◆知覚品質とは
PMOサービス品質の最後は、「知覚品質」である。知覚品質というのは、ブランド価値(ブランドエクイティ)の権威であるが1980年台に提唱した品質概念である。
通常、品質という場合は、機能を重視し、客観的に測定可能なものを示すが、アーカーの提唱する「知覚品質」は、目に見えない「顧客の頭の中の主観的な評価」を示している。アーカー自身が提唱したのは、ブランドに対する知覚であったが、その後徐々にこの概念は拡大されていき、顧客の頭の中の主観的な評価全般を指す言葉となっている。
知覚品質は、ある意味で、顧客がその商品やサービスに対価を支払う理由である。その意味で極めて顧客視点の品質概念であり、顧客満足を達成するためには不可欠な品質であるというのが最近の認識になっている。
◆PMOの知覚品質を阻害する論理
さて、一般論はそのくらいにして、PMOの知覚品質について考えてみよう。よくPMOのスタッフが漏らす愚痴に、「支援して当たり前だと思っている」というのがある。これは大変興味深い愚痴である。プロジェクトマネジャーがPMOの支援をしてくれて当たり前だと思っている理由は2つある。
ひとつは、自分たちでもやればできる。人手、時間があれば自分でやる
という意味。もうひとつは
プロジェクトで利益を上げているのは自分たちなので、コストセンターは支援して当たり前
という意味だ。これが不当な評価かどうかはなんともいえないが、いえることは「知覚品質」を感じていないということだ。
これは誰の問題なのだろうか?
◆あるPMOマネジャーの悩み
あるSI企業で、PMOマネジャーを兼務する事業部長とプロジェクトマネジメントのオーナーシップについて話をしたことがある。彼はPMOがプロジェクトマネジメントのオーナーシップを持つにはまだ早いといい、次のように言っていた。
経理は経理の専門家、人事は人事の専門家だとみんなが思っているから、オーナーシップというのは成立する。私たちのPMOはまだまだで、まずはプロジェクトマネジャーからプロジェクトマネジメントの専門家だと認知させる必要があるのだが、何かよい術はないだろうか?
そこで、著者は「では今のPMOは何の専門家なのですか?」と聞いたところ、返事に窮してしまった。大人気ない発言をしてしまったと多少後で後悔したが、この議論が知覚品質を向上させるための本質ではないかと思われる。
◆PMOはプロジェクトマネジメント「技術」の専門家であれ!
PMOが品質を上げるためにポイントになるのは、専門性である。専門こそがPMOのブランド価値になる。ここで問題は、何の専門家という問題である。たとえば、品質管理部門は品質管理の専門家であって、製品の専門家ではない。同じように、PMOはプロジェクトマネジメント技術の専門家である。こういうと当たり前のことを思われるかもしれないが、プロジェクト運営の専門家ではない。プロジェクトマネジャーはプロジェクトマネジメントの専門家であり、プロジェクトマネジメント技術の専門家である必要はない。製品と品質の関係である。
このような関係を前提にして考えると、PMOがプロジェクトマネジメント技術の専門家でなければ、プロジェクトマネジャーはプロジェクトマネジメント手法を使ってプロジェクトを運営していこうとは考えにくいのは想像に難くない。知覚品質が確立できないことの原因はここにある。
結局のところ、PMOはプロジェクトマネジメント技術の専門家であれということなのだ。そのためには、何とかプロジェクトを成功させるための支援活動という現実主義に走ることなく、プロジェクトとは一線を画して、コラボレーションするような関係になることが必要である。
◆視点が違うから存在価値がある
実は上で出てきた事業部長さんにこの話をし、議論していたところ、
結局、PMOというのは、プロジェクトマネジャーとは違った視点を持ってプロジェクトを支援するところに価値がある
ということに気づかれた。そのとおりである。
PMOはプロジェクトマネジャーと一緒に悩めということを言っている組織がある。一緒に悩むのはいい。しかし、同じ視点で悩んでも、現場を預かっているプロジェクトマネジャー以上のアイディアが出てくるとは到底思えない。
プロジェクトマネジャーと同じ視点しかもてないようなPMOであれば、知覚品質は生まれないし、そもそも、存在価値はない。その視点としてプロジェクトマネジメント技術というのは非常に有効だと思われる。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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