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第24回 部下をプロデュースする(2009.06.08)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆「ひとつ上のプロマネ。」ブログより

ロバート・グリーンリーフの提唱する「サーバントリーダーシップ」というリーダーシップが、トーマス・フリードマンの予言する「フラット化された世界」の中で、カリスマ型のリーダーシップに代わって、中心的なリーダーシップ概念になるだろうと言っている人は多い。もう少し、さかのぼれば、ピーター・ドラッカーのいうナレッジワーカーには、サーバントリーダーシップが必要になるということだろう。

リーダーシップがそうであるように、サーバントリーダーシップも具体的にこういうものだという説明がしにくい概念である。ロバート・グリーンリーフのサーバントリーダーシップを日本に紹介された神戸大学の金井壽宏教授はご自身に子供ができた頃に、「親の子供に対する行動」をサーバントリーダーシップの説明に使われていたが、いまだに、この説明がもっともしっくりとくる。

日本の高度成長期には、「家族型経営」を標榜している企業が多かった。社長は父親、シニアマネジャーは長男、マネジャーは次男、社員は末っ子、そこに母親として管理スタッフがいる。著者が勤務していた会社もそうだったが、そんな会社が多かったのではないかと思う。

家族の中で、親は自分の子供の成長や成功を願う。自分の生活を顧みずに、子供に尽くす。子供を育てる(保護する)義務はあっても、成功させる義務はあるわけではない。かといって、子供が成功すれば自分に見返りがあるなどと考えているわけでもない。子供も感謝しているし、自然においた親に恩返しをしようとする。影響力の法則でいうところのレシプロシティが機能する。

そのような構図が出来ている日本企業の中では、サーバントリーダーシップは、ずっと昔から普通のことだったのではないか。皮肉なことに、欧米で注目されだした頃に、日本人は自らその価値を理解することなく、放棄してしまい、「トヨタウェイ」のように欧米が体系化したものをありがたがって導入するというパターンになりそうだ。

金井先生の講義でこの話を耳にしたときに直感的に思ったのはこのことだった。実際に直感は当たっていたように思う。今のところサーバントリーダーシップに反応するのは、例外なくいわゆる日本型経営で成長してきた企業だ。なくして、初めて価値が分かったのだろう。ただし、これを「人工的」にやるのは並大抵のことではないが、DNAがどこまで残っているのかが問題だ。

という文章を、「ひとつ上のプロマネ。」に書いた。


◆創るプロジェクトにはサーバントリーダーシップが不可欠

プロジェクトを創っていく中で、欠かせないのは、サーバントリーダーシップである。
プロジェクトを創るということは、新しいことをやるということとほとんどイコールだ。すると、そのようなスキルや経験を持つ人材を捜してきて、やってもらうということは考えにくい。というか、それではたいしたことはできないといってもよい。そこで必要になるのが、サーバントリーダーである。

プロジェクトを創るミドルマネジャーの仕事を一言でいえば、部下の「親」になることである。親には育成的な側面と、支援的な側面がある。

サーバントリーダーシップである限り、育成にしろ、支援にしろ、目的ではなく、結果でなくてはならないことだ。これは以外と難しい。行動をするのになにがしかの目的、あるいは、目的に基づく行動規範はほしいものだ。


◆サーバントリーダーシップの実践としてのプロデュース

そこで、注目してみたいのが「プロデュース」という概念である。プロデュースという概念には、通常のリーダーシップとしてのプロデュースと、サーバントリーダーシップとしてのプロデュースがある。このコラムでは、プロデュースを前者として議論してきた。しかし、ビジョンが大きなものであればあるほど、自分一人の力で成し遂げることは難しく、またコラボレーションに頼るのにも限界がある。

そこで、考えなくてはならないことは部下が想いを遂げることをプロデュースし、結果として自分の想いも達成するというようなリーダーシップが考えられる。

この場合、自分の想いを部下と共感してもらうというのとは少し違う。自分の想いに共感を得て、部下が自分の想いの(一部を)実現できるように支援していくわけではない。プロデュースするのは、あくまでも部下の「自発的な」想いである。

それでは部下はいうことを聞かないだろうという思いが頭をよぎる人もいるだろう。
それはある意味で正しいが、ここで重要になってくるのがサーバントリーダーシップなのだ。この話が振れすぎるとメンターのような存在、つまり、相手のすべてを肯定的に受け入れていくような関係になる。基本的に部下のプロデュースの活動というのはかなりの部分がメンタリングと被る。ただし、この部分ではメンターとは本質的に異なる。

強いて言えば、子供が親の背中を見て育つそんな関係ではないかと思う。ただし、ロールモデルかというとそれも違う。やはり、サーバントリーダーシップである。

この議論は次回、もう少し深めてみたいと思っているので、今回は個々までにするが、最後に、この議論にはもう一つのキーワードがあることに振れておく。

◆もうひとつのキーワード「編集」

編集だ。今、自分の想いと、部下の想いといういかにもマッチング的な議論をしているが、実はこの議論はまったくそのような類のものではない。ここでいう想いというのは相当に抽象的なものである。たとえば、社会に貢献する商品を開発したいというような抽象度であることが多い。

従って、部下の想いや行動が、自分の想いにマッチしているかどうかはその時には判断できないことの方が多いと思われる。だからサーバントリーダーシップだという話でもあるのだが、そのような前提で考えてみると、そのためにある商品を開発することが正しいかどうかはある意味で結果でしか語れない。少なくとも売れるという条件をクリアしなくては始まらない。

つまり、想いを実現するための一ステップになるかどうかは仮説に過ぎないし、逆にいえば、部下の活動を以下に自分の想いの達成の中に組み込んでいくかという編集の問題でもあるのだ。

この点も、おいおいと述べていきたい。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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