第24回 続・模倣によるイノベーション〜ダイソン掃除機(2014.01.22)
◆ダイソン氏の気づき
23回に模倣によるイノベーションという記事に、カンバンはイノベーションかもしれないが、ジーンズ眼鏡はイノベーションではないだろうという意見を貰った。ジーンズ眼鏡もイノベーションだとは思うが、もう少し、インパクトのある例を紹介しよう。
実は、23回で書きかけて止めた事例がある。みなさんがよくご存じのダイソンのサイクロン式掃除機の事例だ。この事例が画期的なイノベーションであることは、当初の価格や普及の度合いから間違いないと思うが、この事例は典型的な本質の模倣でイノベーションが生まれた事例である。技術の絡む話なので、書いていたら話が複雑になりすぎてやめたのだが、もう一度チャレンジする。
ダイソンのサイクロン式掃除機が生まれたのは、ジェームズ・ダイソン氏の既存の掃除機への不満からというのはよく知られている。ダイソン氏が掃除機を使っているうちに集塵パックの目を通過したホコリが外に出て行くため、長時間使っていると集塵パックが目詰まりを起こし、ゴミを吸い込む力が弱ってくることに気付いた。
◆問題の本質を見抜く
普通であればこの問題は、フィルターの問題としてとらえ、フィルターを改良する。事実、多くの技術者たちは如何にフィルターの機能を上げるかを考えていた。しかし、よく考えてみると、集塵式の掃除機というのは相当枯れた技術であり、そう簡単に改良できるものではない。そう考えると、フィルターに問題の本質があるとは思えない。そのように思うかどうかがエンジニアとしてのセンスだろう。
ダイソン氏はそう思ったのだろう。問題の本質は空気とホコリを分けることであり、手段はフィルターである必要はないと考えた。
そう考えたときに思い当たったのが、製材所でおがくずを吸い取るために使われていたサイクロン技術だった。製材所におがくずを集塵する円錐型の集塵装置があり、おがくずを含んだ空気が高速で吸い込まれていく。このとき、円錐型のコーンに空気の渦(サイクロン)を作り、遠心力でおがくずは外側に押しやられ、さらに重力でコーンの下方に落ちていく。空気は上方に抜け、おがくずは下のじょうろへ落ちていく。このような原理で空気とおがくずを分離する技術がサイクロンである。この原理を掃除機の集塵に適用し、遠心分離方式の集塵装置を開発したというわけだ。
これが通常の2倍の価格にも関わらず、センスの良いデザインも相俟って世界中で大ヒットとなったダイソンのサイクロン型の掃除機である。
◆既存の技術の組み合わせとは
イノベーションはよく既存の技術の組み合わせで生まれるという。この言葉から、アップルがiPhoneでやったような理想的な商品イメージを作り、世界中から技術をかき集めてきて実現するというアプローチを思い浮かべる人が多いと思う。確かに、これも技術の組み合わせである。
しかし、それ以外にも、技術そのものではなく、技術のアイデアを集めて組み合わせ、製品技術に落とし、製品を作っていくという組み合わせによるイノベーションのアプローチもある。このようなアプローチでは商品イメージよりも、コンセプトが重要になってくる。
サイクロン掃除機の例はその典型だといえよう。ダイソン氏は、従来の掃除機の問題の本質を見抜き、空気とほこりを分離する掃除機というコンセプトを打ち立てた。
このコンセプトがあったので、製材所の集塵装置に着目できた。そして、従来の掃除機の技術とこの技術からまったく新しい掃除機を創り上げた。
そして、この空気の制御する技術をどんどん発展させ、羽のない扇風機・エアマルチプライアーなどを生み出している点も注目に値する。
その意味で、この事例は、模倣によるイノベーションの定石と言ってもいいだろう。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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