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ダイソンのイノベーションのやり方は非常にシンプルで、製品の目的(コンセプト)を明確にし、製品が本来もたらす効果を実現するためにすべきこと(エンジニアリング)を行うことによって正しく動く製品を作ること。明確なコンセプトがある

第64回 コンセプトをイノベーションする(2014.12.03)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆吸引力が落ちない掃除機

第24回にダイソンのことを書いたが、以前、ダイソンの創業者であるジェームズ・ダイソン氏の講演を聞いたときに印象に残った言葉ある。それは、

「Make it work properly(ものが正しく動くようにしろ)」

という言葉だ。第24回の記事を読んでもらうと、ダイソンがいかにこの考えを実践しているかがよく分かると思う。

【イノベーション戦略ノート:024】続・模倣によるイノベーション~ダイソン掃除機

ダイソン氏が偉大なところは、「掃除機の吸引力は落ちるものだ」という常識を受け入れなかったところにある。もちろん、吸引力が落ちるというのは正しく動いていないからに他ならない。これがイノベーションにつながった。


◆イノベーション=コンセプト+エンジニアリング

ダイソンのイノベーションのやり方は非常にシンプルで、製品の目的(コンセプト)を明確にし、製品が本来もたらす効果を実現するためにすべきこと(エンジニアリング)を行うことによって正しく動く製品を作ることである。

プロダクトアウトの時代は終わったといわれるが、ダイソンのやっていることは紛れもなくプロダクトアウトであり、プロダクトアウトによるイノベーションである。それが世界中で受け入れられている。

そんな例は少なくない。よく知られているのは、アップルだ。ジョブズが去ってアップルは変わったといわれるが、この点は変わっていない。

アップルの発明したスマートフォンは、今では高価なものから廉価なものまでさまざまであるが、おそらく、スマートフォンの正しい動きを知っているのは今でもアップルだけなのではないかと思う。だから、アップルとそれ以外は似て非なるものなのだろう。

この2社に通じることは、製品コンセプトが極めて明確なことであり、コンセプトの実現に妥協がないことである。これはイノベーションにおいて極めて重要なことである。


◆明確なコンセプト、曖昧なコンセプト

ここで問題になるのは、コンセプトの明確さである。ダイソンの掃除機のコンセプトは「吸引力の変わらない」ことである。これは非常に明確なコンセプトであり、正しく動いているかどうかは一目瞭然であり、実現できればコンセプトで継続的な優位性を持つことができる。また、コンセプトにそぐわないものはすべて削り、シンプルで、骨太な製品ができる。

ところが、そのあとで登場した国内メーカーの掃除機のコンセプトは、小型化、軽量化、静音化、クリーンな排気などといったものが目につく。これがコンセプトかという気もするが、コンセプトだとしても曖昧である。これでは正しいエンジニアリングをすることはできない。

つまり、コンセプトによる継続的な優位性は生まれないので、顧客の声に応じて、次から次へと目新しい機能をつけていく。そのうちに、どんなコンセプトの製品だったのかすらわからなくなってしまう。


◆具体的だから明確だというロジック

このように考えてみると、日本人はコンセプトを考えるのが苦手だといわれるが、自分たちが提供している製品や技術、機能の本質は何かということをあまり考えていないと思われる。

「吸引力の変わらない」ということを極めて機能的に捉え、これに付加価値をつけて市場を獲得していくという方法をとっている。これはキャッチアップの時代に行われていたことだが、サイクロン掃除機をみると未だに行われている。

この問題は深刻な問題である。日本のエンジニアは具体的であることに拘る。従って、「具体的なコンセプト」といった言葉を使ったりする。上の掃除機のコンセプトの例はそれに近い。

しかし、コンセプトというのは本質的に抽象的なものである。具体的であることと明確であることは違う。抽象的で明確なでなくてはコンセプトではない。このあたりが日本人はコンセプトを作るのが苦手といわれる所以だろう。


◆コンセプトレベルでイノベーションする

イノベーションで成長していくには、コンセプトレベルでイノベーションする必要がある。たとえば、「吸引力の変わらない」というレベルで競合を凌駕する製品を開発していく必要がある。たとえば、掃除機に、3Dコンセプトというのがある。

「Dull(つまらない)」「Dirty(汚い)」「Dangerous(危険)」な作業はロボットに担当してもらう

というコンセプトだ。コンセプトレベルでイノベーションするというのはこういうことだ。残念ながら、日本の企業ではなかったが。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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