「協力会社が働かないから、火を噴いている。やつらを何とかしてくれ」
「マーケティングの連中の仕事は、こっちの足を引っ張ることなのか」
「幹部は絶対できない無理難題を押しつけてくる」
プロジェクトを率いるリーダーから、しばしば聞かれる声です。それも近年より多く聞かれる気がします。みなさんも思い当たることはありませんか?どうやら、プロジェクトは、潜んでいる敵との闘いのようです。上司、他部門のマネジャー、プロジェクトメンバー、協力会社、取引先、顧客。プロジェクトに関わる誰もが敵になり得ます。
そもそも「敵」とは、「自分に害をなすもの。かたき。あだ。(「広辞苑」)」とあります。反対語は「味方」です。「害をなす」とは、自分の仕事を妨げる者、自分を傷つける者、苛立たせる者、ということでしょうか。確かに、プロジェクトの関係者には、しばしば仕事を妨げられ、苛立たせられます。ときには、相手の不愉快な一言で傷つくこともあるでしょう。仕事の中で敵と出会わなければならないのは、嫌なものです。
この「敵」は、増えていると感じます。それはおそらく、プロジェクト、という仕事の進め方自体に由来するものでしょう。私が社会に出た1980年代後半、同じ部・課のメンバーといっしょに仕事をしていました。同じ部のメンバーと食事したり、旅行した記憶もあります。先日お話しする機会があったエレクトロニクスメーカーのエンジニアの方も、やはり80年代の後半、職場でスキーに行ったと懐かしがっていました。当時、業務は部・課に属するもので、その結果、部や課の同僚との結束は堅かったのです。
しかし、「バブルの崩壊」から「失われた10年」と呼ばれる時期を乗り越えて、日本の組織は大きく変わりました。高度な専門性をもつ個々人が、案件毎にチームを組んで仕事をしていく。そこでは、部・課の同僚よりも、他部門や協力会社のメンバーと仕事をすることが多くなっています。とくに、製品の開発部門やSIにお勤めの方だと、クライエントの現場に張り付いていて、上司と会う機会はほとんどない、という方が少なくありませんね。つまり、身内と仕事をするよりも、外の人たちと仕事している。このことが、敵と会いやすくなったひとつの理由でしょう。同時に、成果主義がひろがってきて、個人へのプレッシャーが高まってきたために、協力する余裕がなくなってきたことも、敵が増える理由と思われます。もちろん、多くの関係者はよい人です。ですから、私たちの仕事に積極的に協力してくれます。とはいえ、一部が敵となって、私たちに害をなすのが現実です。
問題は、敵を放置できないことです。放置しておいて良いのなら、それもいいでしょう。しかし、そのために損をするのはこちらです。「現場の協力が得られなかったので、計画を下まわってしまった」「協力会社のメンバーは、言われたことしかやらない。そのため、私はひとりで仕事を背負い込んでいる」「本部長は重要なプロジェクトだといっていたが、人も金も出そうとしない」などなど。プロジェクトリーダーの嘆きが聞こえてくるようです。敵のことは忘れたい。しかし、敵を放置すると、「(1)敵を放置する → (2)敵は敵のまま → (3)自分が重荷を背負う」となりがちです。こうして、何人のリーダーたちが倒れていったか。友人の臨床心理士によれば、「以前はまじめで思い詰める典型的な人がうつ病になった。最近は、タフで「この人が?」という人がうつ病になっている」のだそうです。嫌な話です。
では敵と一戦交えればいいか。完全に服従させられるなら、それも良いでしょうが、従順な人はめったにいません。従順なふりをする人はいます。面従腹背の人は、プロジェクトが佳境に入ってプレッシャーがかかってきたときに、「それはリーダーの責任じゃないんですか」などと本音を吐きます。もちろん、戦闘状態になってしまえば、チームは割れてしまい、進むべき仕事が止まってしまいます。それは避けなければなりません。
いずれにしても「敵」がいる限り、私たちにとって良い結果にはならないということなのです。
さて、このメルマガの壮大なねらいは、敵を敵として放置しないで、味方につけることはできないか、探っていこうというものです。すぐれたリーダーといわれた人たちは、敵を味方につけた人たちです。徳川家康、上杉鷹山、松下幸之助、ミハイル・ゴルバチョフ、ジャック・ウェルチ、バラク・オバマといった名前が、私には思い浮かびます(これらの名前には賛否両論ありましょうが)。もし、私たちの敵を味方につけることができたら、プロジェクトの生産性は上がると思いませんか?厳しい品質基準や納期にも対応できる、と期待できます。仕事に対するやりがいや、喜びが高まるかもしれません。
敵を味方につける、という試みに興味を持ってくださる方は、ぜひ引き続きお読みください。
本日のまとめ プロジェクトのまわりには多くの敵がいる。現在は、敵と出会うことが当然と考えよう。そのうえで、敵を味方につけられないか、検討しよう。
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高嶋 成豪 インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー
人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師
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