ラテラル・シンキングの第8回目です。
今回は、認識の偏りを生じさせる「ヒューリスティクス」により、問題解決時に発生する「思い込み」から逃れる方法である「前提を疑う」について見ていきましょう。
やり方はシンプルです。
「それって本当?」という問いかけを解決すべき問題や課題にぶつけるのです。
「前提と思われていること」「前提だと思い込んでいるこを」を疑い、抜け道や見落とし、思い違い等を探しつつ、新しい解決方法を見つけたり、課題そのものを変えたり、課題を消滅させたりするのです。
たとえば、プロジェクトにおいて達成すべき目標や、そのための制約条件が明らかにされているにもかかわらず、その実現手段が見えていない状況は少なくありません。
売上数字のような「目標」と、予算等の「制約条件」だけが決められており、その実現手段は自分たちで考えろというようなケースです。
目標と制約条件が「大前提」として与えられているのです。そのため、
「売上目標達成のために大規模なイベントをやろう」
「でも、予算は限られている・・・」
「今のご時世、予算増は難しい・・・」
「予算を増やすことではなく、知恵を出すことを考えろ!」
というような会議が延々と繰り返されることも少なくありません。
そのようなときにこそラテラル・シンキングの「前提いじり」が効果を発揮します。
これは、最近あったある健康器具の通信販売の会社での事例です。
その会社では複数の会社から様々な健康器具を仕入れ販売していました。
ほとんどの商品は問題ないのですが、特定メーカーの複数の商品のみ、医師の処方箋が必要だとされていました。そのため、その商品の注文が入ると処方箋の確認のやり取り等の通常とは違うオペレーションが発生していました。
それによる作業効率の悪化や、オペレーションミスに悩まされていたのです。
最初は業務フロー全体を見直し、システムによる対応をとの話になりました。
しかし膨大な作業になるのは容易に想像が付きます。さすがにそれは大変だと考えていたところ、ふと思いついたのが「その商品をはずせないか」とのアイデアでした。
その質問に対して、先方からは「品揃えの観点から無理です」とのお答え。
しかし、よくよく聞くと売上に占める割合は低く、利益率の観点からは売れなくても問題ないだろうとのことでした。
しばらく議論した後、「その商品を売れないようにしましょう」と提案しました。
最初はあきれていた担当の方と、その商品だけ価格を上げる、注文しづらくする、他社の方が安いですよという文言を付け加える等、一見ばからしいアイデアを真剣に話し合ったのです。現在では、そのうち一つが採用され無事課題は解決しました。
「本当に売らなければいけないの?」「品揃えとして残すとしても売上が必要か?」
と、疑問をぶつけ続けることで、極めて低コストの解決策が見つかったのです。
このような目標や制約条件等の「大前提」を疑う方法が「それって本当?法」です。
「前提に疑問を持つ」ことは、目標を達成できる、できないの議論ではありません。
「制約条件」だけでなく「どういう状態が目標を達成したと言えるのか」をも疑うことで、ロジカル・シンキングでは出てきにくい解決策を見つけ出すのです。
「それって本当?」と考えながら、質問を自分や周囲にぶつけていくのです。
「なぜ、その課題には、制約があるのか?」
「制約通りにしなくても、いいんじゃないのか?」
「制約を破ったら、どうなるの?」
「何か利用できるものはないの?」
これにより意外なアイデアや、それまでは思いもつかなかった解決策を見つけることができるのです。
ある男が、山の中腹に金貨を入れた壺を埋めていた。
働いて手に入れた金貨を少しずつ壺の中に蓄えていたのだ。
ある日、金貨を足そうと壺を掘り返してみると、壺の中が空っぽになっていた。
男が壺の中に金貨を隠しているところを見てしまった山の麓に住む女が、壺を掘り返して金貨だけを全て持っていってしまったのだ。
そのことを知った男は、どうやって金貨を取り戻しただろうか?
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山下貴史
マーケティング戦略コンサルタント。大学卒業後、大手シンクタンクへ入社。システム開発やコンサルティング業務を経て、戦略系コンサルティング会社に転職。リサーチ部門で、主に流通系をテーマに取り扱う。現在はコンサルティングファーム「IVC」でラテラル・シンキングを活用したコンサルティングやセミナーを展開。フィールドワークを分析が得意で、「人生はエンターテイメント」をモットーに、日々精進している。「世界一わかりやすいマーケティングの本」、「買う気にさせるメッセージマーケティング」、「あやしい商品が売れる、ごくまっとうな理由」など、著書多数。
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