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第38回 プロジェクトと生産活動の整理をどうするか(2009.11.16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆顧客が違えば新規性がある?!

二番目の視点として、プロジェクトのとらえ方について考えてみたい。この問題はあまり注目されていないが、プロジェクトマネジメントの成熟の過程で最重要問題の一つになるのではないかと思う。

古い話になるが、プロジェクトマネジメントの普及の課程で、みんなで「ITのプロジェクトは同じパッケージを適用する場合でも、ユーザも違うし、顧客も違う。そこに新規性や不確実さがあるので、プロジェクトなんだ」というようなことを行ってきた。これは本当に正しいのだろうか?

正しいとしても、詳細設計の終わった状態からプログラムを作りあげる活動をプロジェクトと認識することが妥当なのだろうか?

こんな疑問を持つことがある。


◆製造業の開発とプロジェクトの範囲

ITに限らず、開発のプロセスマネジメントがあるところに、プロジェクトマネジメントが持ち込まれているケースが多い。たとえば、製造業を考えてみよう。

製造業の場合、商品が企画されてから、エンドユーザに使われるまでに3つのフェーズがある。

一つ目のフェーズは、企画からコンセプトデザインである。これはマーケティングのプロセスとして行われることが多いが、どのような商品を開発するかを構想する。どこまで決めるかは組織や業界によってさまざまだが、少なくともコンセプトとして、いつまでに、誰に、どのような方法で利便性をもたらすかという要求事項が決まる。いわゆる仕様まで決めてしまう組織も少なくない。「プロジェクトデザイン」といってもよい。

二つ目のフェーズは、設計(プロダクトデザイン)である。ここが開発と呼ばれることが多い。基本設計、詳細設計を行い、試作をする。試作によって、きちんと要求を満たしていることが確認できれば、どのようにそれを生産するかを決める。生産設計と呼ばれる作業である。

そして三つ目のフェーズに移る。三つは工場における生産である。


◆製造業のプロジェクトマネジメントの狙い

歴史的にみると、日本ではもっとも早くマネジメントが確立されたのは、生産のフェーズである。多くの企業は生産プロセスの標準化や生産管理、品質管理などに取り組んできたわけである。特に品質面でその中核になったのは、ISOである。そして、ISOは現場にとどまらず、設計までさかのぼって適用されるようになってきた。

プロジェクトマネジメントの普及期に多くの企業はプロジェクトマネジメントを導入した。その狙いはおおざっぱにわけると

・標準化された設計プロセスに発生するリスクへの対処
・コンセプトデザインの標準化
・企画から生産開始までのリードタイムの短縮

の3つに集約されるように思う。そして、プロジェクトと「見立てた」のは、生産設計までであり、設計と生産の間に明確な線を引いた。

ここで注目されるのは、生産活動自体のフレキシビリティは古くて新しい課題であるにもかかわらず、プロジェクトマネジメントの課題とはしなかったことだ。この背景には、生産活動に対するオーナーシップの確立、ガバナンスの確立などがあると思われる。

念のために述べておくが、上の流れは、クラフト的な製品でも工業化されていればあまり変わらない。やはり、設計と生産には明確な仕切りがある。むしろ、コンセプトデザインとプロダクトデザインの間の境界があいまいなのかもしれない。


◆ITプロジェクトの実態と創造性の向上のために

さて、ITはどうなのだろうか?実は、歴史的にみると、ITも90年代は設計と生産を分けていた。また、ソフトウエアファクトリーという概念が注目されるようになっているが、この考え方が登場したのは、80年代で、組み込みソフトウエアの世界であった。

その後、90年代になると、開発方法論のブームが起こり、ソフトウエアファクトリーという考え方は廃れていった。開発方法論はライフサイクル全般を対象としていた。そのため、ソフトウエア生産までがプロジェクトの対象になった。

開発方法論で考えたプロジェクトという単位は、「品質向上」に注目したもので、上流工程まで管理することによって現場のプロダクトの品質が上がるという思想があった。やがて、開発方法論は設計工程から品質向上のための方法論となっていく。そこに、出てきたのはプロジェクトマネジメントである。

プロジェクトマネジメントの本質は、タイムマネジメントにある。「品質は当たり前」という状況の中で、製品競争力強化の方法はリードタイムの短縮である。これは製造業における例からもはっきりとわかる。

そのように考えると、ソフトウエアの生産活動をプロジェクトに入れるのは意味のないことである。ここはファクトリーでいい。そしてプロジェクトを上流工程、できれば営業から基本設計までにとどめるべきだ。

これによって、著しく創造性が向上し、顧客の満足が向上するかわからない。つまり、ITのプロジェクトがホンモノのプロジェクトになるのだ。


ここまでの文章を読んで、ソフトウエア開発とSIを混在するなと思われた方がどのくらいいらっしゃるだろうか?実は、わざと混在している。というか、現在の実態に基づいた意見である。


◆SIはプロジェクトではできない

実は、SIであれば上のような議論にならない。生産活動がプロジェクトの中に入る理由がある。というよりも本当のSIプロジェクトはプロジェクトではできない。プログラムとして行う必要がある。この議論はまた別途。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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