◆プロセスを可視化しても、ゴールを可視化しない
プロジェクトマネジメントの一つの目的は可視化である。また、プロジェクトマネジメントにおいて、プロジェクトファシリテーションなどの名称で盛んに可視化をするアプローチが取り入れられている。
プロセスは非常にうまく可視化している。アジャイルソフトウエア開発の現場などを見ていると感心することがよくあるし、最近は商品開発のプロジェクトなとでもうまくやっているプロジェクトを見かけるようになった。
ところが不思議なことに、ゴールは可視化されていない。というか、可視化しようという発想がほとんどない。
◆完成図を見せないとほとんど完成しない
この話は、なかなか、事例を引いて説明することは難しいので、一つのモデルケースとして弊社のLEGOブロックを活用した研修の結果を紹介しながら、考えてみよう。
コミュニケーションマネジメントの研修で、LEGOのXpodという商品をつかって、プロジェクトマネジャー(役)の指示で40部品くらいの簡単なロボットを組み立てるエクスサイズを行っている。プロジェクトマネジャー役は完成図と組み立て図を見て、メンバー(役)に作業指示をする。メンバー役に与えられているのは写真入りの部品表だけ。もちろん、プロジェクトマネジャーが完成図を絵をかいてメンバーに見せるのは自由だ。
このエクスサイズで、完成図を描いてみんなで共有するという行動をとるプロジェクトマネジャーは非常に少ない。エクスサイズは気づき系になっていて、1回目は何も考えずにやらせて、2回目は1回目の振り返りを踏まえて、もう少し部品数が多いロボットの組み立てに挑戦するのだが、2回目でも3チームに1チームくらいの割合でしか完成図を共有しない。
◆完成図を共有しない理由とその結末
完成図を共有しない理由を聞くとさまざまであるが、見逃せないのは部分を伝えれば全体が組み立てられると本気で思っている人が結構な割合でいることだ。特にエンジニアにはこのタイプが多い。ドラッカーの石切工のいう寓話に近いような話で、みんなが石をきちんと決められた通りに加工し、決められた場所においていけば最後には教会ができると思っている訳だ。まるでピラミッドの建立のような話である。
ちなみに、ある時期から統計を取るようにしている。1回目の完成率は5%以下、2回目で完成図を共有しているグループのロボットの完成率は80%程度、そうでないグループは30%程度である。
さて、もう一つの研修の事例。PMstyleでもやっているが、同じLEGOの商品「LEGOマインドストーム」を使ってプロジェクトマネジメントの疑似体験をするプログラムがある。この研修では動作課題を与え、その動作をするようなロボットを作る。動作課題は、例えば、「ペットボトルを避けて前進し、黒い線を超えたら止まる」といった課題である。
この課題を実行するときも、完成図をほとんどのチームはかかない。この課題は、上のミニロボットの課題と違い、LEGOの形だけではなくソフトウエアのプログラミングもあるし、ギアなどの機構の設計もある。要するに見えないプロダクトである。
ほとんどのグループは、ゴールイメージはかけないということで機能設計をはじめる。その機能をベースにして計画をし、機能がどのくらいできているかは可視化する。
◆ビジョンを示すことによって成果物の品質が向上する
これに対して、まれに、完成図とユースケースに相当するような図をかいて共有しているグループがある。このようなことをするグループの作るものは例外なく品質が高い。詳細な分析をしたわけではないが、いわゆるゴールの共有が意識を合せ、プロジェクトに対する求心力を高め、高いコミットメントを引き出しているという現象だと思われる。
また、この研修で、「商品ビジョンボックス」というツールを使わせることがある。詳細は
商品ビジョンボックス
を参照して戴きたい。すると、やはり、成果物の品質が上がる。ここで言っている成果物の品質とはそんなに厳密なものではないが、課題の要求通りの機能、デザインの良さなどである。デザインはある意味で当たり前だが、機能的な品質が上がるところが注目すべきポイントである。
今までももっとも感動的だったのは、ゴールの可視化だけではなく、スケジュールに合せて中間ゴールの可視化まで行ったチームだ。もちろん、抜群のできだった。
プロジェクトマネジメントでプロセスの可視化をすることはもちろん重要なのだが、肝心のゴールの可視化と共有ができていないと可視化の効果は半減する。ゴールの可視化をしよう!
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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