前回プロジェクトリーダーが、多くの敵と向き合っているという現実について書きました。敵とは自分に害をなすもの。反対語は味方です。かつて職場は身近な仲間で構成されていました。しかし、現在では協力会社、顧客など、外部の人たちと仕事をする機会が増えています。それも各々厳しい目標を抱え、面倒な仕事はやりたくないと考えている。そうして、リーダーの足を引っ張る、害になるというわけです。それゆえ、敵が増えたと感じられるのは、実に自然なことです。
相手が敵に見えるのは、
1.利害の対立
2.過去の不愉快(敵対的)な経験、
加えて
3.心理的な現実、
のためです。私たちは、これらを3大要因と考えています。今回から、それぞれの要因と対応策を検討しましょう。まずは、
1.利害の対立によって相手が敵に見える、
からです。
利害の対立によって相手が敵に見えるのには、共通する特徴があります。「利害が対立している → 相手はこちらの思うように動かない → 敵に見える」です。たとえば、提携関係にある企業同士が、いずれも自分たちの方の技術をいかすことを考えていれば、そこには利害の対立が生じます。どちらも互いに譲りたくない。これが長引けば、相手が敵に見えてきます。M&A(企業の統合と買収)の50%以上(人によってはほとんどすべてと言っています)が相乗効果を生んでいない、といわれる背景でもあります。
利害の対立は、部門間にも見られます。開発部門は高い性能を求められているが、生産部門は製造コストの削減を要求されており、コストのかかる高性能の追求は回避したい。営業部門は売り上げ拡大のために大々的なプロモーションを展開したいが、経費を抑えたい経理部門は小規模な展開にしたい。事業部門は個性的な人材を採用したいが、人事部門はあとで文句を言われないように無難な人材を採用したい。などなど。
もちろん個人間の利害対立も見られます。それぞれ異なった目標を持っているときは、相手と協力するのは容易ではありません。あるプロジェクトの完遂を年度の目標としているエンジニアの方に、別のプロジェクトを優先してくれと頼むといやな顔をされるのがその例です。また多くの人は、自分の知っている技術や知識でものごとを解決したいものです。ですから、聞いたこともないような新しいテクノロジーの話が持ち出されると、とたんに身構え、しばしば敵対的な雰囲気になります。
それでも何とかやってきているのは、互いに仲間意識があるからです。同じ部門だから、同じ組織で仕事しているから、いつも顔を合わせているから・・・。この仲間意識こそ、職場で利害の対立を超える原動力だったはずです。ところが、先述のように今では外部の人たちと仕事することが増えています。外部の人たちとの間に仲間意識を築くのは、容易ではありません。研修などでお会いするSI企業のプロジェクトマネジャーが口をそろえて言うのは、「協力会社とは利害が一致しないから、プロジェクトがうまくいかなくなる」です。そしてその多くの方が、利害を一致させるのは困難だ、と考えています。
この課題を、どう乗り越えられるでしょうか。ここでは3つの考え方をご紹介しましょう。まずは正攻法。共通の利益を見つけて、両者が納得することです。私たちが他者と味方同士になれるのは、共通の利益があるときです。共通の利益のために、立場を越えて協力する。たとえば、この春開催されていた、WBC(ワールドベースボールクラシック)の日本代表チームはリーグ戦を争うそれぞれのチームに所属していますが、それでも、全員が一つのチームとしてまとまれるのは、勝利に共通の利益を見いだしていたからに違いありません。
2つめは共通の不利益の解消です。たとえば、連日深夜残業が続き、みんながストレスの限界にきていると感じられたとき、普段は仲のよくないグループ同士が協力して、残業を減らせた、というのがこれです。
それでもうまくいかないときは、「共通の敵」の存在が役立ちます。「競合会社を敵と仮想し、グループ内、部門間の連携が強まった」というのが一例です。職場ではしばしば、「上司がどうしようもない人だったので、みんなが一丸となった」という話があります。社会心理学者フリッツ・ハイダーが提唱した均衡理論によると、Xを好ましくないと感じているAは、同様にXを嫌っているBを好ましいと感じるといわれています。この力はかなり強力。「相手の協力が必要だが、敵対感情がある」という場合、共通の敵がいれば相手を味方にできるというわけです。「ライバルは競合会社」「効率の悪い業務プロセスが本当の敵」「排出される二酸化炭素こそ敵」など、何が共通の敵となるか考えてみるのです。
これらはいずれも、相手とこちらの双方に共通の目標に向かうことで、敵を味方にしてしまう考え方です。その際相手の顔を思い出さずに、目標だけ念じるのがポイントです。
本日のまとめ 敵と思われる人を味方にするために、両者に共通する利益の追求、不利益の解消、そして共通の敵を思い描いてみよう。
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高嶋 成豪 インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー
人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師
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