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第40回 プロジェクトガバナンスと成熟度(2009.12.08)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆成熟度、再考

前回、成熟度向上のレバレッジが「プロジェクトガバナンス」にあるというところまで話をした。今回からこの話を考えてみたい。

そもそも、成熟度とは何だろうか?この議論、分かったようで、はっきりしない部分がある。ゴールもはっきりしているようで、そうでもない。

たとえば、すべてのプロジェクトでSQCDの目標が達成できる組織と、納期遅れやコストオーバーをする組織に比べると成熟度が高いといえるのだろうか?答えはノーだ。

こんなことを考えてみてほしい。

競合する生産財商品ラインナップを持つ2つの企業がある。Aという企業はなんとか実現できそうなスペックで事業計画通りに商品を出してくる。プロジェクトマネジメント的にいえば、SQCDの目標達成率はきわめて高い。ところが、商品の販売結果はあまり好ましくない。その原因は中途半端なスペックにある。

対象的にB社は、スペックにこだわる。事業計画に収まらないようなスペックでも、それが市場に訴求すると考えると平気で計画化する。予算もスケジュールも二の次である。そのようにして開発された商品は確実に売れる。

比較するとA社とB社ではどちらが成熟度が高いといえるのだろうか?その前に、SIプロジェクトバージョンも書いておこう。

SI企業X社は、契約前に要求仕様の検討を徹底的に行い、受注金額内で収まるような仕様を作り、契約をする。契約後はその仕様で粛々と開発を進める。要求の変更は基本的に受け入れない。開発技術は確実で、ほぼ、契約通りのスケジュールと費用で納める。顧客は一定の満足をするが、本当にほしいものではないので、結果として追加発注をしたり、あるいはベンダーを切り替える。

SI企業Y社は、契約前にあまり細かく仕様の検討をしない。RFPの粒度での見積もりで契約をする。契約後はできるだけ顧客の要求を吸い上げ、追加費用の要求や納期変更を平気で行う。顧客は開発中は難色を示すが、システムの利用を始めるとおおむね満足し、リピート発注のケースが多い。

AとB、XとYではどちらが成熟度が高いのだろうか?


◆成熟度を考える視座

この議論には少なくとも2つの視座がある。一つは、組織が商品開発に投入できる予算や、SIに投入できる要員は無限ではないということだ。これは説明の必要はないだろう。限られた予算や要員の中で、より適切な対応ができる方が成熟度が高いといえる。

もう一つは、そのプロジェクトの成果はプロジェクトの目標達成だけでは決まらないということだ。いくら目標の達成ができたとしても、目標そのものが妥当でない場合、その目標を達成することにはさほどの意味はない。より適切な目標を設定している方が成熟度が高いといえる。

このように考えるとAとBを単純に比較できない。AとBが同じ戦略を持ち、同じプロジェクト評価指標をもっているとしよう。たとえば、評価指標として、戦略的価値と普遍的価値だと考えよう。

ここで、戦略的価値はどの程度、戦略実行に貢献しているかだ。また、普遍的価値は、成果の資産性とか、人材の育成とか、誰が考えても価値があると思える価値をどのくらいもっているプロジェクトであるかだ。

このとき、たとえば、戦略がホームラン勝負であれば、B社の方が成熟度が高いといえるし、ヒットの積み重ねであればAの方が成熟度が高いといえる。

つまり、プロジェクトの取捨選択が如何に経営の意志を反映しているかによって成熟度が変わってくる。言い換えると、実施プロジェクトにガバナンスが効いているかどうかによって成熟度は変わってくるのだ。これが、前回、プロジェクトガバナンスが成熟度向上のレバレッジになるといった意味である。


◆評価軸を決めないガバナンスは混乱を招くだけ

最後に指摘しておきたことは、今回、仮想的な例で述べたような状況で、そのプロジェクトの実施をどうするかという議論をしているケースが多いが、

(1)プロジェクトの評価方法
(2)評価のための価値

を決めない限り、この問題は解消しない。特に、SIのような顧客の明確な受注型プロジェクトで、評価軸の設定をせずに「顧客絶対主義」のような価値感だけでプロジェクトガバナンスをマネジメントしているケースをよく見かける。このようなやり方は、長期的には組織やビジネスを崩壊させるだろう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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