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これまで事業会社はテクノロジーの部分はITベンダーに頼ってきたからITとビジネスを同じ視点で同時に見ることができない。また、テクノロジーとビジネスの統合はコンセプトレベルの組み合わせであるが、コンセプチュアルが欠如している

第65回 ITイノベーションについて考える(2014.12.17)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆2つのITイノベーション

この戦略ノートも今回で65回になるが、ITイノベーションについての議論を避けてきた。別途、まとまった記事を起こしたいと思っていたからだが、難しくなってきたので戦略ノートで少しずつ議論していこうと思う。まず、今回は全体像を明確にしよう。

ITイノベーションという言葉はあまり意味が明確ではない。テクノロジーを使ったイノベーションであることは間違いないが、大きく分けると2つの考え方があるように思う。一つはイノベーションの文脈自体は経営(戦略)にあり、戦略をテクノロジーによって実現するという考え方である。つまり、戦略上必要なビジネスモデルのイノベーションなどを、テクノロジーを使って実現しようとする考え方だ。これをITイノベーションと呼ぶことにする。

もう一つは、テクノロジーのポテンシャルに注目して、イノベーションを起こし、新しいビジネスやビジネスモデルを創出していくという考え方である。この場合、経営戦略そのものがテクノロジーを活かしたものであることが求められることになる。言い換えると、テクノロジーが経営戦略をつくっているといってもよい。これをテクノロジー主導ITイノベーションと呼ぶことにする。


◆日本のITイノベーションの例

日本の企業がITイノベーションだと言っているのはほとんど前者であるが、グーグルやアマゾンといった米国企業は後者が中心になってきている。たとえば、クラウド・コンピューティングは経営のパラダイムを変えるテクノロジーで、クラウドの登場以来、経営もビジネスもサービスも大きく変わってきている。

日本でいえば、そのようなテクノロジーの一つにi-modeがあったが、国内の展開に留まっているうちに、グローバルなインターネットの流れの中に飲み込まれてしまった。またITではないが、同じような役割を果たしているものに宅配便のような小口物流がある。ヤマトの宅急便によって日本の経営やビジネスは大きな影響を受けている。

後者のタイプの場合テクノロジーの位置づけに注意しておいてほしい。クラウドを例にとれば、クラウドというテクノロジー自体もイノベーションであるが、ITイノベーションはクラウドを使って新しい価値やビジネスモデルを生み出すことである。


◆テクノロジー主導に移るITイノベーション

世界的な流れとしては、ITイノベーションは前者から後者に移ってきている。そこで起こってきていることはテクノロジーの開発はオープンにするという方法である。クラウドを考えてみれば分かるが、テクノロジーをインフラサービスとして提供するサービスはあるが、ビジネスからみればテクノロジーは競争優位源泉にはならない。競争優位源泉はあくまでも使い方、言い換えるとビジネスやビジネスモデルである。

さて、このような流れの中で、なぜ日本企業は後者のタイプのITイノベーションを起こすことができないのかが問題になっている。いくつか原因がある。


◆ITイノベーションができない3つの理由

一つは、パラダイムを変えるようなテクノロジーに常にただ乗りしてきたという経緯であることだ。クラウドもそうだが、主に米国が開発する技術を輸入し、使い、経済成長をすることに終始してきた。このため、それぞれのテクノロジーの本質、言い換えるとそのテクノロジーがビジネスパラダイムを変える可能性を理解できていない。

この問題はこれから別の意味で深刻になってくると思う。テクノロジーがオープン化し、テクノロジーの進歩に貢献しないものは使う資格を持たないという状況に追い込まれる可能性があるからだ。

二つ目はITへの取り組みへの体制の問題だ。これまで事業会社はテクノロジーの部分はITベンダーに頼ってきたからだ。前者のITイノベーションはそのような体制で十分かもしれないが、後者のITイノベーションには対応できない。ITとビジネスを同じ視点で同時に見る必要があるからだ。

三つめはコンセプトの欠如だ。これは一番目の問題と深く関係するが、活用する既存技術についてコンセプトまで理解できていないことが多いし、自分たちで開発した技術でもコンセプトが作れない。

テクノロジーとビジネスの統合はジャストアイデアの具体的な組み合せではなく、コンセプトレベルの統合から始まることが多い。たとえば、グーグルを見ていればよく分かると思う。具体的な組み合せについては高い創造力を持って創意工夫するが、コンセプトレベルの組み合わせになると考えが及ばない。これは創造力の問題ではなく、コンセプチュアルスキルの問題である。あまりにも即物思考すぎるのだ。

このような壁を乗り越えて、後者のITイノベーションを実現していくことが求められている。その方法を議論していきたい。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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