあります。

「WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」を書いたサイモン・シネック氏は、アップルが図抜けた成功をしている理由を以下のように語っています。

「私達は素晴らしいコンピューターをつくっています。ファッショナブルなデザイン、操作はシンプルでユーザーフレンドリー。どうですか?」

これでは、誰も買おうとは思わないでしょう。そこでアップルは

「私達は世界を変えられると信じています。そして常に既存の考え方とは違う考え方をします。世界を変えるために美しいデザインかつ機能性に優れた製品を世に送り出そうと努力するうちに、このような製品ができあがりました。おひとついかがでしょうか?」

のように語っています。つまり、「世界を変えるため」というWHYから始めているのです。これだと人々は購買意欲を触発されます。


◆WHATとWHYにはセットで考える

アップルの例にみられるように、イノベーションにおいてはWHYから始めることが本質的に重要なケースも珍しくありません。マネジメントにおいては、イノベーションか、オペレーションかを考えるよりも、WHATから始めるのか、WHYから始めるのかを考える方が現実的だともいえるでしょう。

ただし、注意すべきなのは、WHATとWHYは常に相互依存的な関係があるということです。ツールの生産性の例でいえば、確かにまずWHATから考えるのですが、WHYを無視していいということではありません。WHATに納得できるWHYをつけることができて初めてWHATが決まるということです。

アップルの例でも、確かにWHYは大切なのですが、WHYに応えるWHAT(製品)を生み出して、初めてWHYが意味を持つことになります。

このような関係があることをよく認識しておく必要があります。


【参考資料】
サイモン・シネック(栗木 さつき訳)
WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」、日本経済新聞出版社(2012)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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