前回は、利害の対立を越えて、協力関係を築くために、共通の利害を見つけようと書きました。今回は、過去の不愉快な経験を克服する、です。
過去の不愉快な経験は、相手が敵に見える“3大要因”のひとつです。ひとたび嫌な思いをすると、その思いを変えるのはなかなか容易ではありません。一例は、世界中で頻発する宗教、民族の対立です。遠い第三国にいる私にとって、当事者の感情は推測するしかありません。しかし、彼らが「相手との関係で不愉快な経験をした → また嫌な経験をするに違いない → 嫌な思いをする前に相手に思い知らせてやろう」と考えるのは、容易に想像できます。こうして紛争はつきないのでしょうか。
このような紛争は、仕事の現場でもときどき見られます。民族間の紛争と違うのは、「・・・→ 嫌な思いをする前に、相手に思い知らせてやろう」に加え「嫌な思いをするぐらいなら、相手にしないでおこう」という選択肢があることでしょうか。いずれにせよ、他部門の誰か、顧客、上司・・・。以前不愉快な思いをした相手は、敵に見えがちです。
「経理部のあいつは、以前忙しいときに細かい注文をつけてくれた。おかげで計画より遅くなってしまったよ」
「あのお客は、いつもクレームばかりつけるんだ。あんな客には売りたくないね」
「時間かけて準備したプランなのに、うちの課長ときたら何も言わずに突き返してくるんだ。どうせ今度もそうさ。どうして私の仕事の邪魔をするんだろう」
そして、しばしば相手に対する否定的な仮説の立証を試みます。たとえば問題が起きないように丁寧に説明するかわりに、再び相手がクレームを言ったり拒否することを導いてしまうのです。
<プロダクトマネジャーを敵にまわした営業マネジャー>
消費財メーカーの若き営業マネジャー秋田氏は、新製品の導入プロモーションについてプロダクトマネジャー清川氏とミーティングを持つ予定だった。早期に詳しい製品情報がほしかったし、担当する地区の販売では他の営業マネジャーに負けたくなかった。
しかし、秋田氏にとって清川氏は苦い思い出のある人物だ。昨年の新製品導入の際は、情報提供を求めたにもかかわらず返答がなく、結果はいまひとつ。ところが秋田氏のライバルの営業マネジャーには、十分な新製品情報が届き、担当地区での導入に成功したのだ。この一件で、秋田氏は清川氏に対して不信感を抱くようになった。「なにが気に入らなかったんだろう。私のところには情報をよこさないで、あいつにだけ情報提供するなんて。清川さんは私を信頼していないんだろうか・・・」
その後清川氏に会いにくくなり、話す機会が減っていることに気づいた秋田氏だったが、そのまま忘れていた。あれから1年、再び清川氏だ。穏やかに臨もうと思っていた秋田氏だったが、昨年のことを思い出すと、いらいらしてきた。私のことをよく思っていないのではないか。つい緊張する。すると、伝えようと思っていた新製品成功への決意など、すっかり吹っ飛んでしまい、口数も減ってしまう。いい歳してよくないな、と思いながらも、ひとたびいらだちを感じると、なかなか止められない。
それから2日、清川氏からの情報はまだ届かない。これではプロモーションプランが滞ってしまう。メールして催促しなければ!「やはり、彼は私をあまりよく思っていないようだ。いくら超多忙とはいえ、もっと早く反応してくれてもいいのに。本当にやりにくい!」
清川氏の方はといえば、秋田氏の様子から、それほど急いでいないのかと考え、また多忙のうちに、対応が遅れている様子だった。別に秋田氏に悪い感情を抱いているわけではなかった。ただ、そうしているうちに優先順位が下がってしまっていたのだ。それなのに、秋田氏から「感情的なメール」を受け取るとは!戸惑っているのは清川氏だ。
対応と考え方
まずは、相手から何を得たいのかを定めることが肝要だ。どのような協力を得られればよいのだろう。
そのうえで、相手の置かれている状況を客観的に検討しよう。つまり、相手は本当にこちらに敵意を持っているのだろうか。そうかもしれない。しかし、まだ確認できていないことである。確認できていない事態に振り回されるのはよろしくない。以前カウンセリングのトレーニングを受けたとき、事実でないことに振り回されるのは、憂鬱(抑鬱)のもとだ、言われていた。
その解消のひとつの方法が事実の収集だ。冷静になって客観的に見ていけば、事実はそんなにひどいものではないかもしれない。たとえば、清川氏も秋田氏を嫌っているのではない。ただ、忙しさにかまけていた、あるいは秋田氏の意図を誤解していただけではないか。
さらに、相手の立場を考えてみよう。担当する新製品の発売を控えたプロダクトマネジャーは、多忙を極めているだろう。彼は何にプレッシャーを感じているのか?秋田氏の依頼の優先順位を下げてしまうのはなぜか?他の営業マネジャーが、清川氏を強力にプッシュしているのではないか。客観的に見ていけば、手の打ちようが見つかるだろう。仮に見つからなかったとしても、相手の置かれている状況を考えていくだけで、相手に対する敵意や苦手意識は低減する。一般的に、知らない相手のことはよく思わない傾向がある。逆に知れば知るほど、友人になれるのだ。敵と思っていた相手と、一杯飲みに行ったら友人になったりするではないか。相手の置かれている状況を理解するのは、過去を克服するチャンスになる。
まとめ 敵とであったときこそ、事実を検討しよう。相手の立場に立ってみよう。それだけで、相手に対する敵意は薄らぎ、協力を得られるようになる。
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高嶋 成豪 インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー
人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師
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