◆サービスの標準化は可能か
サービスマーケットセグメントの議論をはじめとし、今まで何回かPMOサービスの分かりにくさ、使いにくさについて述べてきたが、この問題を別の視点から考えてみたい。それは、サービスの標準化という視点である。
一連のコラムの中で、サービスセグメントの話を始め、いくつかサービスの定義の話をした。サービスセグメントそのものは明確になっている組織はそれなりにあるが、サービスの標準化をしている企業は決して多くない。
実は、PMOのコンサルティングの中で、何度かサービスの標準化に取り組んだ経験がある。プロジェクト計画の作成サポート、トレーニングマネジメントの標準化、プロジェクト監査の標準化、プロジェクトイニシエーションサポートの標準化などのテーマである。また、プロジェクトマネジメント活動とPMOサービスの中間的なところで、リカバリーマネジメントの標準化も何度か支援した経験がある。
◆PMOサービスの標準化とプロジェクトマネジメント標準
このテーマは3つに分けることができる。一つ目は、純粋なPMOサービスの標準化である。これはトレーニングマネジメント、プロジェクト監査などが該当する。これらのテーマはプロジェクトマネジメント標準に関係なく、独自に標準化を行うことができる。二番目は、プロジェクトマネジメントの標準に併せてPMOサービスの標準を策定するもので、上のテーマの中では計画サポートやプロジェクトイニシエーションのサポートが該当している。三番目はリカバリーマネジメントで、これは上に述べたとおり、プロジェクトマネジメントをPMOとプロジェクトマネジャーが協力して行うものである。
この中で定着という観点からは、リカバリーマネジメントは定着化の率が高かった。そんなにたくさんのケースを扱ったわけではないが、ほぼ、100%定着している。その次がトレーニングマネジメント。これは結構やっていて、コンテンツの標準も含めて、調達マネジメントの標準化に取り組んだもので、かなりの確率で定着している。プロジェクト監査もケースは少なくない。経営施策上の理由で廃止になったものは2件あるが、それ以外はほぼ、定着している。
◆PM標準絡みのPMOサービス標準は定着しない
これに対して、定着率が悪いのは、計画サポートとイニシエーションのサポート。半分も定着していない。この2つについて定着していない理由は対象が必ずしもうまくいっていないことがあげられる。計画であれば、計画書を作ること、イニシエーションであれば立ち上げの諸手続きである。これらはプロジェクトマネジメントとして行う作業になるのだが、それが形骸化することによってPMOの支援活動も形骸化しているケースが多いようだ。
これをどう見るか?一つの見方はプロジェクトマネジメントのプロセスが影響するようなPMOサービスの標準化は難しく、臨機応変にプロジェクトマネジャーのサポートをするのが現実的な方法であるという見方だ。実際にコンサルティング活動の報告書でそのような分析をしたこともある。もうひとつの見方は、プロジェクトマネジメントの標準化に無理があるという見方。これもある程度当てはまるように思える。
この議論にはもう一つの見方があるように思える。それは、プロジェクトマネジメントとはこの両方を統合したものであり、うまく定着しない理由はPMO側とプロジェクトマネジャー側が責任の押し付けあいをしていたからだという見方である。
◆発想をかえよう
日本ではプロジェクトマネジャーありきでプロジェクトマネジメントの普及が進んできた。企業はプロジェクトマネジャーを育成すればプロジェクトマネジメントが普及していくと考えていた節がある。プロジェクトマネジャーとPMOの関係はPMOありきの関係が自然である。実際に今でもプロジェクトマネジャーをあまり明確にせず、一定の役割にとどめて、PMOがプロジェクトマネジメントを推進している組織を時々みかける。組織がプロジェクトマネジメントを行う場合の自然なモデルの一つでもある。ただ、リーダーシップが重要なプロジェクトや、経営権限移譲が必要な大規模プロジェクトなどにおいてはプロジェクト全体を見るプロジェクトマネジャーを置く。
そのように考えると、プロジェクトマネジメントのプロセスとPMOサービスのプロセスは統合されることが自然であり、統合されたところに初めて組織のプロジェクトマネジメントプロセスが生まれる。つまり、PMOサービスのプロセスを分けずに、プロジェクトマネジメントプロセスと統合するという方向に行くのがPMOサービスの自然なあり方だといえるのではなかろうか。そんな発想を持ちたい。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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