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第16回 プロジェクト憲章とは何か(2009.05.18)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆顧客要求とプロジェクトリクエストの関係

前回、プロジェクトの立ち上げにおいて、組織がプロジェクトリクエストを出して、すべてのステークホルダに要求をするという話をした。

これに対して、SIベンダーの方から顧客の要求はどのように反映されるのかという質問を戴いた。次の話に行く前にこの質問に答えておきたい。

顧客の要求には2種類ある。一つはプロジェクトそのものに対する要求と、もう一つは成果物に対する要求である。プロジェクトライフサイクルの定義の仕方にもよるが、一般にはプロジェクトリクエストを出すタイミングは、受注した直後になると思われる。

これを前提に考えると、プロジェクトの進め方に対する要求は、組織(営業)がきちんと分析・整理し、契約に盛り込むと同時に、プロジェクトリクエストにも盛り込んでいく必要がある。

難しいのは、成果物に対する要求で、この時点での状況はさまざまである。顧客側がRFPを出す場合、出さない場合でかなり話が違ってくるし、RFPを出す場合でも契約時点でどの程度具体的な内容に詰めているかはまちまちである。

ということで、一概にどうだとはいえないが、重要なことは、成果物に対する顧客の要求というのは「筋論」としてはどのような位置づけのものかということである。プロジェクトが要件定義なりをして決めていくような業務プロセスになっているので、プロジェクト側の問題であると考える傾向があるが、そうではなく、これは組織が受けた要求以外のなにものでもない。プロジェクトは組織からの権限委譲によって顧客の要求を取り纏め、受けるかどうかを判断をしているに過ぎない。

つまり、顧客の要求分析という「作業」そのものはプロジェクトがやるが、プロジェクトに対して、「顧客の要求」の実現を要求するのは組織である。従って、プロジェクトリクエストというドキュメントは顧客の要求も含めて、組織がプロジェクトに要求するすべてが含まれているのが本来の姿である。

ただし、上に述べたとおり、それをプロジェクトリクエストにどのように反映させるかというのはケースバイケースである。


◆プロジェクトリクエストからプロジェクト憲章を作る

さて、プロジェクトリクエストを発行すると、そのリクエストを組織から指名されたプロジェクトマネジャーと実現性を交渉する。この際には、プロジェクトをどのような内容で行うかは決まっておらず、基本的にはプロジェクトマネジャーに対する業務命令ではない。交渉を踏まえて、プロジェクトの内容がある合意点に落ち着いたところで、それを記述した「プロジェクト憲章」を発行する。

この際に、プロジェクトリクエストに顧客の要求が含まれる場合には、リクエストの発行者である上位組織が顧客の代弁をする必要がある。


◆プロジェクト憲章の持つ意味

プロジェクト遂行上は、このプロジェクト憲章は非常に大きな意味を持つ。一つは、組織全体(場合によっては顧客やベンダーなどの外部)に対してこういう目的で、○○さんをプロジェクトマネジャーとしてプロジェクトを発足させるのでよろしくという意味を持つ。つまり、プロジェクトマネジャーが全組織的に承認されることになる。

これにより、プロジェクトマネジャーはプロジェクトリソースの確保や、プロジェクトへの協力要請などの交渉をステークホルダと行うことを組織的に承認される。これが重要なポイントである。

もちろん、これは自動的にリソースの提供を受けたり、協力を得ることを意味しているわけではないが、機能組織の中では、たとえば、部長をすっ飛ばして別の部の部長に直接、部下の協力要請をすることはできない。これができるようになる。

プロジェクト憲章を発行していない企業では、意外とこのことに気がついていないプロジェクトマネジャーが多く、人事権をほしいといっているが、人事権というのは実はこのアクセスをする権限のことにほかならないことを改めて認識する必要がある。

プロジェクト憲章が出来た時点では、どのようにリクエストを実現するかが明確になっているとは限らない。リクエストする側もそれを承知の上で合意する。従って、憲章を発行し、リソースやステークホルダにアクセスできるようになった後に、改めて、プロジェクト側からリクエストをどのような形で実現するかということを明示して、組織の承認を得なくてはならない。これが、「プロジェクトプロポーザル」というドキュメントの役割である。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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