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第39回 成熟度向上へのアプローチ(2009.11.30)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆どのアプローチを取りますか?

しばらく脱線していたが、成熟度のレベル感をどのように持てばよいかという話をしてきた。次のテーマとして、具体的にどのように成熟度を向上させるかという議論に移りたいと思う。

A企業はPMBOK(R)の管理メカニズムを使ってプロジェクトマネジメントを行うことを方針に掲げた。そのために、PMBOK(R)のプロセスを実践することを「課題」と考えた。まずは、プロジェクトマネジメントのアセスメントを行い、できていないプロセスのインプリメントを行うことになった。いくつもある。そのうちの重要なプロセスができていないことを「問題」だと捉えた。そして、その問題を解決すべく、PMOがいろいろと手を打っていった。

B企業はプロジェクトで発生している問題を調査した。納期遅れの多発など、いろいろな問題があり、その問題を解決するために行う改善策を「課題」として設定した。

C企業はプロジェクトで発生している問題を調査する一方で、マネジャーやプロジェクトマネジャーにインタビューを行い、プロジェクトをどのように進めていきたいかを調査した。両方の結果を併せて、プロジェクトマネジメントのあるべき姿を描き、あるべき姿に到達するために必要な管理メカニズムをPMBOK(R)を中心にして構築していった。

いずれも実際にあったプロジェクトマネジメント改善事例をベースにしている。あなたなら、プロジェクトマネジメントの成熟度向上のために、A社、B社、C社のいずれのアプローチをとるだろうか?


◆課題設定か問題抽出か〜ある事例

議論の前に、言葉の整理をしておく。なにか不都合がある場合に、課題設定を行って解決するアプローチと、問題抽出をして行うアプローチがある。

たとえば、プロジェクトの納期遅延が非常に多いとしよう。この場合のあるべき姿は「納期遅延のプロジェクトがなくなる」ことである。これはいいだろう。

この場合に、納期遅延の原因を調べてそれをつぶしていくというアプローチがある。問題解決型のアプローチである。調査の結果、いくつかの問題が出てきたが、もっとも重要な問題はプロジェクトの計画段階での遅れであると結論した。ほとんどのプロジェクトはプロジェクト計画書の承認が終わった頃にはプロジェクト計画とのずれがある。計画上はプロジェクト作業が開始されていなくてはならない。

そこで、プロジェクト計画立案をPMOが支援して、計画の早期決裁を実現することにした。効果はあった。大半のプロジェクトが計画上の作業開始予定日には作業が開始できるようになった。ところが、納期遅延はそんなに減らなかった。計画はできても、多くのプロジェクトではメンバーが前任のプロジェクトの仕事をスパッと終えることができず、計画通りに着手できなかったのだ。

これは以前からの納期遅れの影響かもしれないと考え、すべてのメンバーが集められないわけではないので、しばらく様子をみようということになった。1年間を経過措置期間としたが、結局、そんなに状況は変わらなかった。依然として、プロジェクトの立ち上がりにメンバーがそろわないことが多い。

その原因は、割り込みにあった。リーダークラスのメンバーがプロジェクト中に組織マネジャーからの依頼で、すでに発売した商品のトラブル対応にあたったり、あるいは顧客対応で割り込みがかかり、リーダーが担当するパート全体にスケジュールの影響を出していることがわかった。

これも実話だ。プロジェクトではいろいろな要素が「システム」になっているので、モグラたたき式に問題解決しようとすると、その問題は解決できても、別の問題が出てくることがよくある。

そこで重要なことが課題設定である。すべてのプロジェクトが納期内の完了するようにするには何をすべきかという視点からものをみるのだ。重要なことは遅延の原因はある程度把握する必要があるが、その点も踏まえて、総合的な手を課題として設定することだ。

あなたなら、どのような課題を設定するだろうか?

計画を着手予定日までに終え、着手日にはメンバーをそろえ、かつ稼動を確保する。

といった総花式だろうか?この組織は、途中から問題解決から課題設定型アプローチに切り替え、

前倒しに行動する

というシンプルな課題設定を行った。問題のループを書いてみればすぐにわかるが、この組織の根本的な問題は、行動が後手に回っていることである。それがいろいろな形で問題を引き起こしている。そこで、それをつぶすことを課題をしたわけだ。


◆目的と手段を混同しなし

冒頭の問題に戻ろう。実は、A社、B社と、C社が描いているあるべき姿は異なる。A社、B社はプロジェクトマネジメントの方法をあるべき姿として描いているのに対して、C社だけはもう少し抽象的に文化をあるべき姿として描いている。

プロジェクトマネジメントの改善の目的はいろいろとあるので、C社が正しいと結論したいわけではない。ただ、成熟度を上げることを目的とするなら、C社のやり方が正しい。

ポイントは目的と手段である。たとえば、OPM3にあるケイパビリティは一見、目的のように見えるが、実は手段である。目的はそれぞれが考え、そのために役立ちそうなケーパビリティを目標として成熟度向上のプラニングをするような仕組みになっている。

目的は組織としてのプロジェクト運営(マネジメント)に関する課題設定である。ここを勘違いし、目的をもたないままで、手段を目的としてプロジェクトマネジメントの改善をしても成熟度の向上は期待できない。

◆目的としてのプロジェクトガバナンス強化

では、成熟度の向上のためにどのような目的の設定をすればよいのだろうか?上に述べた事例のように、自社・自組織の課題を設定するという方法がひとつの方法である。

実はこの議論は、プロジェクトやプロジェクトマネジメントをシステムとみなしたときに、それらをよい方向に持っていくための「レバレッジ」は何かという議論である。

一般的に考えた場合に、プロジェクトマネジメントの改善の最大のレバレッジは「プロジェクトガバナンス」である。次回は、この話をしよう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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