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第19回 目標を構造化する(2009.03.16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆もう一つのOBS

前回はゴールの可視化の話をしたが、みなさんは、OBSという言葉をご存じだろうか?PMP(R)の方であれば、

 OBS:Organization Breakdown Structure

と間髪を入れずに答える人も多いと思う。プロジェクトマネジメントの世界ではできるだけ使わないようにしているのだが、実は著者の造語で

 OBS:Objective Breakdown Structure

の略である。Objectiveとは目標のことで、目標のブレークダウンストラクチャーである。もともとはプログラム的な戦略プロジェクトのマネジメントツールとして考えたもので、P2Mでは、目的・目標連鎖という言い方をしているものである。また、最近では、小規模プロジェクトのマネジメントツールとしても使っている。


◆WBSとは何なのか

改めてWBSというのがどういう性質のものかを考えてみて欲しい。

普段、みなさんが扱っているような問題だと議論がややこしいので、以下のようなプロジェクトを考えてみよう。

【プロジェクト】

新バージョンのプロジェクトマネジメント情報システム(以下、PMS)のユーザを2000人獲得するキャンペーンを展開する。ユーザ獲得の方法は、既存ユーザからの紹介と潜在ユーザへの売込みである。

WBSを作ると、例えば、

ユーザ獲得キャンペーンを実施
 −既存ユーザ3000人に紹介キャンペーンを行う
   −電話で直接紹介を依頼する
   −紹介された潜在顧客にコンタクトを取る
 −営業リスト1万人にダイレクトメールを出す

といった感じになる。

ここで注意して欲しいのは、これで目標としている2000人の新規ユーザが獲得できるという保証はないことだ。理由はそれぞれの行動に達成リスクが伴うからだ。技術系の仕事というのは達成リスクを作らないように計画していくのでこの点を見逃しがちだが、ないわけではない。例えば、要件のヒヤリングをするときにどのような範囲のヒヤリングをかければ確定するか。もっとデータっぽいところでは、ソフトウエアテストなどは上の例と同じような作業の不確実性が伴い、行動=目標達成にならない。


◆作業ではなく、目標の構造化が必要

このような場合には、WBSで作業を構造化するのではなく、目標を構造化した方が望ましい。例えば、

3000人の新規ユーザを獲得する
 −既存ユーザから5000人の潜在顧客の紹介を得る
   −潜在顧客のうち、1500人の新規顧客を得る
 −一般の潜在顧客から500人の新規顧客を得る

という目標の構造を作るわけだ。もちろん、この目標の構造の最後に、WBSでいうところの具体的なを記述したワークパッケージを記述してもよい。

もうお気づきになった方もいらっしゃると思うが、モノのWBSを作るときに、成果物をブレークダウンしていくとちょうど同じようなブレークダウンになる。

つまり、目標の構造化というのはプロジェクトマネジメントでいえば、WBSを使って行うことができる。

多少、違う点があるとすれば、最小の中間成果物とワークパッケージの間にどの程度の不確実性があるかだ。つまり、その中間成果(中間目標)がどのようにすれば達成できるかがわかっているかどうかだ。この点で、技術的なプロジェクトは組織が不確実性を許さない傾向があるが、研究開発や上に述べたように対象に人が絡んだり、あるいは、作業そのものに統計的要因が絡む場合には、結局同じことになる。


◆目標の構造化により行動修正が可能になる

さて、そのことを念頭においた上で、最初の作業を構造化した例と、目標を構造化した例をもう一度比較して欲しい。

本質的な違いは、作業を構造化した場合には、うまく行かなかったときに修正が極めて難しい点にある。これは「どうやるか」型プロジェクトでも大きな問題になっているし、「何をするか」型プロジェクトだと致命的な問題になる。

例えば、WBSでは本当に3000人の新規ユーザの獲得ができるかどうかはやってみなくてはわからない。本当はリスクマネジメントによってコントロールすべきなのだが、例えば上のような問題の構造になっていると、既存顧客がダメなら、新規ユーザへのコンタクトを計画の倍おこなってつじつまを合わせような行動を取っているケースが多い。

ましてや、「何をするか」型プロジェクトでは、全体的な目的やプロジェクトビジョンとして決まっているが、この構造そのものに不確実性があることが多い。上の例でいえば、新規顧客を3000人増やすというビジョンはあるが、既存顧客向けのキャンペーンと一般の潜在顧客向けへのアプローチだけでよいかどうかという問題が出てくる可能性がある。例えば、他社のPMSのユーザへのアプローチで乗り換えを促して500人のユーザを獲得するという目標変更をしなくてはならない可能性もあるわけだ。

これがOBS(Objective Breakdown Structure)が重要な理由である。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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