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第106話:プロジェクトで人を育てつつ、利益を上げる(2015/11/02)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトに求められる役割

久しぶりにプロジェクトのネタです。

プロジェクトで仕事をすることは素晴らしいことですが、最近、人が育たないという声をよく耳にします。もう少し、正確にいえば、人が育っていないというよりは、必要な人材が育っていないという状況があるようです。従来は、プロジェクトで業務をやっていればリーダーはもちろん、参加するメンバーも必要なスキルは身についていました。身につけなくてはならないスキルがテクニカルスキルであり、加えてヒューマンスキルが身につけばよかったわけです。

ところが今の時代はそうはいきません。イノベーション活動に代表されるように、どんどん新しいアイデアを考え、新しい技術を開発し、身につけていかなくではならないからです。そう考えると、プロジェクトでどのように業務を行うかは今までとは異なる発想で考える必要があります。


◆「実際のプロジェクトを通して学ぶ」

そこで注目されているのが「実際のプロジェクトを通して学ぶ」ことです。言ってしまえば一種のOJTですが、特に、厳しいスケジュールの中で劇的な成果を上げたい場合は、特に有効だとされています。

ハーバード・ビジネス・レビュー・オンラインに掲載されているジョナサン・スターン氏の論文「How to Design Work Projects for Maximum Learning」では世界的な通信会社アスコムの人材開発プログラムが紹介されています。

※(邦訳)「人を育てて利益も上げるプロジェクトの進め方

この人材開発プログラムへの参加者は従来型の研修の受講に加え、重要なビジネス課題に関連する100日間のプロジェクトを立上げ、実施するそうです。プロジェクトは医療分野における自社の実績向上でもよいし、携帯電話の使い勝手をよくする新しいソフトフェアの開発でもよいそうです(これらは実際の事例としてあるそうです)。

こうしたプロジェクトはうまくいけば何百万ドルという利益を生み出すとともに、多くのリーダーを育てることにもなります。なぜなら、このプログラムのプロジェクトを行ったリーダーは大きな目標に向けてチームを動かすスキルを身につけることになり、また、他の部門や職能との協力が必要なため、公式権限を持たずに人々を動かすスキルも必要になるからです。


◆ジョナサン・スターンの示したプロジェクトの学習機能

ジョナサン・スターン氏はこのようにプロジェクトに学習機能を持ち込むためには以下のような要件が必要だと指摘しています。

・改善不可欠なテーマを選ぶ
・目標を具体的な成果と結びつける
・挑戦しがいのある高い目標を設定する
・短期間で行う
・短期間で有意義な成果が出る取り組みにする

まず、真っ先に問題になるのがテーマです。リーダーにとってもメンバーにとっても改善をすることの必然性があるテーマであることが不可欠です。このようなテーマ設定をすることによって切迫感がもたらされることにポイントがあります。

二番目の要件は適切な目標を設定することです。そのためには、チームが目標達成のために成すべき活動を特定し、実行する必要に迫られる目標がよいとのことです。たとえば、新製品の主要顧客になりそうな人50名に電話をするという目標ではだめで、新製品で10万ドルを売り上げるという目標は好ましいとされます。前者の目標では目標達成が組織的に利益を生むとは限らず、そのような目標を達成したいとは考えないからです。

同時に目標ということでいえば、プロジェクトの目標は、通常よりもハードルが高いと感じられる、ストレッチされた目標であることが好ましいそうです。これが三番目の要件です。

また、期間の設定も重要です。半年先とか1年先を目標期間にしてしまうと、大抵は課題を棚上げにしてしまいます。そこで、期間を短くするとよいとされます。ジョナサン・スターン氏は、何か劇的なことを成し遂げるには十分だが、最優先事項にとどめておくのが困難になるほど長くはない。加えて、切迫感によって迅速な能力開発が促されやすくなる100日がよいとしています。

最後にプロジェクトの位置づけも大切です。こういう話をするとよく長期プロジェクトの最初のステップとしがちですが、そうするとペーパーワークに終わってしまうことがよくあります。そこで、短期間で有意義な成果が上がるプロジェクト、たとえば、特定の地域をターゲットにした取り組みなどが求められます。


◆新しいプロジェクトの活用が求められる時代

このようにプロジェクトを創ると、そのプロジェクトを実施することによって利益を上げる一方で、リーダーの育成が可能になり、メンバーも良質な体験をすることができるわけです。そのようにしてイノベーションの足掛かりを創っていくことも可能になります。

そのようなプロジェクトをデザインして実行していくことが求められる時代になったといえるでしょう。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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