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第103話:「本質」論(2015/07/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆本質論の本が売れている!

本質という言葉が目立つようになってきました。コトバの流行は書籍に如実に現れるといいますが、好川がやっている書籍サイト「ビジネス書の杜」で2015年1月〜6月のベスト3は

【1】グレッグ・マキューン「エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする」、かんき出版(2014)

【2】森川 亮「シンプルに考える」、ダイヤモンド社(2015)

【3】ドネラ・H・メドウズ「世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方」、英治出版(2015)

で、すべて本質について述べた本でした。

そこで、今回のPMスタイル考は「本質」について考えてみることにします。


◆なぜ、本質なのか

本質という言葉のイメージはある程度あると思いますので、まず、なぜ本質なのかというところから考えてみたいと思います。上の3冊の本の共通点は

複雑な環境の中でものごとをシンプルに考えること

だと言えます。最近、本質に注目が集まっているのは、経営環境や業務環境の複雑さが増してきたいことと、生産性向上への意識が高まってきていることによると思われます。

本質を見極めることによって

・構想において、本質を中心において構想を膨らませる
・計画において、本質的事柄の優先順位が高い計画を作る
・問題解決において、現象にとらわれず、本質的な問題を見極め、解決する
・意思決定において、本質に意見を統合した意思決定を行う
・対人行動において、本質を共有しながらコミュニケーションする

といったことが可能になります。

以上を念頭において戴き、本質についてもう少し、詳しく考えてみたいと思います。


◆本質とはなにか

まず、本質とは何かを明確にしましょう。辞書を引くと本質とは

・本来の性質。根本の性質。有り方。
・あるものを成り立たせている特有の性質、それなしにはそのものが存在しえない性質、要素

といった説明が出てきます。分かったような分からないような説明ですので、ここではもう少しすっきりと

・原因や現象の裏にひそむ、それらを引き起こしている真因

だと定義することにします。

ここで重要なことは、本質は「目的を達成するために不可欠なもの」であるということです。

たとえば、水野和敏さんという日産で自動車エンジニアをされていた方がおられます。ゴーン社長からの指名で全責任を持ってGT−Rの開発をしたことで知られていますが、彼が若いときに、レースの監督を任されます。

レースといえば、車体の軽量化と出力の最大化が定石ですが、水野さんはまったく違う視点でレースを見ました。日本の代表的なサーキットである富士スピードウェイだと最高速度、最高出力で走れるのは全体の18%に過ぎないことに気づき、82%を如何に早く走れるかがレースの本質だと考えたのです。


◆本質を見極める3つの方法

では、本質を見極めるにはどうすればよいのでしょうか?ここでは以下の3つの方法をご紹介します。

(1)概念的に捉える
(2)構造的に捉える
(3)直観的に捉える

(1)の概念的に捉えるとは、「WHY」の理由を掘り下げていくことによって、概念を分析していくことです。代表的な方法には、ラダリング、なぜなぜ分析、5Whyがあります。

(2)の構造的に捉えるとは、「WHAT」を関連付けで構造を見ることによって、構造的に分析をしていくことです。代表的な方法には因果ループ図は、相関関係図などがあります。

(3)の直観的に捉えるとは、直観的に感じた本質を確かめていくことであり、代表的な方法として、仮説検証などがあります。

ちなみに、コンセプチュアル思考の軸でいえば、(1)は抽象的/具象的の軸、(2)は大局的/分析的の軸、(3)は直観的/論理的の軸が思考の中心軸になり、上のような手法を使うときには、軸を意識して使っていくといいでしょう。


◆本質の活用方法

最後に本質をどのように活用して、冒頭に述べたような効果を生み出していくかについて考えてみたいと思います。

一つ目は目標設定です。

グレッグ・マキューンが「エッセンシャル思考」の中で、「本質目標」という言葉を使っていますが、目標設定において本質を見極めることは、余計なことをしないという意味で極めて大切です。仕事にせよ、プロジェクトにせよ、本質的な目標を設定して取り組んでいくことが求められます。

そのためには、仕事やプロジェクトの目的をしっかりと見極めた上で、その目的にとってベストマッチになるような目標を設定する必要があります。

二つ目は要求です。仕事は誰かの依頼で行います。ただし、依頼は表面的なもので、依頼の本質は別にあるようなケースが少なくありません。そのような場合には、本質要求を突き止め、実現していかなくては依頼者の期待に応えることはできません。

そのために、なぜ、依頼者はそのようなことを依頼するのだろうかと徹底的に考えるとよいでしょう。そして、依頼されていることが本質だとすればそのまま実行すればよいし、もし本質が別にあるなら本質から考えて依頼者のためにすべきことを提案すればいいわけです。

三つめは問題解決です。問題が発生したときに注意しなくてはならないのは、生じた問題は現象に過ぎないのか、それとも本質的な問題かです。単なる現象であれば問題解決をしても、また、別の形で再発することが考えられますので、本質的な問題を追及してその問題に対して問題解決を図る必要があります。

そのためには、トヨタの問題解決のように、なぜそんな問題が起こるかとWHYを繰り返していき、問題の真因を突き止める必要があります。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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