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第100話:コンセプチュアルスキルを再定義する(2015/04/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆古くて新しい問題「コンセプチュアルスキル」

PMスタイル考の記念すべき100話のテーマをいろいろと考えましたが、コンセプチュアルスキルとダイバーシティという2つの大きなテーマを組み合せたテーマにしました。

コンセプチュアルスキルはこの数年、力を入れて取り組んでいる分野ですが、「考え抜く」マネジメントというPMstyleの基本スタイルの基盤になるものです。その意味で、100話目にふさわしいテーマです。

PMstyle+では別途、「コンセプチュアルスキル考」という連載もやっていますが、この第1回にコンセプチュアルスキルの起源のようなものを書きました。ちょうど、2年くらい前の記事です。

【コンセプチュアルスキル考】第1話:コンセプチュアルスキルの時代


この記事にも書きましたように、コンセプチュアルスキルはハーバード大学のロバート・カッツ教授が、1955年にハーバードビジネスレビューに発表した論文

ロバート・L・カッツ「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」
Harvard Business Review(1955)

でコンセプチュアルスキルという言葉を使ったのが起源だといわれています。この論文は、工場で働くマネジャー(工場長)にどのようなスキルが必要かを調査・分析し、整理したものです。もう50年以上前の話ですが、未だに多くのマネジャーはコンセプチュアルスキルが弱いといわれますので、古くて、新しい問題です。


◆なぜ、マネジャーにコンセプチュアルスキルが重要か

この論文ではマネジャーに必要なスキルを

(1)テクニカルスキル:業務スキル
(2)ヒューマンスキル:対人影響スキル
(3)コンセプチュアルスキル:概念化スキル

と区分し、作業長などの初級のマネジャーではテクニカルスキルやヒューマンスキルの必要性が高く、職位が上がって工場長になるとコンセプチュアルスキルが重要になってくると指摘しています。

なぜ、このようになるかは「指示」をすることを例にとって考えてみると直観的に分かります。作業長として部下に指示をするときには具体的な作業方法を指示することができます。しかし、工場長になると具体的な指示はできません。もっと抽象的というか、概念的な指示をせざるを得ません。

たとえば、「作業ミスをなくそう」とか、「品質をよくしよう」とかいった指示になるわけです。実は「作業ミス」とか「品質」というのは、具体的なことを言っているわけではありません。作業ミスというのはいろいろある正しくない作業の総称です。品質については定義すらもあまり明確ではない「概念」です。


◆概念的であることと抽象的であることは必ずしも同じではない

よく抽象的で分かりにくいといいますが、実は、この概念的、一般的な言い方をうまくできることにコンセプチュアルスキルの本質があります。

たとえば、「品質をよくしよう」というのと、「仕様を確認し、正確に作ろう」というのを比べてみてください。後者は前者の一つの手段であるという点で、おそらく、後者の方がずいぶん具体的に感じると思いますが、よく考えてみるとそんなに抽象度が違うわけではありません。後者もここだけを切り出してみると具体的に何を言っているのかはよく分かりません。

ところが、この言葉を聞いた作業者の受け止め方は全然異なります。前者だと「自分の仕事で品質って何だ?」というところから始まりますが、後者だと自分の仕事に当てはめ、何を指示されているかが明確に理解できます。

つまり、コンセプチュアルスキルがあるマネジャーは、多くの部下を対象にして、「具体的」な指示ができるわけです。こういった具体的なコミュニケーションが取れることは組織がベクトルを併せて進んでいくためには不可欠です。工場だけであればそんなに難しいことではないかもしれませんが、ここに営業部や開発部があって、全体を同じ方向に向けることを考えて貰うと、非常に難しいスキルであることが分かると思います。

だから職位が高くなればなるほど、多くの人や多くの範囲をみなくてはならず、おのずと高いコンセプチュアルスキルが求められるのです。


◆なぜ、本質が重要なのか

どうすればそんなことができるのかというところがミソです。ここに本質という概念が出てきます。たとえば、工場の例でいえば、あちこちで品質事故の報告が上がってきたとします。そこで品質をよくしようと言っているようでは、マネジャー失格です。

マネジャーであれば事故を多発させている本質的な問題はなにかということを考え、そこに対してメッセージを出す必要があります。そこで、「確認不足」にあると考えたら上のようなメッセージになるわけです。これは具体化しているというよりは品質という概念を明確にしているといった方がしっくりくるでしょう。

以上がロバーツ・カッツ教授が50年以上前にマネジャーにはコンセプチュアルスキルが重要だといった理由です。


◆コンセプチュアルスキルが発揮できない理由

日本ではコンセプチュアルスキルを概念化スキルと呼ぶケースが多く、カッツ教授の指摘を受けて、階層別研修で概念化スキルの研修を入れている企業はすくなくありません。しかし、日本企業は現物・現場・現業を旨としている企業が多く、上でのべたように総じて概念化スキルは弱いと感じている企業が多いようです。

そのせいか、コンセプチュアルスキルは難易度の高いスキルだという印象を持つ人も少なくありませんが、一方で、誰もが一定程度は持っているスキルなのに、「スキルがあっても発揮できない」環境があるという考え方もあります。たとえば、よく抽象的な説明はダメだとか言われますが、こういったことです。

その代表がスタンフォード大学でプロダクトマネジメントの伝説の教授だといわれるジェイムズ・ アダムス教授の「Conceptual Blockbusting」です。この考え方は、メンタル面、組織面、制度面などの壁を壊せばコンセプチュアルスキルは発揮できるようになるというものです。

つまり、論理的な判断だけではなく、決断をしなくてはならない場合、メンタルな要素、組織的な要素など、いくつかの阻害要因が出てきます。これを吹き飛ばそうというのがジェイムズ・ アダムス教授の考えなのです。


◆21世紀はコンセプチュアルな時代

一方で、21世紀になってから違う文脈でコンセプチュアルスキルという言葉が使われるようになってきました。使いだしたのは、ダニエル・ピンク氏です。ピンク氏は21世紀は情報の時代から、コンセプトの時代に変わり、そこで活躍する

・人は何かを創造できる人
・他人と共感できる人
・パターン認識に優れた人
・物事に意義を見出せる人
・総括的にものごとを考えられる人

といった右脳を使うことができるコンセプチュアルな人だと指摘しています。これが10年ほど前のことですが、だんだんそのような方向に進んでいます。


◆コンセプチュアルスキルを再定義する

このピンク氏の指摘や、アダムズ教授、カッツ教授の指摘を踏まえて考えると、コンセプチュアルスキルは単なる概念化のスキルではなく、もっと広い範囲のスキルとして定義しなおすべきではないと思うわけです。PMstyleでは、抽象化を抽象と具象の行き来だと考え、それ以外に4つの軸を加えた

抽象/具象
大局/分析
主観/客観
直観/論理
長期/短期

の5つの軸を行き来する思考方法としてコンセプチュアルシンキングを考え、これをベースにしてコンセプチュアルスキルを再定義しました。具体的な内容については「コンセプチュアルスキル考」の第8回の記事をご覧ください。

【コンセプチュアルスキル考】
第8話:コンセプチュアルスキルを分解する~本質を見極めるための5つの思考軸


実はカッツ教授のコンセプチュアルスキルも抽象化の議論のように思われていますが、よく考えるとそうではありません。

上の品質の例を考えてみてください。何が原因で品質事故が起こっているのかは実はそんなに明確に分かるものではありません。特に工場全体の話となってくるとそうです。そんな状況の中で、仕様確認というところに着眼するのは工場長の主観であり、直観です。言い換えるとこの施策については判断というよりは決断をしているわけです。あるいは大局的な視点で仕様確認に目を向け、事故の内容を分析してみて、そのような結論をあたのかもしれません。ひょっとすると、長期的に見たときにここを問題だとすることによってより大きな成果が得られると考えたのかもしれません。

この5つの軸のいくつかは使った思考になっており、カッツ教授のいうコンセプチュアルスキルのモデルにもなっていると考えています。


◆コンセプチュアルスキルが視点のダイバーシティを生み出す

さらに、コンセプチュアルスキルのとらえ方には、今日的な意味もあります。それは、「ダイバーシティ」です。ダイバーシティというと女性活用といったイメージを持っている人が多いと思いますが、それは一面に過ぎません。性別や年代、国籍など、さまざまな属性のダイバーシティも重要ですが、それ以上に重要なのは「物の見方」のダイバーシティです。イー・ウーマン代表の佐々木かをりさんはこれを「視点のダイバーシティ」といわれています。

ものの見方を決定づける要素は経験や教育などいろいろなものがありますが、視点のダイバーシティが失われている原因は、特に思考の際に主観や直観を抑制していることにあります。

非常に不思議なのですが、日本人は経験を重視するにも関わらず、思考における主観を抑制する傾向があります。どうも、経験という言葉の中に、「同じ経験」というニュアンスが含まれているように思えるのですが、これでは視点のダイバーシティは生まれません。

したがって、自分の経験に基づいて、コンセプチュアルシンキングで5つの思考軸を活発に動かしていけば、視点のダイバーシティは生まれてくるわけです。この意味で、コンセプチュアルスキルはマネジャーだけに必要とするスキルではなく、すべての人に必要なスキルだと言えます。

PMstyleはこれからも皆様のコンセプチュアルスキルを高めるお役に立ちたいと思っています。


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        ※ハーフセミナー、ナイトセミナーは、事前学習が3時間あります
        ※少人数、双方向にて、個人ワーク、ディスカッションを行います
  講師:鈴木道代(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス,PMP,PMS)
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  主催 プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
 ※Youtube関連動画「コンセプチュアルスキルとは(前半)」「コンセプチュアルスキルで行動が変わる
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     【Zoomナイト】2025年 01月 08日(水),10日(金) 19:00-21:00+3時間
        ※Zoomによるオンライン開催です
        ※ナイトセミナーは、2日間です
        ※ハーフセミナー、ナイトセミナーは、事前学習が3時間あります。
        ※少人数、双方向にて、演習、ディスカッションを行います
  講師:鈴木道代(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス,PMP,PMS)
  詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_skill.htm
  主催:プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
 ※Youtube関連動画「コンセプチュアルスキルとは(前半)」「コンセプチュアルスキルで行動が変わる
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 【カリキュラム】
  1.コンセプチュアルスキルとは
  2.本質を見極める
  3.洞察力を高める
  4.応用力を高める
  5.コンセプチュアルスキルでこれからの行動が変わる~ケーススタディ
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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