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第12回 エンパワーメントは学びの場(2009.04.13)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


前回の続きで、エンパワーメントがうまく行かない理由について。

◆マネジメントの仕事と業績

この議論の中でもっとも本質的なことはエンパワーメントはマネジメントであるということだろう。マネジメントとは何かといえば、「人を使ってことを成し遂げること」、「人の力を借りて目標を達成すること」である。

ここまでに異論はないと思う。

ただし、これはマネジメントという仕事であって、では、責任となると結果にまつわることが出てくる。つまり、人を使うことと、成し遂げることの両立が難しいときに、どちらを選ぶかだ。

ここで難しいのは、プロジェクトスポンサーにしろ、プロジェクトマネジャーにしろ、現場からのたたき上げだと、どちらもできることが多いことだ。すると、「人を使う」ことに重点を置くべきか、成果を出すことに重点を置くべきかに悩むことになる。この悩みは多くの現場マネジャーが抱える悩みである。


◆マネジメントの業績は人材育成

この答えは難しくない。いうまでもなく、人を使うことだ。

マネジメントの成果は目標を達成することである。しかし、マネジメントの業績は人を育てることである。ここで錯覚してはならないのは、もし、スキルの低いプロジェクトマネジャー、あるいはメンバーがいたときに、その人たちが成果を挙げられないのは、その人の問題である以前に、自身のマネジメントスキルの問題だと考えるべきだということ。

さて、一般論はこれくらいにして、このあとはこの育成の問題が顕著なプロジェクトマネジャーの育成について考えてみよう。


◆経験させることは上位管理者の仕事なのか

前回、書いたようにエンパワーメントは育成のために行う。エンパワーメントと任せっぱなし&ほったらかしは違うという話をしたが、ここにもう一つやっかいなキーワードがある。それは「経験」というキーワードである。

経験がないとプロジェクトマネジャーは育たない。したがって、経験の場を与えることが育成としてもっとも重要なことである言ってはばからない上位管理者がいる。言っていること自体はそのとおりなのだが、では経験の中で上位管理者の仕事は何かというと場を作ることではない。

プロジェクトマネジャーと一緒に経験を振り返り、経験を知見や知識に変換する手助けをすることである。この部分があまりできていないように思える。上位管理者にとって経験をする場を提供するというのはリスクもあることなので、これではもったいない。また、多くの場合、上位管理者が持っている経験に基づく知見を伝える場もない。この両方の問題が、メンバーとの振り返りでクリアできる。


◆エンパワーメントは上位管理者の学びの場

さらに、重要なことは、上位管理者にとってもこれは学びの場である。例えば、こんなことがあった。ある部長が全幅の信頼を置いていた部下を重要なプロジェクトのプロジェクトマネジャーに指名したのだが、なんと、このプロジェクトマネジャーは途中で投げ出してしまった。プロジェクトはなんとか終了させ、部長とプロジェクトマネジャーは話し合いを持った。そこで、プロジェクトマネジャーが指摘したことは、部長が動かない自分の責任外のことまできちんとやらなくてはならないことへの不満だった。

部長はよかれと思って任せていたのだが、任されたプロジェクトマネジャーはそうは思っていなかった。いろいろと対話を繰り返していくうちに、自分の任せ方に問題があることに気づいた。

よくあるケースなのだが、部長クラスになってくるとはっきり言って勉強の機会はない。忙しいこともあるが、いろいろな体面がある。成長するには内省するしかない。内省の機会としてエンパワーメントという機会は振り返りに限らず、極めて重要な機会である。

特に、マネジメントの成果と業績は何かといった本質的な問題を考えるには絶好の機会である。この機会を使わない手はないだろう。

つまるところ、エンパワーメントはする方も、される方も学びの場である。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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