◆ビーイング・デジタル
イノベーションの分野において、デザインを中心に考えるIDEOと双璧をなす機関に、テクノロジーを中心に考えるMITのメディアラボがあります。マンマシンインターフェースへの新しい取り組みを研究する研究所で、さまざまなチャレンジをしています。現在、日本人の伊藤穣一さんという方が所長として活躍されていることで、日本でもその活動に関心の高い機関です。
そのメディアラボを1985年に創設したのは、ニコラス・ネグロポンテという計算機科学者です。ネグロポンテ氏はもう一つ大きな影響を与える活動をしており、それは、1992年にコンピュータ関係の雑誌Wired
Magazineの創刊に関わったことです。創刊に協力し、月に一度コラムを寄せ、基本的なテーマをこう何度も繰り返しました。
「アトムからビットへ」
そして、ビットが構成する新しい世界を「デジタルであること」(ビーイング・デジタル)と呼びました。まさに、今の世の中を予言していたと言えます。
おそらく、ビーイングデジタルはこれからも進展していくのだと思いますが、これからはデジタルとともに、新しいビーイングが注目されるでしょうというのが今回のPMスタイル考のテーマです。
それは、コンセプチュアルです。
◆ビーイング・コンセプチュアル
コンセプチュアルという言葉は大昔からありますし、コンセプチュアルをビジネススキルとして捉えたコンセプチュアルスキルという考え方ももう50年以上前に生まれたものです。
ただ、今、言われているコンセプチュアルは少し、意味が違うように思います。説明は難しいのですが、ネグロポンテに負けないくらいの影響力を持つ21世紀を代表する思想家であるダニエル・ピンクは、「コンセプチュアル社会」という言葉を使っています。
ダニエル・ピンクはアルビン・トフラーの第3の波の後にくるのが、第4の波としての「コンセプチュアル社会」だとしています。我々はこれを「ビーイング・コンセプチュアル」と呼ぶことにしました。
第3の波では知識や情報が中心で、ネグロポンテのいうビーイング・デジタルな社会が生まれました。デジタルでは、直線的、論理的、分析的な意味づけが中心になります。
これに対して、第4の波となるビーイング・コンセプチュアルでは、もっとソフトな部分、つまり、
・創造力:ゼロから創り出す力
・エンパシー:他人の感情や問題への理解能力
・直観力:事実分析能力よりもむしろ感情に基づいた理解力や認識力
などが中心になるものと考えられます。
◆思考法の変化
このような変化により思考法の変化も求められます。最近、急激に「ロジカルシンキングの限界」が言われるようになってきたのがそれです。問題解決にしろ、意思決定にしろ、ロジカルシンキングだけでは十分ではないという認識が高まってきています。
では、ロジカルシンキングに足らないものとはなんでしょうか?思いつくものを上げてみると、
センス、コンセプト、洞察、直観、決断
などが思い浮かびます。これらには共通点があります。それは
「見えないものを把握し、価値を判断し、全体を描き、思考や行動をすること」
です。
センスはそれ自体が見えないが、何らかの価値判断をするものです。コンセプトは見えないものでありながら全体を決定するもの。洞察は見えないところで起こっていることを考えること。直観や決断は見えないままで判断すること。
などです。
このように、ロジカルシンキングにいくつかの要素を加えると、「ビーイング・コンセプチュアル」の思考基盤になりますが、そのような思考法をコンセプチュアル思考と呼びます。
このために、コンセプチュアル思考では上の共通点を
見えないものを把握 価値を判断 全体を描く
・大局的/分析的 ○ ○
・抽象的/具象的 ○
・主観的/客観的 ○
・直観的/論理的 ○
・長期的/短期的 ○ ○
の5つの思考軸でカバーするという考え方になっているわけです。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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