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第11回 なぜ、エンパワーメントはうまく行かないのか?(2009.04.06)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆責任転嫁はマネジメントコストを上げる

前回まで、プロジェクトにエンパワーするにはどのような対応が必要についてに述べたが、エンパワーメントというのは現実にはうまく行かないことも少なくない。

エンパワーメントがうまく行かないときには、自責を指向することが重要である。過去にはプロジェクトに権限委譲してうまくいかないと、他責というか、プロジェクトマネジャーの責任にしてしまっているケースが非常に多い。本質的にそうだというケースもあるのだが、エンパワーメントで欠かしてはならない視点は「育成」である。

「叱る」のはたいへん、よいことだが、それが如何なる理由であっても「責任」を押しつけてしまったのでは何をやっているのかわからなくなる。

もっと根源的な話をすれば、責任を押しつけるというのであれば、もやはエンパワーメントとはいえない。その名を借りた責任転嫁であるし、プロジェクトマネジメントのこの5年間をみれば、エンパワーメントがうまく行かないことが過剰管理を生み出し、プロジェクトマネジメントコストを増大させ、儲からないプロジェクトを作り出している。


◆同コストの残業というトリックが通用しない!?

以前も触れたが、プロジェクトマネジメントというのは、進捗報告だの、リスクトラッキングだのと、20%程度はプロジェクトメンバーの仕事になる部分がある。ここを見くびるととんでもないコストになることがある。ルールを一つ変えれば簡単に3〜5%のコストは変わってしまう。

話は脱線するが、この数ヶ月の間に、異なる会社の経営者やマネジャー3名から「これまでどれだけムダな仕事をしていたかよくわかった」という話を聞いた。いずれも残業規制がらみである。残業を規制したり、ワークシェアを始めた。これまでもなくはなかったのだが、形骸化している部分があった。今回はワークシェア的な取り組みを始めたので、形骸化という逃げ道がなくなり、本当に分担をきちんと決めたというのだ。すると、まったく入らなくなった。この分がサービス残業だった訳だが、それが表面化してきたという。

本来は、こういう話なのだ。

プロジェクトの人件費を固定費扱いにしておいて、プロジェクトのリスク計画に平気で休日出勤や残業で対応するといった対策を書いていたのではマネジメントとはいえない。それは言い過ぎかもしれないが、少なくとも「プロジェクトマネジメント」とはいえない。

故に、ルール一つで数%コストが上がるといった感覚はなかった。それが生まれてきたのはいいことだ。まず、過剰管理を改めないとエンパワーメントなどできるはずがないのだ。

◆エンパワーメントの落とし穴

その上で、エンパワーメントする側が責任を持ってことを運ぼうとするあまり陥りやすい落とし穴がある。例えば、

・任せると心配で、手間がかかるのでつい自分でやってしまう
・任せるといろいろと不備が見えて介入してしまう
・下流工程、低付加価値作業だけを任せる
・プロジェクト成功の目処が立つまで目標達成を優先し、余力ができると育成する
・任せたが、面白くないというので放棄された

などである。細かくいえば、それぞれ、そのようになる上位管理者の自責的原因と対策は異なると思われるが、おしなべて言えば、3つほどの問題に集約される。

一つ目は、エンパワーメントというマネジメントの必要性をよく理解できていないという問題である。

二つ目は、メンバーの意欲を把握して、向上させることができていないこと。

三つ目は、もっとも根源的な問題で、マネジャーとしての成果は何かという点をきちんと理解できていないこと

この3つはいずれも深刻な問題であるが、特に勘違いが多いのは一番目の問題に絡んで、プロジェクトマネジャーの育成の方法がきちんと確立されていないというか、旧態然としていることだ。

この問題は次回。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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