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思考を飛躍させ、意外なアイデアを生みだす思考習慣であるラテラル・シンキングについて紹介、著者と対話ができるお楽しみコーナーがあります。第6回は、ヒューリスティクスの罠と対策

第6回 ヒューリスティクスの罠と対策(2009.06.19)

IVC 山下貴史


ラテラル・シンキングの第6回目です。

前回は「思考を縦に飛躍させる」方法として、「最終形から考える方法」ことを紹介しました。それに対応したクイズだったためか、多数のご応募をいただき、結果としてタイムスタンプの一番早い方がラテラル賞となりました。
ラテラルクイズは、今回も用意しておりますので、どしどしご応募ください。

さて、今回は、人の意思決定に大きな偏りを与え、ときにはとんでもない結論を導きだしてしまうこともあるヒューリスティクスと、その対策を見ていきましょう。

人が無意識に使ってしまっている認知の偏りや歪みのクセを知ることで、より多面的なラテラル・シンキングができるようになるのです。

ちょっと、つぎの問を考えてみてください。

*************************************

問1:「トルコの人口は2000万人より多いですか? 少ないですか?」
問2:「では、トルコの人口はどれくらいだと思いますか?」

*************************************


多くの人びとは、このような流れの質問をすると、先の質問の数字に引っ張られて数字を推測します。

実際のトルコの人口は約7000万人と中東随一の巨大国家なのですが、そのことを元々知っていたという人以外は、問題中の2000万人という数字に引っ張られ「多くて4000万程度だろう」と答えがちです。

これは、「アンカリング」と呼ばれるヒューリスティクスのひとつです。
人は、どこから手をつけていいかわからない問題を解くためのカギとして、しばしばヒューリスティクスを用います。

直面している問題を解決したり、目の前にありながら不確実である事柄に対して判断を下す必要があるのにもかかわらず、そのための明確な手がかりがない場合に、経験や感情、思い込みなどをベースに簡便に決定を行うのです。

実際、ヒューリスティクスにより、多くの場合ある程度満足のいく判断を行うことができます。完全な答えを素早く見つけられることもあります。

しかし、ヒューリスティクスは簡易版の解法なので、ときにとんでもない間違いを導きかねません。バイアスと呼ばれる認識の偏り等を生じさせてしまうのです。

また、ラテラル・シンキングにおける思考の拡がりをじゃましてしまう大きな要因でもあるのです。

それを避け、思考を飛躍させるためには、このような思考を邪魔するものの存在を知り、そこに引き込まれないようにしなければなりません。

視点や思考の変更や、他者への相談、自問自答など様々な方法がありますが、ここでは、代表的なヒューリスティクスと、それに邪魔されないための簡単な自分への問いかけを活用する方法を紹介します。


■アンカリング効果
初めに見せられた情報が基準となってしまい、その情報を元に物事を判断するようになる傾向のこと。

問:「事前に見た数字の情報に引っ張られていませんか?」
問:「その数字に妥当性はありますか?」

■確証バイアス
いったん自分の意見や態度を決めると、それを裏付ける情報ばかりを集めて、反対の情報を無視したりする傾向のこと。

問:「仮説に対して都合の良い情報ばかりを集めていませんか?」
問:「都合の悪い情報は無視していませんか?」

■現状維持バイアス
現状からの変化はプラスの可能性だけでなくマイナスの可能性があるので、現状が特別おかしな状態でない限り、そのままの状態を選択しようとする傾向のこと。

問:「前例踏襲で本当にいいのですか?」
問:「なぜ、前例を踏襲するのですか?」

■サンクコスト効果
先行投資が巨額であればあるほど、その損失を回避しようとの意識が働き、将来予測のマイナス面から背を向け、プラス面ばかりを見てしまう傾向のこと。

問:「せっかく、ここまできたのだから、と思っていませんか?」
問:「今までの努力を無駄にしたくない、という理由ではありませんか?」


皆さんも、ぜひ何か自分が判断を下そうとするときには、「思考が偏っていないか」
「思考の可能性を狭めていないか」を意識するようにしてください。

いつの間にか縛られていた業界の慣習や自身の経験等によるヒューリスティクスの存在に気がつくことで、新たなアイデアや解決策が見えてくることがあるはずです。

◆クイズ6 シリアル食品◆

食物繊維が豊富で各種栄養素を含み、その手軽さからすっかり定着したシリアル食品ですが、発売当初の売れ行きは予想に反してかんばしいものではありませんでした。

なんとかしようとスーパーの売場を廻っていた担当者は、あることに気づきます。
いそいで店員に声をかけ、ある工夫をしたところから売上が大きく伸び始めました。

さて、製品自体を変えずに売上をアップさせた方法とは一体何だったのでしょうか?

クイズへの回答はこちら   
※終了しました。

よりご応募ください。締切は1週間後、6月26日(金)24:00です。

今回の賞品は、アマゾンギフト券1500円分です!

選ばれた方の答えや、「惜しい!」という方の答え何点かは、次回に行います当選者発表の際にご紹介します。本名はちょっという人は、ニックネームで応募してください。


回答を到着順にご紹介します。ラテラル賞の発表はこちら。

  1. ・食品だと思っていなかった客が多いため、売り場を食品売り場に変えた。
    ・シリアル食品と同じ栄養量の食品を横に置き、費用・量を目で比較させた。
    ・山積みのシリアル食品を隠し、10個だけ棚に置き、「残りこれだけ!」という紙を張った。
    ・シリアル食品を食べた感想をPOPとしてつけた。
    ・ダイエット食品として売り出した。
    ・栄養素も取れるお菓子として売り出した。
    ・電車やバス、車のなかでも食べられる食品としてアピールした。
    ・牛乳とセットで食べるものだとすれば、牛乳とセットで売り出す。また、牛乳売り場に、一緒にシリアル食品を置いた。
    ・駅地下のサンプルみたいに、少しづつ商品を食べてもらう。

  2. ・あらゆる商品にシリアルをくくりつけて陳列する
    ・買い物カゴにあらかじめ1箱入れておく

    前者は、昔ドラクエ3発売時に実際にあった抱き合わせ手法ですね。
    後者は、そもそも客が離れていく恐れもあるのでオススメできません。

    って、それを言ったら前者も相当危険ですけど(笑)。

  3. 牛乳、ヨーグルト、フルーツなどの近くに陳列する。
    一緒に食べるとさらにおいしく、しかも栄養を豊富に摂取できますという提案。

  4. 売り場と陳列方法を変えた。
    シリアルを売っている場所の他に、果物や牛乳の売り場近く、またはレジ横にディスプレイすることによって、ついでに買っていってもらった。
    もしくは売り場の前に鏡を設置し、客の体型を確認させることで危機感をあおった。

  5. 商品の陳列位置を変更してもらい、買い物客の動線で目立つ位置に配置した。
    (例)入り口付近、レジ付近

  6. 初めて、回答させていただきます。
    今回、商品を買う発端となる『宣伝方法』と『購買動機』を中心に考えてみました。
    まず、発売当初の宣伝文句は「各種栄養素」についてであった為、新鮮で色鮮やかな野菜達を前に淡白な色合いのシリアルは、さほど気に留められることがなかった。そこで、「豊富な食物繊維」を強調し「ダイエット効果」を前面に押し出した宣伝方法に変更することで、スーパーの主要客である主婦のほか、若いOL達にも強烈に印象付けることができた。
    さらに、忙しい朝食時間への対応として「牛乳」をかけての素早い食べ方を提案し、売り場も「牛乳」の近くに置くことにした。これは、常日頃買う機会の多い品物「牛乳」との相乗効果を狙ったものでもある。
    以上、私なりに考えて見ましたが、みなさんいかがでしょう。。。

  7. 朝ごはんに摂れる栄養素のスパイダーグラフを
    ・御飯食
    ・パン食
    ・シリアル食
    で作った。
    そしてシリアル食なら朝に必要な栄養を十二分にとれますとアピールした。
    栄養でアンカリング。(値段、嗜好など様々な判断基準はあるはずだが)

  8. 子供が手に取りやすいように、下の段の棚に置いた

  9. 担当者が気づいたこととは・・・
    「シリアルの原材料の値段がどんどん下がってる!もっと安く仕入れられるかも!」
    で、営業部門と協力し、定期的に交渉することで、そのときの原価に見合った仕入れ値で購入することに成功。
    よって、売上個数自体は変わってないが、仕入れ値が安くなっていったので、売上が伸びていった。

  10. 売り場を変えた。
    スナックの売り場から乳製品(牛乳)の売り場へ。

  11. 菓子売り場からパン等の朝食・昼食系の売り場(あるのか?)に配置を変えてもらった。
    では当たり前すぎるか。。。
    でも、パン売り場とチーズ等の売り場(ピザも含む)と牛乳やヨーグルト売り場の配置は、どこも割りと近いですよね。
    でも、お弁当や惣菜の売り場とは、離れているケースもありますね。
    買い置き系と即食系の差でしょうか?
    プラス、カップ麺等も近場にしてくれといいと思うのは、私だけでしょうか?

  12. 当初立てた予想が間違っていた。予想を大幅に下方修正した。これにより、予想よりも大幅に売り上げ増となった。

  13. 牛乳と一緒において販売した。あるいは、食器売り場のお皿と一緒に販売した。

  14. レジ前に置いた

  15. 私が子供のころ、ケロッグは『お菓子』として売られていた記憶があります。
    ということで答えは、
    「お菓子売り場の片隅で売られていたシリアル食品を、パンや米、牛乳などの側に陳列し、その一帯を『朝食コーナー』とした。」
    です。
     喜びの言葉はこちら

  16. 健康食品のコーナーから、パンなどの朝食向けの食料品コーナーに移し変えた。
    担当者が売り場をみて店員に伝えるだけで改善できること、ということで
    売り場の変更。
    バイアスに関連するのはシリアルが健康食品であるということ。
    現在お手軽なため定着しているので朝食向けに。
    と考えました。
    売り場の変更のあたりなど、ラテラルというよりはロジカルな気がするので、回答としては不適かもしれません。

  17. シリアルがスナック売り場や乾物売り場の近くにあり、シリアルの需要があるだろう客層(例えば勤労者層とか)の目に付きにくいことに気づいた。
    そこで、お惣菜売り場や乳製品売り場の前や横にシリアル食品を並べて、売上アップしたのではないでしょうか?
    売り場の選定は、シリアル食品はお菓子ではなく、野菜などの調理が必要なモノでもないので、すぐ食べられる「お惣菜や乳製品」を考えてみました。「パン売り場」もありかもしれません。また、サラダにクルトンを乗せるので、野菜売り場の中でも「サラダ系売り場」の近くはシリアルを陳列する価値があるかもしれません。
    焼肉のタレをお肉コーナーで、お肉と一緒に置くことで大手焼肉タレメーカーにまで成長したとか。これをヒントにしてみました。あ、ヒントにしてる時点でアンカリング効果が出ちゃってますね。

  18. 日本でのシリアルの認知を考えると、朝時間が無い人やダイエット食品としてのCMやアピールがほとんどである。
    健康には良い事は分かるが、なかなか続けられないから思っているよりも需要が増えないのであると考える。
    そこで、健康に良い事をもっと明確に打ち出す為に消費者に健康に対する危機感を持たせる方向で考えました。

    一番効果的になるのは、豚インフルエンザに絡ませる事です。
    この冬も流行が予想されるインフルエンザに対し、食べる事で予防効果がありますと言い切るのは危険ですが、このような言い回しだと消費者にしっかりと伝わると感じます。

    しっかりとバランスの取れた朝食を取り続けることで体の免疫力が上がり、インフルエンザにかかりにくい体になります。

    毎朝朝食を食べている方でも、意外と栄養バランスは偏っています。
    このシリアルなら栄養バランスはもちろんの事、食物繊維も同時に食べれますので一人暮らしの方、学生の方、共働きの主婦の方にオススメです。

    というPOPを付けてみます。

    その結果、食べる事の意味が強くアピールされ、売上が上がった。

  19. スーパーの売り場を廻って何が気がつくのだろう・・・と考えてみました。
    「シリアル食品を設置している所に人が行かない」
    という事に気がついたのであれば、「人の通る場所にシリアル食品を設置する」という事が答えになるかと思います。
    牛乳コーナーの隣に設置し、シリアルに牛乳をかけて食べることを訴求する、という手もあるかと思います。
    但し、これではヒューリスティクスもへちまもありません。

    そこで、強引なアンカリング効果で回答してみました。

    シリアル発売当初というのは、40年位前の時代の話でしょうか。その当時は、高度成長時代で、アメリカの生活に対するあこがれが強かった時代です。アメリカ人の生活に対するあこがれ(アンカリング?)につけこみ、「アメリカ人の朝食」と宣伝する。

  20. ・試食会を開き、実際に食べてもらう
    ・牛乳の隣に置き場を変える等、置き場を変える。
    ・製品紹介文を商品の近くに掲載する
    ・値段を下げる
    ・販売量を減らす(売れているように見せる)
    ・おまけをつける

  21. 発売当初なので「食べ方」や「味」や「食感」がわからないので
    ■実演・試食販売する
     →牛乳を子供に飲ませたい親や、牛乳の使い方の一つとして紹介
    ■牛乳コーナーにも陳列して牛乳とセットで売る
     (牛乳嫌いの子供の母親に訴求)
    ■POPで栄養価を表示してアピールする
    ■POPで「簡単に作れる」ことをアピールする
    などです。

  22. 牛乳売り場の隣に並べた。

  23. 商品を健康食品の売り場からお菓子の売り場に移動した

山下様からのラテラル賞の発表です

3分でわかるラテラル・シンキング』著者の山下です。
「第6回ラテラル・シンキング力」トレーニングクイズへのたくさんのご応募ありがとうございました。

今回のクイズは、「食物繊維が豊富で各種栄養素を含み、その手軽さからすっかり定着したシリアル食品ですが、発売当初の売れ行きは予想に反してかんばしいものではありませんでした。なんとかしようとスーパーの売場を廻っていた担当者は、あることに気づきます。いそいで店員に声をかけ、ある工夫をしたところから売上が大きく伸び始めました。さて、製品自体を変えずに売上をアップさせた方法とは一体何だったのでしょうか?」というものでした。

すっかり身近な食品として定着しているシリアルであるためか似たような回答が多かったようです。中でも多かったのが「牛乳売場の近くに置くようにする」というものです。

さて、ここでちょっと考えていただきたいのですが「シリアルに牛乳をかけて食べる」というアイデアについてです。回答の中で指摘されていた方もいましたが、これは『シリアル発売当初』の話です。発売当初ですから、ほとんどの人はその物自体を知りません。牛乳売場の隣においても、牛乳をかけてというところまで思い至らないため、牛乳といっしょにシリアルを買うという思考にはならないのです。
その観点からは、牛乳売場の隣に置くというアイデアは、現在の私たちの生活習慣が前提となっていることに気づかれるのではないでしょうか。

実は、シリアルの発売当初はお菓子売場に並べられており、多くの買い物客の目には、新しいタイプのお菓子程度に映っていたのでした。そこで、メーカーの担当者が提案したのは、売場をお菓子コーナーから、パンコーナーへ移しましょうとのアイデアでした。

その結果、買い物客にとって「シリアルはパンと同等の物」だと認識されるようになったそうです。人びとの間に「朝食にパンを食べる代わりにシリアルを食べてもいいのだ」という認識が生まれるようになったのです。
ここでポイントとなるのが「牛乳売場の隣」ではなく「朝食売場に」ということです。

ということで、今回は「朝食」、「菓子」、「パン」等のキーワードが入っている「15 uio」さんをラテラル賞とさせていただきます。「11 よし」さんと、どちらにするか迷ったのですが、「その一帯を『朝食コーナー』とした」というところまで書かれていたところで決めさせていただきました

ところで「ラテラルというよりはロジカルな気がするので」「当たり前すぎる」等のコメントがありましたが、そんなことは気にする必要はありません。自分で思考の拡がりを制限するのは、とてももったいないことです。ぜひ、ブレストをやるような気持ちで「それはおもしろい!」、「では、これはどう?」、「こうしてもいいかも!」と言った具合に思考を拡げていただければと思います。

ラテラル賞のチャンスは皆さんのそばにあります。次回もどしどしご応募ください。

ラテラル賞受賞の「uio」様からの喜びの言葉

問題を読んだとき、子供の頃('70年代)母親に、TVCMの影響からだと思いますが、

「朝ご飯をケロッグにしたい」と訴えたところ、
「あれはおやつでしょ」と却下されたことを思い出しました。

そして現在、我が子は時折、朝ご飯にケロッグなどのシリアル食品 を食べている。
そういえば、スーパーの売り場も変わったなぁ・・・
と、そんな感じで、過去の記憶と現状との差異を回答としただけで、『発想』というのもおこがましいのですが、
なんとそれが賞をいただくことになり恐縮です。
これからも楽しみにしております。
ありがとうございました。

著者紹介

山下貴史

マーケティング戦略コンサルタント。大学卒業後、大手シンクタンクへ入社。システム開発やコンサルティング業務を経て、戦略系コンサルティング会社に転職。リサーチ部門で、主に流通系をテーマに取り扱う。現在はコンサルティングファーム「IVC」でラテラル・シンキングを活用したコンサルティングやセミナーを展開。フィールドワークを分析が得意で、「人生はエンターテイメント」をモットーに、日々精進している。「世界一わかりやすいマーケティングの本」、「買う気にさせるメッセージマーケティング」、「あやしい商品が売れる、ごくまっとうな理由」など、著書多数。

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