◆創造性と生産性
一般的に創造性は生産性と相反するものとされます。
生産性を高めるには、ゴールを明確に規定し、ゴールにたどり着く手順をできるだけ標準化し、標準を無駄のないものに改善していくというイメージがあります。これに対して、創造性の高いやり方は、ゴールを自由に設定し、やり方を自由に考えながら、失敗による手戻りを厭わず、進めていくイメージがあります。このため、両者は水と油のような関係にあると考えられているわけです。
ハーバード・ビジネス・レビューの2014年11月号で「創造性vs生産性」という特集がありました。その中で立命館大学の琴坂将広准教授は、企業は創造性によって提供価値を大きくする一方で、生産性を高め、生産費用の低減をしなくてはならない困難に直面しているとした上で、ウィリアム・アバナシーの「生産性ジレンマ」を取り上げ、その両立の困難さを指摘しています。
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 11月号
│特集│ 創造性 vs. 生産性
◆生産性ジレンマについて
生産性ジレンマは、顧客の要求に応えて、生産性の向上とコストの低減の改善に取り組んでいく中で、新しいデザインの創造が妨げられるという現象です。自動車業界で発見された現象ですが、おそらくほとんどの業界で起こっている現象だと思われます。別の視点から、生産性のジレンマが、イノベーションのジレンマを生み出しているとも言えます。
琴坂准教授はジレンマの解消方法として
・独立した小さな組織群に創造性を発揮させる
・製品やサービス自体を創造性と生産性が共存できるよう設計する
・創造性のある技術と人材は外部から購入する
・適切な評価指標と報酬制度を運用する
・組織的なシステムやプロセスを整備する
といったことを提案されています。経営的にみればそういうことだと思います。
ただ、この話はもっと別の見方があるようにも思います。それは、本当に創造性と生産性はそもそも、シナジーがあるという視座です。
◆そもそも、生産性とは何か
冒頭に述べたように、確かに生産性の向かうとことと創造性の向かうところは違いますし、「生産性のジレンマ」も起こるでしょう。また、経営における役割が異なることも間違いありません。ただ、ものは見方で、創造性と生産性にはシナジーがあるのではないかと思うわけです。
そのまえに、そもそも生産性とは何かということを簡単に説明しておきます。生産性とはインプットとアウトプットの比率を示す指標です。インプットに対してアウトプットが大きければ大きいほど、生産性は高いことになります。
生産性には、インプットを何に取るかによっていくつかの概念があります。インプットを労働力にとってアウトプット(成果)を見る労働生産性、インプットを資本にとってアウトプットを見る資本生産性などです。さらに、この2つの生産性を統合した全要素生産性という概念もあります。
詳しくはこちらをお読みください。
【新連載・プロジェクトの生産性について考えよう】第1回〜生産性とは
◆顧客価値という概念のない生産性
上の説明から分かるように、生産性という概念には、付加価値はあっても、顧客価値が入っていません。アウトプットは量であり、同じ価値のものをどれだけの量、生産できるかを見る指標になっています。生産の議論なのである意味で当たり前のことです。
工場で生産しているのであれば設備(資本)も固定ですし、労働も設備に合せて行う定型的業務ですので生産性を表現するにはそれで十分です。同じプロセスから生み出される付加価値も顧客価値も同じです。
が、たとえば設計作業を考えてみるとどうでしょうか?
作業によって生み出される(顧客)価値が設計者によって違います。つまり、量としては設計ドキュメントだとか同じものかもしれませんが、価値の源泉になるのは量ではなく、質です。すると、アウトプットを考えなくては生産性を議論することはできないことになります。
◆創造性が高いほど、生産性が高くなる
ここまで説明すればお分かりだと思いますが、そのように考えると、創造性の高い設計者ほど生産性が高くなることになります。言い換えると、創造性と生産性にはシナジーがあるというのが生産性の現代的な考え方だと言えます。
こういう視点でものをみると、たとえば、工場の生産性においても、創造性が高く、常にプロセス改革を行えば生産性は向上し、生産性と創造性にはシナジーがあるとみることができます。
つまり、生産性のジレンマは、生産性と創造性の相反が問題なのではなく、生産性を考えるときに、創造性を考えないという視座に問題があるのです。
したがって、視座を変えることによって、創造性と生産性は両立できるといえます。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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