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顧客が欲しいものはすでに具現化されているもので、イノベーションで生まれる成果は顧客に聞いても分からない。顧客の声に対する対処は本質的な要求を探し出し、その要求に応えるイノベーションを考えていく。それが顧客を最大に満足させる方法である

第79回 イノベーションで顧客の声をどう扱うべきか(2015.04.22)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆顧客の声がイノベーションに与える影響

顧客の声がイノベーションに与える影響の評価は難しい。イノベーションのジレンマで指摘されたように、顧客の声に応えて、インクリメンタルイノベーション(持続的イノベーション)を行っているうちにイノベーションの成果が顧客のニーズを超えてしまい、顧客は別の側面に目を向けるようになり、そこで破壊的イノベーションに負けてしまうというように、顧客に振り回されることはイノベーションにとって望ましいことではないと考えられている節がある。

スティーブジョブズが言ったといわれる、顧客は自分が何が欲しいか知らないという顧客の評価もある。これは、顧客が欲しいものはすでに具現化されているもので、イノベーションで生まれる成果は顧客に聞いても分からないという意味だ。

ただ、一方で、現実には顧客の声がきっかけになってイノベーションが起こることも少なくない。

そのように考えてみると、イノベーションにおいて顧客の声をどのように扱うかは一つのポイントであることは間違いない。この連載でも触れたようにイノベーションを顧客の要求に対するソリューションとして企てるべきか否かという議論もある。これまでにも顧客の声についてはいろいろと書いてきたが、今回は別の視点から考えてみたい。


◆顧客の声の意味を考えてみる一つの例

それは顧客の声にどのような意味があるかという議論だ。第31回の

自分の使いたいものを作る

に書いたが、顧客は自分の欲しいものを求めているわけではない。製品で考えると複雑になるので、こういう例を考えてみよう。顧客が「白いペンキで壁を塗ってほしい」と頼んだとしよう。いわゆる要求である。

ここで「はい、わかりました」といっていたらイノベーションは起こらない。必要なことは、なぜ、そういう風に言ったかだ。WHYだ。

それを顧客に聞いてみたら、壁が汚れて汚いからだという。顧客は壁がもともと白かったことを知っているので、白く塗ってほしいといったに過ぎない。言ってしまえば自分の欲求を実現する方法を知らないだけだといってもよい。ところが、本当に壁を白いペンキで塗ってしまうと、そこだけまっさらになり、他の部分の汚れ方とのバランスが悪く、満足な出来にはならない(たぶん)。顧客の声とはこういうものだ。


◆真の顧客の要求からイノベーションは生まれる

問題はここからだ。では顧客は本当はどうしてほしいのか。これについては正解はない。常に新しくあってほしいと思っているのかもしれないし、ひょっとすると汚れを目立たないようにしたいのかもしれない。

これは本質要求と呼んでいるものだが、真の意味での顧客の声である。本質要求を満たそうと思えば、その具体的な方法はたくさんある。その中に、今はできていないイノベーティブな方法も潜んでいる。

顧客の声に対する対処としては本質的な要求を探し出し、その要求に応えるイノベーションを考えていく。それが顧客を最大に満足させる方法である。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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