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体験したことのない仕事をしなくてはならない時代であり、コンセプチュアルスキルは必須である。体験に頼ることができない場合、体験を抽象化し、経験として再利用できるかどうかがコンセプチュアルスキルである

第1話:コンセプチュアルスキルの時代(2013.04.22)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆抽象的であることは悪いこと?!

抽象的とか、概念的という言葉を辞書で調べてみると、

「いくつかの事物に共通なものを抜き出して、それを一般化して考えるさま」

という本来の意味と同時に、

「頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま」

という説明がのっています。何冊か辞書を調べてみましたが、二番目の説明は必ず乗っています。これだとまだ、客観的な表現だといえなくもないですが、インターネット辞書には、「事物を観念によって一面的にとらえ、実際の有り様から遠ざかっているさま」といった説明をしているものもありました。この表現は明らかに好ましくないと言っていますね。

観念というのは一般には(具体的)事実に基づかないことを意味しますし、一面的という言葉も抽象的であることとは無関係な言葉です。従って、説明としてもおかしいわけですが、日本人は、概念的であることを好ましくないこととしてとらえます。企業でキャリアの浅い人たちと話をしていると、一番目の意味より、二番目の意味の方が浸透しているのではないかと思うことすらあります。


◆体験したことのない仕事をしなくてはならない時代

このような現状認識を持ちつつも、これからはコンセプチュアルスキルの時代だと言いたいと思います。なぜか。

人事コンサルタントの酒井譲さんが半年くらい前に、こんなブログ記事を書かれています。

抽象化スキルが、生死を分ける時代に

この記事は、酒井さんが友人から聞いたという「抽象化スキルは、経験の再利用性を高める」という指摘をベースに抽象化スキルとは何か、その重要性はどこにあるのかを考察しているものです。ポイントは、

これまでは体験に基づいて仕事をしていた。ところが、これからはイノベーションやグローバル化で、体験したことのない仕事をせざるを得ない状況が普通になる。そうすると体験に頼ることはできず、体験を抽象化し、経験として再利用できるかどうかが、生死を分ける

というものです。この記事の中でこんな例をあげています。

マクドナルドでバイトをしているとします。この体験の中で、いろいろと観察しながら、思考を巡らし、「外食ビジネスで仕事をする」ということがどんなことかを理解できる人は、他の外食ビジネスでも仕事を得られる。しかし、マクドナルドでバイトをしているとしか考えられない人は一生、バイトのままだと。


◆マネジャーになるにはコンセプチュアルスキルが必要

酒井さんの記事は若い読者向けの記事だと思いますが、仕事を得られることをマネジャーになると置き換えてみてください。つまり、

メンバーとして仕事をしていて、いろいろと観察し、考え、「組織で仕事をするとはどういうことか」を理解できる人はマネジャーになれるが、メンバーとして決められたことだけをやっている人はマネジャーにはなれない

ということが言えます。そこまでしてマネジャーにはなりたくないとか、そんなことをしなくてもマネジャーになれるという人もいるでしょう。特に、後者であるとすれば、あなただけの問題ではなく、そんな人がたくさんマネジャーになっているのだとすれば、会社が傾いてもおかしくありません。

つまり、抽象化スキルや概念化スキル(両方を併せて、コンセプチュアルスキルと言います)は、一人一人にとっての生命線であると同時に、組織や会社にとっての生命線でもあります。


◆ロバーツ・カッツ教授の指摘

このことを60年近く前に予言していた研究者がいます。ハーバード大学のロバール・カッツ教授です。そもそも、コンセプチュアルスキルという表現もカッツ教授が作ったものです。

カッツ教授は、マネジャーが必要とするスキルには、業務を遂行する上で必要な「テクニカルスキル」、人間関係を管理する「ヒューマンスキル」、および、事柄や問題の本質をとらえる「コンセプチュアルスキル」があるとし、マネジャーとしてのレベルがだんだん上がってくるにつれて、「コンセプチュアルスキル」の重要性が増してくることを指摘しました。詳しい説明は、PMstyleのコンセプチュアルスキル講座の説明をご覧ください。

コンセプチュアルスキル講座    詳細pdf   講座一覧pdf

◆なぜ、日本のトップリーダーは弱いのか

日本企業の昔から弱点として言われていることにトップリーダーの弱さがあります。いわゆる経営者層の人材不足です。よく言われるのが決断力がないとか、リーダーシップが弱いといったことです。

トップに立つ人には、ミドルマネジャー(管理者)の時代には伝説的な仕事をした人が少なくありません。そんな人がなぜ、トップマネジャーになるともう一つだと言われるのでしょうか。

カッツ教授の指摘と照らし合わせるとその理由が見えてくるように思います。決めれない理由は責任を取りたくないというのもあるのでしょうが、問題を概念的に捉えず、個々の事象を見ていると具体的な事情が目に入って決断などできるものではありません。リーダーとして社員を引っ張れないのも同じ理由です。現場をしっかりと観察した上で、状況を概念化し、概念レベルでの意思決定をする必要があるのです。そうすると、その意思決定の内容を下位のマネジャーが自分たちのそれぞれの事情に合せて、適切に実行してくれるわけです。

これまでは、シニアマネジャーくらいまでは、プレイングマネジャーとしてヒューマンスキルやテクニカルスキルだけでやってこれたのですが、さすがにその上にいくとそうはいきません。また、逆に上が概念的な意思決定をするようになると、自分たちもそれに対応するためにコンセプチュアルスキルがなくてはやっていけなくなります。

ということで、ロワーマネジメント(監督者)やミドルマネジャーの時代からコンセプチュアルスキルを身につける必要があるのです。

そう考えると、そろそろ、二番目の認識、「抽象的なことは悪いことだ」を捨てる時期に来ています。この連載はこれからはコンセプチュアルスキルの時代だというコンセプトで進めていこうと思っています。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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